◇148 テーマパーク構想
新年を迎えてからあっという間にふた月。
お茶会やら、サクラブランドのデザインやら、淑女教育やら、いろいろしていたらいつの間にか春が近づいていた。
この冬の社交界ではフィルハーモニー公爵家の話題で持ちきりだったらしい。
ひと月ほど前にも私のデザインした制服が『学院』の制服に正式採用されたという話で盛り上がったそうな。
なんでも福音王国の方でも決定稿を決められず、最終的には学院の生徒たちによる投票で決められたという。ええ……? なんでそんな大事になってんの……?
決まった制服はやっぱりゲームでの制服だった。正直言ってちょっとホッとした。
私がデザインしたいろんなところからパクった、なんちゃってファンタジー制服が採用されていたら、ゲームの制服をデザインしたデザイナーさんに申し訳ないからね。
この世界でデザインしたのが私ってことになっているのは、ほんっとうにお詫びのしようもないが。
今年の入学式には間に合わなかったが、来年の春から新制服が採用されるという。
いま気がついたけど、『学院』も春からが新学期なんだね。
アメリカやイギリス、フランスなんかでは九月から新しい学年が始まり、四月から始まる国の方が少ないって聞いたなぁ。日本含めて数国しかないとか。
九女神様たちがこの世界は地球も参考にして作ったって言ってたけど、日本のそういったところが入っているのはちょっと嬉しいかもね。
『スターライト・シンフォニー』は日本のゲームだし、女神様たちは日本贔屓なのかもしれない。私としてはありがたいことだ。
「春になったらまた春陽会ですか……」
「二回目なんだから、それほど緊張はしないでしょう?」
リビングでお父様、お母様と家族水入らずでお茶を飲んでくつろいでいる時に、春陽会の話題になり、思わず愚痴が出てしまった。
こないだ秋涼会をしたばっかりな気がするよ……。半年に一回これが来るのはいささか憂鬱だ。
「未成年者組の代表じゃなければ私だってボヤいたりしないですよ。やりたい人がやればいいのに」
伝統派のトップである、アラベスク侯爵家の御令嬢とか喜んでやるんじゃない? 地位とか権力とか好きそうだし。あ、いや、あの人は社交界デビューして、大人組にいっちゃったのか……。
「サクラちゃんもそのうち慣れるわよ。数年は同じ顔ぶれだから、気をつける人をちゃんと押さえとけばなんてことないわ」
まあ、お母様の言う通りではある。
新しく入ってくる顔ぶれは間違いなく私より年下の令嬢だし、年上の問題を起こしそうな令嬢は数年したらデビューしていなくなるわけだし。
そう考えると少しは気が楽かな……。
「春陽会にはまたプレリュードやメヌエット、アレグレットから王族の方々が来てくれるそうだよ」
「それは嬉しいですけど」
ルカやティファ、リーシャと会えるのは嬉しい。新しい店を見せてやろうっと。いや、楽器店と居酒屋は楽しめるかしら……?
「一週間前には着くそうだから、サクラちゃんのお誕生日会に呼べるかもしれないわね」
「お誕生日会?」
私がキョトンとしていると、お父様とお母様の動きが止まった。ん?
「えっ、あっ!? そうか! 記憶が……!」
「ご、ごめんなさいね! そうね、覚えていないのよね……!」
「えーっと……。話からするに、私の誕生日って、もうすぐとか?」
二人とも大きく頷く。あー……。私って三歳以前の記憶がないからな……。そもそも貧民街なんかだと、誕生日を祝うなんてイベントはなかったし。
年齢だってなんとなく三歳くらい? って感じで、三年経ったから今は六歳かな? という、全部私の予想だったわけだしね。合ってたけども。
そうだよねえ、私だって人並みに誕生日があるんだよね。
しかし公爵家に来てもう一年近くになるのにその話題が上がらなかったってことは、私は六歳の誕生日が過ぎてすぐに来たってことか。なんともタイミングの悪い……。
「そ、そうだ! 今年のサクラリエルの誕生日はパーッと盛大にやろう! 今までできなかった三年分もね!」
「ええ! 皇都に来ている貴族たちをみんな集めて、お祝いしてもらいましょう! 春陽会に負けないくらいの……!」
「待って待って! お二人とも落ち着いて下さい!」
誕生日を祝ってくれるのは嬉しいが、あまりにも派手なのは御免被りたい! 大して知らん人たちに祝ってもらって、作り笑いで大切な日を過ごすのはもったいないし、心底疲れる!
