◇154 テーマパーク開園に向けて
「例のテーマパークとやらだけど。ハルモニアの中に作るより、外に作った方がいいかと思うんだ」
「外に?」
どゆこと?
首を傾げる私に、お父様は羊皮紙に描かれた領都ハルモニア周辺の地図を机に広げた。
フィルハーモニー公爵家の領都・ハルモニアは湖の中にある大きな島の上に作られている。
湖のほとりにも市民街があり、そこから大きな橋で島とは繋がっているのだが、その市民街に作ろうってこと?
「いや、そこじゃなく、中央島の横に新たに島を作って、そこに建設したらどうかという話なんだ。サクラリエルのいう『テーマパーク』というものに、どれだけの土地が必要なのかもわからないし、周囲の住人に迷惑がかかる可能性もあるからね」
「あー……確かに」
地球のテーマパークも新たなエリアを増設したりしてたしなあ。あと、近隣からの苦情も領主だからって無視するわけにもいかないだろう。
完全に独立した場所の方が好き勝手できるかな。っていうか、島を作る……?
「あの、島なんか作れるんですか……?」
「土魔法と水魔法が得意な者を何十人か雇えばできないことはないよ。もちろんその後の建設に関しても働いてもらうつもりだけど」
お父様がサラッと言うが、それってけっこうな金額になるんでは……?
魔法を使える者は基本的に貴族に多い。家督を継げない嫡男嫡女以外の者が、魔法を使う仕事に就くことはよくあるが、総じて依頼料は高かったはずだ。
土木建築にしたって、何十人という労働者を雇うより、土魔法使い数人を雇う方が高かったりする。
金額は高いが、その代わり、作業は早く終わるし、なにか手違いがあってもすぐに対処できたりするから、便利は便利なんだろうけど……。
「もちろん普通に労働者も雇うよ。新しい仕事ができることはハルモニアにとっても悪くない話だからね」
「いえ、建設にかかるお金の方が心配なんですけど……。領地の財政が傾いたりしませんか?」
誕生日プレゼントにしてはちょっと、いやかなりお高いものになってしまった。
私としてはハルモニアに程近いところに建てられたらなー、くらいの気持ちだったんだが。土地だけもらえれば、後は私がお金を集めていろいろと試行錯誤して建てていく予定だったのだ。
なんかもう完全にフィルハーモニー公爵領の公共事業になってしまっている?
私が心配そうな顔をしていると、隣にいたお母様が口を挟んできた。
「はいはい、そっちはお母さんの担当ね。このテーマパークにかかるお金はサクラちゃんの召喚したお店の商品を売ったお金と、サクラ商会の売り上げたお金が使われることになっているの。領地の税金はまったく使われていないから、完全にサクラちゃんのものよ?」
「え!?」
領を上げての公共事業かと思ったら、完全に私設物件だった!
「公爵家ってそんなにお金があるんですか……?」
「あるわね。私たちもここまで売れるとは思わなかったから、ちょっと驚いているんだけど。最近ではシンフォニアだけじゃなくて、他国からの商人も買い求めに来るほどよ?」
マジか。
ある程度の儲けはあると思っていたのだが、そんなになのか……。
あんまり商売の方には興味はなかったし、お母様に任せっぱなしだったから、いくら儲けたとか金額は聞かずにいたのだけれども。
「貴族の見栄を甘く見たらダメよ? 他にはない珍しい物があれば、お茶会や夜会でこれ見よがしに自慢できるんだもの。いくらでもお金を積む人たちはいるわ」
「うわあ……」
いいのか貴族。それでいいのか? こっちとしては助かるけどさあ……。
そのお金だって領民からの税金とかなんじゃないの?
まあ、ウチみたいに自分で商会を持っている貴族もそれなりにいるからなんとも言えないけども。
領地の財布と自分の家の財布をごっちゃにしている馬鹿貴族もいるからなあ。
「一応、サクラちゃんへの誕生日プレゼントということだから、島を作る経費は私たちの私費で払うつもりだけどね」
うぐう……! とんでもないプレゼントを強請ってしまった……!
私としては誰も使ってないそこらへんの原っぱをもらえればよかったんだけども!
だけど、新しい島に作る方が見栄え的にも集客的にもいいような気はする。セキュリティ的な意味でもね。
ここは両親に甘えとくか……。将来、絶対にそれ以上の儲けを出してみせるからね!
とりあえず島の大きさや作る場所、それと大まかでいいからテーマパークのマップを作ることになった。
ううん……せっかく水場が近いのだから、流れるプールとかウォータースライダーとか、そういったものも取り込みたいよね。
何ができて、何ができないか、一つ一つ確かめる必要があるな。
こちらの世界には科学技術はないけれど、それを補って余りある魔法技術がある。
向こうの世界ではできないこともできるかもしれない。
その知識を得るためにもいろいろと勉強しなきゃならないよね。とりあえずできそうなところから手をつけていこうかな。
◇ ◇ ◇
「というわけで、こんなのできませんか?」
「あのな、嬢ちゃん。俺ぁ、魔剣鍛冶師なんだが」
呆れたような目で私を見ながら、ぐいっとお土産に持ってきた日本酒の純米大吟醸を呷るバレイさん。
鍛冶師も金属を扱う仕事にゃ変わりないじゃん。ジェットコースターとか、観覧車とか作れたりしない?
