◇152 七つのお祝いに
「では、サクラリエルの七歳の誕生日を祝って! 乾杯!」
『乾杯!』
お父様の音頭によって、誕生日会という名を借りたお花見が始まった。
異界では誕生日にはケーキを食べるもの、と私が主張したため、『ラヴィアンローズ』からケーキを山ほど用意してある。
もちろんそれだけじゃなく、花見席の周りにはキッチンカーやおにぎり専門店を召喚してある。
ブルーシートの上には食べきれないほどの料理や飲み物が並び、みんな嬉しそうに舌鼓を打っていた。
「美味い! やはりサクラリエルの店の料理は最高じゃ! 半年ぶりのカレーはたまらんの!」
ブルーシートの上に座ったティファがカレーライスを口いっぱいに頬張りながらそんなことを口にする。もうちょっと落ち着きなって。
その横でティファの姉のネロさんもカレーライスに夢中になっていた。似た者姉妹め。
「半年ぶりって……前回コンビニでレトルトカレーをたくさん買っていかなかった?」
「買っていったが、母上にご馳走したところ、全部取られたのじゃ!」
「そうなんだよ! まだ食べてない種類のものもあったのにさ!」
ティファとネロさんが怒りながらカレーをがっついている。
ティファとネロさんのお母さん……メヌエットの女王陛下はかなりカレーをお気に召したらしい。それも辛口のやつを。
今回もたくさん買ってこいとけっこうな額のお金を渡されたとか。
今度はレトルトカレーだけじゃなく、カレー粉やカレールーも買っていった方がいいかもね、こりゃ。
メヌエット女王国は香辛料がたくさんあるから、カレー粉を分析すればメヌエットの人たちが好む味を作れると思うんだ。
そして完成したら皇国にも流通させてくれるとありがたい。
向こうではエリオットとリーシャがおにぎりを片手に楽しそうに会話している。リーシャの姉であるレティシアさんもその二人を微笑ましそうに……いや? エリオットに対抗するようにリーシャに話しかけては甲斐甲斐しく世話を焼いている。妹好き過ぎるでしょ……。
まあ、リーシャも嬉しそうだから問題ないか。
私もブルーシートの上に置かれたお皿からおにぎりを一つ手に取る。
やっぱりお花見といったらおにぎりだよね。ん、これは昆布のおにぎりか。ご飯に少し甘じょっぱい昆布がよくマッチしている。
ふと、リオンが梅干しのおにぎりばかり食べているのに気がついた。
「リオン、あんた梅干しのおにぎりばっかり食べて……なんで梅干しだけ取り出してんのさ?」
こいつ……。また梅干しを錬金術の触媒にするつもりだな? トロイメライ子爵家には定期的に売ってるでしょうが。少しのチャンスも逃さないってか?
というか、父親のトロイメライ子爵も同じように梅干しのおにぎりから梅干しだけを取り出していた。ダメだ、この親子。早くなんとかしないと……。
なんかあっちの一角だけ完全に酒好きの宴会場になってるな。お父様や皇王陛下まで一緒になって酒盛りしている。一応私の誕生日会なんだが……まあ、いいけど。
律の風魔法で酒の匂いはこっちに来ないようシャットアウトできてるし、音も少しは遮断しているっぽい。
完全に飲む人と飲まない人に分かれてしまったな。
けれどもこっちにも飲む人が一人。お酒じゃなくさっきからコーラをガバガバと飲んでいるのはルカの兄であるアルフォート殿下だった。
「いやあ、まさかコーラがこんなに何種類もあるとは! どれもこれも特徴的で美味しいですね! サクラリエル嬢、これらは僕でも買えますか? ぜひお土産にいただきたいのですが」
「え、ええ。後で買えるように手配します」
えー……? なんでこの人、コーラにこんなに執着してんの……? ゲームでもこんな嗜好無かったんですけど……?
メーカー違いのコーラを始め、強炭酸コーラからダイエットコーラ、レモンなどのフレーバー入りのコーラまで、あらゆる種類のコーラを飲みまくっている。
大丈夫か、この子……? 間違いなく太るぞ? 顔だけはいいのに、相変わらず暴走しがちのポンコツだな……。
まあぷくぷく太ってもそれなりにイケメンになりそうだけどさ。
いいの、これ? と、ルカの方に視線を向けると、無理、と言わんばかりのため息をつかれた。妹が匙を投げた……。
飲むのを一旦やめさせようと、私はコーラ味の飴をアルフォート殿下に差し上げた。
これで飴を舐めている間は少なくとも飲むのをやめるだろう……。
「うん! この飴を舐めながらコーラを飲むと、さらに美味しい気がしますね!」
違う! そうじゃない! このポンコツめ!
