◇153 店舗召喚17
誕生日から一夜明け、目覚めた私はまたレベルが上がって大きくなった紋章を確認した。
これってたぶん、攻略対象であるアルフォート殿下と出会ったからだよねえ。
本来は学院の廊下で落とし物をした殿下にエステルが声をかけて知り合いになるってシーンなんだが……。あんまりシチュエーションは関係ないんかな……。
ここらへん、召喚の女神・サモニア様に聞いてみたいけど、神々の保養所とやらに旅行中で、九女神様も連絡がつかないみたいだし。
ま、いいや。また一店舗増えたのは喜ばしいことだ。
「サクラちゃんへ、女神様からのお誕生日プレゼントね」
とはお母様の弁。いや、単なる偶然のタイミングだと思うけどもね。
プレゼントといえば、昨日の招待客の皆さんからいろいろと誕生日プレゼントを貰ったのだけれども、まだ中身は確認していないんだよね。
この国じゃ誕生日に贈られたプレゼントはその場で開けたりはしないんだってさ。あとでゆっくりと開けて、お礼の手紙を出すんだとか。
あと、万が一に危険な物が送られてきたときの用心に、とのこと。昨日のメンバーなら大丈夫だろうけど、これも慣習ってやつかしら?
ともかくまずは新しい店を呼び出してみよう。
今日はエステルもビアンカもいないので、私と両親、琥珀さんに律、宿泊しているミューティリアさんとエルティリアちゃんのエルフ姉妹を連れて、朝食後に召喚場へと直行した。
「【店舗召喚】!」
私の中から魔力が引き出される。そこそこ大きいな。ファッションセンターよりは小さいけど、コンビニよりはでかい。それなりに広い店のようだ。
なのに、光が収まり私の目に飛び込んできたのは六畳一部屋くらいの四角いコンクリートの塊。え?
「さ、サクラリエル? これは店なのかい?」
「いえ、えっと……。ああ、そういうこと」
さすがにどう見ても店舗には見えないコンクリートの塊にはさらに四角い穴があって、その先は階段になっており、地下へと続いていた。
これは地下の店舗なのだ。店も地下に呼び出されたのだろう。
階段の手前には小さな看板があって、『billiards & Cafe Bar Break Shot』の文字が。
ここは先輩に連れて行かれたプールバーだ。
プールバーってのはもはや死語らしいが、いわゆるビリヤードができるバーのこと。
今はプールバーって言われたら泳ぐプールに併設されたバーだと思うよね。私もそう思って今から泳ぐの!? と先輩の正気を疑ったもんだ。
「なるほど、地下にある店なのか……」
薄暗いライトに照らされる階段をお父様たちを引き連れて下りていく。
階段を下りるとすぐに木製のクラシックなドアが私たちをお出迎えしてくれた。
ドアを開くと、カララン、と小気味良いドアベルが鳴り響く。
仄暗い店内にはビリヤード台が六台並び、奥にはL字型のバーカウンターと丸いテーブル席が設置されていた。壁には何本もの球を撞くキューが並び、カウンター奥には様々な種類の酒瓶がズラリと並んでいる。
「酒が……ひょっとしてここは酒場なのかい?」
「え、また酒場なの……?」
お父様はいささかテンションが高く、逆にお母様はテンションが低くなった。そりゃ酒場が立て続けに来たらがっかりするわな。
「えーっと、ここはあそこにあるビリヤードという、球を撞いて遊ぶ遊戯をする場所で、そこにカフェバー……お酒や飲み物や軽食を提供するところが併設されているお店ですね」
「居酒屋とは違うのかい?」
「居酒屋は大勢や仲間内でわいわいと賑やかに飲む場所で、こちらは一人か二人で静かに飲む場所……みたいな感じですかね?」
私もそこらへんはよくわからん。酒飲みじゃないし。バーも酒場には変わらないとは思うけども。
「静かに飲む……ね。確かに落ち着いた雰囲気の店だけど……」
お父様の言う通り、店内はクラシックな調度品で飾られている。確か1930年代のアメリカをイメージして作られたんだとか先輩が言ってたような。
ただ正直に言うと、ビリヤードをカッカッと後ろでやられて、静かに飲めるか? と言う疑問はある。
まあ、こういうところは雰囲気を楽しむような店なんだろう。
なんとなく【店内BGM】で落ち着いたジャズを流してみる。うん、雰囲気にピッタリ。
カウンターにメニュー表はあったけれど、私がカクテルとかを頼むわけにもいかないので、普通にソフトドリンクを頼んだ。
毎回思うが、こんなちょっとのジュースでこんなに取られるの……? とモヤってしまう。こういうところのドリンクってホント高いよね……。私の店はさらにそれの十倍だし。
まあ、そのお金は貧しい人たちの下に向かうと思えば飲み込めなくもない。
「この穴に球を入れるのかい?」
お父様はビリヤードに興味を持ったようだ。
「そうです。そこに立てかけてあるキュー……棒で白い手球を撞いて、的球を落とすんですよ」
先輩に教えてもらったから、私もビリヤードのルールはわかる。どれ、いっちょ見本を……と思ったのだが、くそう、身長が! 身長が足らない!