「しかしなんだ? このよくわかんねぇ乗りモンは……。じぇっとこーすた?」
バレイさんは私が描いたジェットコースターや観覧車、フリーフォールなどの説明書を見て首を傾げていた。
これらを作れそうな人物ってこの人以外思いつかなかったんだよね……。無理を承知で私たちはフォーコの町にやってきたのである。
「レールの上を走るんだろ? トロッコか?」
「うーん、近いけど、ちょっと違う。これはただ真っ直ぐ走るだけじゃなくて、蛇行したり、縦回転したり横回転したりするの」
「回転……? ますますもってわけがわからん……」
バレイさんが『なに言ってんだ、お前?』みたいな目を向けてきた。くう。うまく説明できないな。
そこからノートにジェットコースターの絵を描いて、どういう動きをするのか、安全のためにどういったものが必要なのかということを事細かに説明した。
「じぇっとこーすたってのがどういうものかはなんとなくわかった。だが、なんでこんなもんに乗るんだ? どこかへ行くでもなく、元のところに戻るものになぜ乗る?」
「えーっと、ドキドキするスリルを味わうためっていうか……。日常では体験できない興奮を得るため、かな」
バレイさんが本気でわからん、という顔をしている。バレイさんにもわかりやすく説明するなら……。
「……今まで味わったことのないお酒を飲む。そのドキドキと同じようなものかと」
「ふむ、なるほど。よくわかった」
わかんのかい。やはりドワーフには酒か。
「こっちの『観覧車』ってのは、高いところから眺めを楽しむものだな? んで、こっちの『ふりーふぉーる』ってやつは、落ちることでその『すりる』ってやつを楽しむってことか」
「そうそう」
「ふむ。作れるかと言われれば作れんことはない。だが、やはりこいつはワシの専門外だ。建築方面に詳しいドワーフの方がいいものを作れるだろうよ」
建築方面に詳しいドワーフ? そんな人がいるのか。
「プレリュード王国のさらに西に行った山岳地帯にドワーフの里がある。そこにいる職人たちなら、たぶん嬢ちゃんの思い描いている物を完璧に作れると思うぜ」
「なら、仲介を頼めるかしら?」
「構わんが、アイツらは金じゃ動かんぞ。まあ、嬢ちゃんならわかってるだろうが──」
「酒でしょ」
その通り、と言わんばかりにバレイさんがニカッと笑みを浮かべる。
なんだろうなあ、酒で動いてくれるならこっちとしてはありがたいんだけども、『それでいいのかドワーフ』と、矛盾した考えがもたれてくる。
まあいいや。とりあえず紹介状の代わりにバレイさんに何種類かのお酒を渡しておく。これらを呑んで、仕事を受けるかどうか決めてもらおう。
「嬢ちゃんの酒なら間違いなく飛んでくると思うがな。今からだと準備も含めて半年くらいかかると思うがいいか?」
「まだこっちの方も下準備さえできていないから、とりあえず仕事を受けてくれるかどうかの返事だけでいいよ。そこからスケジュール……予定を決めていくから」
まだ建設する土台になる島さえもできていないのだ。長期スパンで進めていく必要があるからね。
とりあえず今年中に島が出来上がって、来年から着工できればいいかなあ。
「それはそれとして、ワシに仲介料はもらえんのか?」
「……スピリタスでいい?」
「わかっとるじゃないか」
【在庫保管】から取り出したスピリタスを嬉々として受け取り、グラスに注いでぐいっと飲み干すバレイさん。よくもまあ、あんな度数の高い酒を一気飲みできるもんだ……。
「くあっ! このガツンとくる刺激が堪らん! 嬢ちゃん、あの辛いヴルストもあったら売ってくれ!」
「いや、あるけど……」
同じように【在庫保管】からホットドッグのホットソーススペシャルを取り出すと、バクリと一口で食べてしまった。そしてまたスピリタスを呷る。
「くううっ! やっぱりこの組み合わせは最高だぜ!」
バレイさんがそんなことをのたまうが、普通の人間がそれしたら、のたうち回って死ぬと思う……。
ふと、バレイさんならこれも大丈夫なんじゃないかと、【在庫保管】からハバネロを出して食べさせてみた。
「ほう! こいつはちょっとしたつまみにいいな! 肉と一緒に炒めたら美味そうだ」
ハバネロをそのままバリバリと齧って味わいながら、ご機嫌なバレイさんを見て、私はドワーフは鉄の舌と胃袋を持っていると確信した。
ハバネロなんかは除虫薬にしか使ってないし、この際だから余ってる分をバレイさんに売ってしまおう。在庫処分だ。
着々と計画は進んでいる。なんとか五年くらいで形にしたいものだけども。