この人が次期国王って大丈夫なのか、プレリュード王国……。
でもゲームではポンコツではあったけど、かなり優秀でもあったんだよな、この人……。
成績も身体能力も気配りにも優れていて、さらに美形なものだから、完璧な王子様に一見は見えるんだよ。
時折り暴走しがちなのが欠点でね……。間違いなく今現在は暴走している状態だよな……。
もういい、コーラ馬鹿はほっとこう。私はさりげなくアルフォート殿下をエリオットら男子グループの方に押し付け……もとい、紹介して、ルカたちの下へ戻った。
「なんというか……変わった御仁じゃの、ルカの兄上は」
「みんな、お兄がごめん……。国を出てからコーラを全然飲めなかったから、きっと嬉しくて弾けてるんだと思う」
「弾けてる……炭酸なだけに?」
みんなから『なに言ってんの?』って目が向けられた。いかん、スベった。
そういえばコーラって、昔はコカの葉なんかが使われてたものもあったんだっけか? ……今のコーラは関係ないよね? ひょっとして異世界人にだけ効く成分が……いや、それだったら他の人にも効いてるか。
結局は個人の嗜好なんだろうね。ハマってしまったってやつだ。ティファの母であるメヌエット女王陛下もカレーにハマっているらしいし。
「そういえば、サクラリエルよ。我らに新しい店を見せてもらえんかの。それを楽しみに来たのじゃが」
ティファがそう口にすると、我が意を得たりとルカもこくこくと頷く。
うーん、といっても秋涼会以降で喚び出せるようになったのって、楽器店と居酒屋だけなんだけれども。
まあいいや、二店舗とも召喚しちゃうか。居酒屋はあそこの酔っ払いどもを押し込めるのにちょうどいいし。
とりあえずお父様に許可をもらって、楽器店『オールディーズ』と居酒屋『春夏秋冬』を召喚した。
「相変わらず異界の店は変わっとるの。なんじゃこの赤いランプは? 紙でできとるのか?」
「すごい。見たことのない楽器がいっぱい」
ティファは居酒屋の方を、ルカは楽器店の方が気になっているらしい。
居酒屋を喚ぶやいなや、酔っ払いどもは吸い込まれるように店に入っていった。まったく……。
まあいいや、私たちは楽器店の方に……あ、そうだ。
「パメラ先生、一曲頼めますか?」
私はケーキに舌鼓を打っていたパメラ先生に演奏してもらうことを提案した。エレキギターを知らないルカたちには、実際にその楽器の演奏を見てもらったほうがわかりやすいし。
パメラ先生はあっさりと引き受けてくれたけれども、私も歌うように言われた……。ええ……? お誕生日会って普通、招待客に主役が歌ってもらえるものじゃないの……? いやまあ、歌うけどさあ……。
パメラ先生が弾いてくれた曲は、日本が誇るロックバンド、BUMP OF CHICKENの『天体観測』だった。
小気味良いギターのイントロから始まるこの曲は私も大好きだから、ついノッてしまった。
聴いたことのないエレキギターのサウンドと歌に、招待した国外組は度肝を抜かれていた。
日本語で歌っても、異世界の人たちには言葉の意味は通じない。言葉の意味はわからなくてもこの熱い思いが届けとばかりにシャウトしまくった。
ジャーン、と演奏が終わると、国外組から大きな拍手が送られた。
「すごいのう! まるで雷が落ちたような音じゃ! 歌詞の意味はわからんかったが、サクラリエルの歌もよかったぞ!」
「それが手紙に書いていた、えれきぎたー!? 私も欲しい!」
ティファとルカのテンションが爆上がりだ。だけどもルカにエレキギターは難しいかもしれない。
腕前とか技術とかそういったことではなくて、電源的に。電池を売ったところですぐ無くなってしまうからね。まあ、練習するだけなら四六時中アンプに繋ぐ必要はないんだけどさ。
電気のいらない魔導具のエレキギターを作る計画はあるらしいんだけども、そんな一朝一夕にできるもんじゃないからね。
まあ、それでも欲しいとルカが言うから売るけども、誰に教えてもらうつもりだろう? エレキギターを弾ける人なんてプレリュード王国にいないよね?
「いえ、王国にも宮廷楽師はいますし、実際に曲を聞けば弾けそうな楽師も何人か思い当たります。サクラリエル様のカセットテープに曲を録音して、向こうの楽師に聴かせれば大丈夫かと」
私の疑問をパメラ先生が解決してくれた。まあそれなら大丈夫なのかしら?
楽器店に入ってルカにキッズギターから種類と好きな色を選ばせる。と、いってもそれほど種類は無いのだけれども。悩んでいたが、結局ルカはアイスブルーのストラトキャスターを選んだ。
ティファも面白がってはいたが、ギターよりハーモニカの方が気に入ったらしく、パァーパァー鳴らしている。ちょっとうるさい……。
リーシャもエリオットに連れられて楽器を楽しそうに見ていた。
こっちのギターなら電源はいらないよ、とアコースティックギターを薦めると意外や意外、リーシャよりレティシアさんの方が気に入ったようだった。
パメラ先生がそのギターでジョン・デンバーの『Take Me Home, Country Roads』を弾くのを聴いて、買うのを即決していた。
帝国にも似たような楽器はあるらしい。リュートやマンドリンみたいなやつかな?
アルフォート殿下もこれが気に入ったとベースギターを買い求めていた。ルカと一緒に弾けると聞いて決めたらしい。同じくベースを習っているエステルとリオンにいろいろとコツを聞いている。
エリオット、ジーン、リオンの三人は、今年からそれぞれエレキギター、ドラム、ベースを習っていて、ある程度は演奏できるようになったようだ。
そこからはパメラ先生の提案で、私たちは軽いセッションを楽しんだ。いつもと違うメンバーと音を合わせるのもなかなかに面白い。
こうして私は七歳の誕生日、そしてこの世界での初めての誕生日を楽しく過ごすことができた。
■『桜色ストレンジガール』第三巻、本日発売です。
よろしくお願い致します。