テーブルに上がるわけにもいかず、とりあえず屋敷から踏み台になりそうなものを持ってきてもらって、なんとかプレイできるようにしてもらった。なんとも様にならないなあ……。
「本来なら必ず片足をつけてないとファール……反則になりますからね?」
とりあえず単純明快なナインボールからやってみようか。
白い手玉を全力で撞く。狙い違わず一番の的球に当たり、衝撃によって弾けるように他の的球がラシャの上を走り回った。むう、一個も入らなかった。残念。
私はナインボールのルールをお父様に説明していく。
「なるほど。残っている的球の中で、一番小さな番号の球にしか当ててはいけないのか」
「はい。最初に当ててさえしまえば、そのあと他の番号の球が落ちても問題ないです。あ、手玉が落ちたり、的球に当たらなかったり、的球以外に当たったら交代ですからね」
私の番はこれで終わり、お父様の番になる。一番の的球はまだ落ちていないからそれを狙うしかないが、手球とポケットの間には邪魔な球があった。
「どうやっても他の球に当たってしまうんだが……」
「そういう時はサイドのクッションを利用して球を跳ね返らせるんです。たとえばこう打ってここに当てて跳ね返し、一番に当てるとか」
お父様は私の言う通りクッションに当てて手玉を跳ね返し、その球が見事一番に当たった。そしてその一番がそのままゴロンとポケットに落ちる。
「おっ、落ちたよ!」
「落とすことができたらもう一度打てます。今度は二番を狙って下さい」
二番を狙ったお父様だったが、当てることはできたけど落とすことはできず、私の番になる。
その後何回か交代し、お父様は四つ、私は一つの的球を落としていた。
「ナインボールは九番の球を落とした人が勝ちなんですよ。何個落としたかは関係ないんです」
「え? じゃあ最初の一回で九番が落ちたら……」
「その時点で落としたプレイヤーの勝ちですね」
「相手は何もできないで負けるじゃないか……」
うん、まあそうだね。だってそういうルールだし。
お父様が手玉をポケットに落としたのでファールとなり、私はポケット近くにあった九番の近くにそれを置いた。
コツン、と弱めに撞いて、九番の手前にあった的球に当てて、その球が九番をポケットに落とす。はい、私の勝ち。
「なるほど。こういうゲームか。これはなかなか面白いね」
ビリヤードに興味を示したお父様に、先攻後攻を決めるバンキング、クッションの入射角と反射角、フォローショットやドローショットなどを教えていると、カララン、とドアベルが鳴って、皇王陛下と宰相さんがやってきた。……またかよ、おいたん。
どっから情報を手に入れてんの? お父様が連絡したのかしら? まあ、春陽会は男性陣にはあまり関係ないから、この時期暇なのかもしれないけどさ。
「おお、なかなか雰囲気のある酒場だな! サクラリエル、邪魔するぞ!」
「ヨウコソ」
昨日もしこたま飲んでいただろうに、まだ飲むの? そんな気持ちから、私はチベットスナギツネのような顔になっていたと思う。
「クラウド、その棒は?」
キューを持っているお父様に皇王陛下が話しかける。
私がした説明をお父様が皇王陛下に話し、興味を持った二人も加わってナインボールを始めた。
「ふう……」
「お疲れさま」
カウンターに戻った私に、お母様がアイスティーを差し出してくれた。美味しい。高いけど!
ミューテリィアちゃんやエルティリアさんもソフトドリンクを飲んでいる。あんまりビリヤードには興味は無いようだ。
「サクラちゃん、このビリヤードだけど。サクラブランドで商品化して貴族たちに売り出さない?」
「え? ビリヤードをですか?」
確かにこれはそこまで難しい技術は使われていないから、こちらの技術力でも再現は可能だと思うけど。ただ、売れるかしら?
「お城や邸宅の社交場に置けば、みんな楽しめると思うわ。雪が降る冬でも室内でこういった遊びができるんですもの。必ず流行ると思うの」
ああ、社交シーズンは秋から冬にかけてだからね。外で何か遊ぶってことはほぼないのか。
お母様によると、だいたい社交場での遊びというと、チェスや双六? のようなものだったらしい。この冬は私の店で売り出したトランプや将棋、リバーシなんかが話題になったようだけどね。
ビリヤードか……。ビリヤード台はちゃんとしたやつだと安くても五十万以上はしたような。異世界でも作るとしたらけっこうなお値段になるよね……。まあ、上級貴族なら簡単に買えちゃう値段なのかしら?
下級貴族だとけっこう生活が厳しいところもあるから無理かもなあ……。
まあ、売り出すこと自体に文句はない。フィルハーモニー公爵家の為になるのなら。
それに今のうちにお金を稼いで、フィルハーモニーランド建設の資金にしなければならないしね!
「サクラリエル! 春陽会の時はこの店を出しておいてもらえんか? 妻たちを待っている貴族の暇つぶしになるからな!」
おっと、さっそくレンタル依頼だ。でも六台しかないから、そんな大人数はプレイできないと思うけど。
「居酒屋も隣に頼みます。ガーデンパーティーのようにすれば人数はなんとかなるかと」
さらに宰相さんからもそんな提案が。これはあれか? 妻の居ぬ間に羽を伸ばそうってことかい?
ガーデンパーティーとはいうが、居酒屋から飲食物は持ち出せないから、結局自前で用意しなきゃならなくなると思うよ? まあ、うちの店から毎日のように買っていってるから、お城にそれぐらいの蓄えはあるだろうけど……。
酒場が二回続けてきちゃったなあ。次はお母様たちが喜ぶような店ならいいんだけど。




