◇151 春うららな誕生日
■二話更新してます。
皇都に春がやってきた。
芽吹く木々と草花、暖かな日差し。人々も活気に満ちて、足取りも軽く、まさに春爛漫、といったところである。
我がフィルハーモニー公爵家の広い庭園の片隅にあるたくさんの桜も、すでに満開となってその姿を咲き誇らせていた。
そんな桜を見上げることもなく、朝早くからうちのメイドさんや使用人さんたちは、宴の準備に大忙しだった。
なんの宴かって? もちろん私の誕生日会の、である。
前世と合わせると二十六歳の、いや、今日で二十七になったのか……まあ、アラサーに片足突っ込んでる私からすると、誕生日会ってのはどうにも気恥ずかしいものがあるのだが。
「お嬢様、本当に椅子もテーブルも用意しなくてよろしいのですか?」
「うん。レジャーシートの上に座ってお花見をするからね」
私の言葉にメイドのアリサさんが微妙な表情を浮かべる。
「しかし、お客様を地べたに座らせるというのは……」
「全員親しい身内だから大丈夫よ。……たぶん」
ルカのお兄さんとか、さほど親しくもない人たちも一部いるが、まあこれくらいでキレたりはしまい。
一応、ファッションセンターで売ってた長座布団も置いてあるので足が痛くなったりはしないはずだ。
招待状にはラフな格好でいいですよ、と書いておいたし、ここにはガゼボも二つあるから、どうしても椅子がいいという人はそっちに行ってもらおう。
日本で花見といったらコンビニの紙コップや紙皿なんかが定番だが、さすがにそれは貴族としてどうなのか? となったので、そこらは普通のお皿やコップを使うことになった。質屋にあった朱塗り膳とか置けばなんとかなるでしょ。
料理はほとんど私の店から出すし、お酒や飲み物の類もそっちから出す予定。
男どもはお酒さえ飲ませておけば文句は出ないだろ……。
「サクラリエル様、ユーフォニアム男爵夫妻とエステル様がお越しになられました。それと、パメラ先生にストラム先生、それにバレイ様も」
「おっと、もう来たか」
セバスチャンが招待客の来訪を告げる。
決まりがあるわけじゃないんだけど、新年の宴の時とは逆に、こういった招待の時は身分が下の人たちから来ることになっているらしい。
上の者を待たせるな、ということなのかしら?
まあ、皇王陛下が招待客が揃うまで待たされるってのは、ホストも招待客も胃が痛くなるか。
やがてメイドさんに案内されて、私の音楽の先生であるパメラ先生と、学業の先生であるストラム老がやってきた。
「サクラリエル様、本日は御招待、誠にありがとうございます」
「サクラリエル様、このたびはお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。パメラ先生、ストラム先生」
平民といっても、お二人とも貴族の出だから礼儀作法はちゃんとしている。私もカーテシーでご挨拶だ。
「よう、嬢ちゃん。おめでとさん。酒飲みに来たぜ」
「あのね……。いやまあ、いいけど」
礼儀がなってないのはドワーフの鍛冶師であるバレイさんである。まあドワーフに礼儀作法を求めても仕方がないのでもうスルーすることにした。
本当はパメラ先生の婚約者であるジェレミー先生も呼びたかったんだけど、『学院』から呼び寄せるわけにもいかないからね。
とりあえず三人を案内してきたメイドさんに任せて、適当な席に座ってもらうことにする。
次いでユーフォニアム男爵家……エステルの家族三人がやってきた。
「サクラリエル様! お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、エステル。ユリア先生も、ユーフォニアム男爵様もようこそいらっしゃいました。楽しんでいってくださいね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「い、いただきます」
エステルはもとより、ユリア先生は私の剣術の先生でもあるから慣れたもんだが、エステルのお父様であるユーフォニアム男爵……ロバートさんはいささか緊張しているようだ。
エステルともっと話したいところだが、後がつかえているのでアリサさんに案内を任せる。
次いでビアンカのところのセレナーデ子爵家、リオンのところのトロイメライ子爵家がやってきた。
ビアンカは今日は私の護衛というよりも、セレナーデ子爵令嬢として招待している。でないと招待できないからね。
次に伯爵であるジーンのところのスタッカート伯爵家、侯爵である宰相さんのテノール侯爵家、そして隠居はしたが、辺境伯であったお祖父様がやってきた。現辺境伯の伯父様一家も一緒である。
ここらへんからはもう親族だ。コンチェルト公爵家当主である大叔母様、皇太后であるお祖母様、そして皇王陛下夫妻にエリオット、と。
ここまでが国内の招待客。
「久しぶりじゃな! サクラリエル!」
「お、お久しぶりです……」
「ティファ! リーシャも!」
メヌエット女王国からティファ、アレグレット帝国からリーシャの二人が顔を見せた。
背後にはそれぞれの姉であるネロ王女とレティシア皇女がいる。
「久しぶりだねえ。元気だったかい?」
「お久しぶりです。サクラリエル様。お誕生日おめでとうございます」
ネロさんは相変わらずのざっくばらんな態度だが、レティシアさんが前とは打って変わってすごく丁寧に挨拶をしてくれる。
年上の他国の皇女様にここまでされるとなんか居心地が悪い……。どうしてこうなった……?
「あの、普通でいいですよ?」
「いえ、リーシャと兄上の命の恩人に失礼な態度は取れません。勝手ながら私はサクラリエル様を帝国の救世主と思っておりますので」
隣のネロさんが信じられないものでも見るようにレティシアさんを凝視している。そうね、けっこうレティシアさんってキッツイ性格してたからね。
学生時代からの友人なだけに受け入れがたいものもあるのだろう。
「レティシア、アンタ熱でもあるのかい……?」
「失礼な。私は人としての礼儀を貫いているまでです」
心配そうに覗き込むネロさんに、レティシアさんが心外だと言わんばかりの表情を浮かべている。
「お姉様はサクラリエル様に本当に感謝しているのです。眠る前には皇国の方角に必ずお祈りを捧げるほどに」
「なにそれこわい」
リーシャからのこそっと届けられた情報に、私はドン引きしてしまう。ちょっと極端過ぎやしないですかね……。
「や、やあ、リーシャ」
「あっ……エ、エリオット様、お久しぶりでございます」
不意に聞こえてきた声に振り向くとエリオットがリーシャを迎えに来ていた。婚約者としてエスコートしなければいけないとでも思ったのかな?
久しぶりの再会(と、いっても半年ほどだが)にお互いちょっと照れているのか、言葉が続かない感じだ。
初々しいのう。まあ、地球なら小学一年生の恋愛みたいなもんだしね。
(生)温かい目で見ていた私の足下に突然大きな影ができる。
「エリオット、四人を花見の場所まで連れて行ってくれる? 次のお客様が来たようだから」
公爵家の真上に飛んできたシームルグのオボロを見て、私はエリオットに案内を頼んだ。
オボロを操る律には、桜の近くに降りると羽ばたきで桜が散ってしまうので、裏庭に降りるように言ってある。
オボロが屋敷の裏に消え、しばらくすると律とともにエルフのミューテリィアさんとエルティリアちゃんの姉妹がやってきた。護衛のエルフたちも一緒だ。
「皆さんよくいらっしゃいました。今日は楽しんでいって下さいね」
「御招待ありがとうございます。またご厄介になります」
「なりますっ!」
エルフの一行は春陽会が終わるまで、また公爵家で寝泊まりすることになっている。
花見の席で座っていたみんなも(特に国外勢)、突然現れた巨鳥オボロの姿にびっくりしていたが、お父様が説明してなんとか落ち着いたようだ。
おっと最後のゲストが到着したようだ。メイドさんに案内されて、プレリュード王国のルカたちがやって来た。
「久しぶり、サクラリエル」
「久しぶり、ルカ。元気だった?」
ルカとは手紙のやり取りをしているから、元気だったのは知ってるけど、まあこれも様式美だ。
そしてルカの背後にいる人物に、私は若干の緊張を覚える。
「初めまして、アルフォート殿下。フィルハーモニー公爵家が嫡女、サクラリエル・ラ・フィルハーモニーと申します」
「初めまして、サクラリエル嬢。プレリュード王国王太子、アルフォート・ゼ・プレリュードです。この度は御招待いただきありがとうございます」
カーテシーでご挨拶をして、御令嬢の微笑みでにっこりと微笑む。間違っても『呼んでねーよ!』という気持ちは表に出してはいけない。
いや、だってホントに呼んでないもん……。ルカに『お兄も行きたいって言ってるんだけど、いい?』って聞かれたら、嫌だとは言えんやんか……。ぬう、結局、私が呼んだことになるのかしら?
「今回は身内だけのパーティーでして、堅苦しいことは無しとなっております。他国の王家の方々には戸惑うこともございましょうが、お見逃し下さいませ」
勝手にそっちから来たんだから、文句は言うなよ……? 的なニュアンスを込めてアルフォート殿下に説明する。
「いえいえ、国が変われば文化も変わるものですから。『聖剣の姫君』の誕生日パーティーに招待されただけでも光栄ですよ」
相変わらずソツがない王子様だねえ。それに八歳だというのにものすごい美少年だわ。ゲームで免疫なかったら、私も隣の律のようにポーッとしちゃってたかもしれない。
でもね、私は知っている。この美形王子様が案外暴走しがちなポンコツであることを。その美形の裏に隠された、トラブルメーカーな性格をね!
触らぬ神に祟りなし。ここはテキトーにスルーするに限る。
とりあえずこれで全員が揃ったようなのでパーティーを開始するとしよう。
というか、もうすでに男どもは呑み始めているのだが。
こいつら……少しくらい待てんのか!