「私は親しい人たちに祝ってもらえればそれで充分です。招待するのは親戚やお友達に恩師、お世話になった方々、それくらいでいいと思います」
「そ、そうかい? ならその方がいいかな……」
「そ、そうね。それくらいの方が落ち着けるかしらね」
ふう。危なかった……。放っておいたらエリオットの誕生日パーティーみたいな規模になりかねなかったよ。
基本的にああいった誕生日パーティー的なものは、社交界にデビューをしたらやらないらしい。確かに皇王皇后、両陛下の誕生日パーティーみたいなものってなかったな。
地球でも大人になったらあんまりやらないかも。家族や友人と祝うくらいでね。でも芸能人とか有名人はなぜか誕生日パーティーをやってるイメージがあるな。
私もある意味有名人なのかもしれないが、派手なのは御免だ。
「それで、サクラリエルはなにか誕生日に欲しいものはあるかい?」
「なんでもいいのよ? 三年分まとめて貰えると思えば」
「えーっと……」
お父様とお母様がそんなことを言い出したが、そう言われてもな。
欲しいものと言われても、そこまで物欲が強い方じゃないし、必要なものはほとんど公爵家にあるし。
あ。
「でしたら……。私が育った町の貧民街に援助をしていただけないでしょうか?」
「貧民街に援助を?」
お父様の片眉が、ぴくりと動く。この場には私たち家族と琥珀さん、そしてセバスチャンしかいない。全員私の身の上を知っているから話しても大丈夫だ。
三歳の時に誘拐され、それから薬師のおばあさんといろんな町を転々としてきた。そして最後に流れ着いたのがおばあさんの生まれ故郷だったあの町である。
私は一年と半分くらいあの町で生活していた。親しいとまで言える知り合いなぞいないが、それでも困った時に助けてくれた人もいた。
ずうずうしいお願いかもしれないが、貧民街での生活は厳しい。なにかできることがあるなら、手助けをしてあげたいのだ。
偽善かもしれないけど、やらない善よりやる偽善とも言うし、貴族のノブレス・オブリージュの精神にも符合するところもあると思うんだよね。
「あの町は確かモレンド子爵の領地だったな……。他領の町に勝手に援助をするのは難しいんだよ。その領主に治める裁量がないと言っているようなものだからね」
「そうですか……」
お父様が言わんとしていることはわかる。そんなことをされたらそこを治める領主の立つ瀬がない。
皇都の貧民街では炊き出しとかできたから、いけるんじゃないかと思ったんだけどな……。
「が、手がないわけじゃない。要はそこの領主が直接援助をしたって形にすればいいのさ」
「えーっと、どういうことです?」
「『知り合いがそこの貧民街の人間に困っているところを助けてもらった。なので、礼として炊き出しなど手厚く支援をして貰いたい。費用はこちらで払う』と、領主に掛け合えばいいのさ。もちろんこちらのことは秘密にして構わないとね。領主としては懐を痛めずに自分の株が上がるし、まず断ることはないだろう」
なるほど。きちんと筋を通して、相手の面目を立ててやれば問題ないのか。
「モレンド子爵は中立派だから派閥の問題もさしてないし、たぶん大丈夫だよ。まあ中抜きされる可能性もあるから、子爵にちゃんと謝礼も渡さないといけないけどね」
仮にも公爵家、しかも皇弟から託されたお金や食材をちょろまかすとは思えないけど、悪い奴ってのはどこにでもいるからな……。
謝礼まで貰っておいて、ちゃんと援助されていなかったら子爵の信用もガタ落ちになるし、そこらへんはちゃんとやってもらえると思う。
モレンド子爵の評判はそこまで悪くないらしいし。
あの町にはおばあさんのお墓もある。いつかはお墓参りにも行きたい。今はまだ私を知っている者がいるかもしれないから、行くことはできないけれども。
あのガメついおばあさんの息子に会った日にゃ、あることないこと騒がれる可能性だってある。まあ、あんなろくでなしの言うことなんて誰も信じないだろうけどさ。
「貧民街のことは僕に任せておきなさい。それはそれとして、それが誕生日プレゼントってのはやっぱりどうにも寂しいよ。他になにかないのかい?」
「そうよ。物とかじゃなくて、してもらいたいことややりたいことでもいいのよ?」
してもらいたいこと、やりたいこと、か。やりたいことはあるにはあるけど……。
「えーっと、領都に自由に使える広い土地が欲しいんですけど……」
「広い土地?」
首を傾げる両親に、私は【在庫保管】から出した一冊の本を取り出す。コンビニで売っていた旅行雑誌だ。
そこに紹介されている世界的に有名なテーマパークの写真を両親に見せた。このテーマパークには私も何度か行っている。どういったものがあるかある程度は把握しているつもりだ。
「これは?」
「テーマパークです。娯楽や遊具、商業施設などがあり、宿泊施設なども備える、いろんな演出がされた観光施設です」
「観光施設?」
「はい。大勢の観光客を呼び、楽しんでもらってお金を落としてもらう。完成すればフィルハーモニー領の目玉となるでしょう。それを建設する場所と許可をもらいたいんです」
私がそう言うと、お父様は少し引き攣った笑顔を浮かべた。
「これはまた……ずいぶんと大きなプレゼントをねだられたもんだ」
一朝一夕に作れるものじゃないからさ。やるなら早いうちに動いておきたいんだよね。いろいろと試行錯誤もしなきゃならないだろうし。
「ええと……つまりこの『てぇまぱぁく』でサクラちゃんは遊んでみたいってことなの?」
「いえ、遊びたいわけではないです。どちらかというと運営したい、ですかね」
「運営……」
お母様が呆れたような、意味がわからないような表情を浮かべている。
「領都ハルモニアに観光客を集め、それによる経済効果で領民の暮らしを豊かにできたらと。やるなら早いうちに着手した方がいろいろと試せますし」
「ふむ……。この絵だけではよくわからないが、どういったものがあるかわかるのかい?」
「はい。まず、これがですね……」
私は旅行雑誌に載っている施設をひとつひとつ説明していった。ついでに他の遊園地にある遊具や、動物園、植物園、水族館なども。
テーマパークというからには、なにかのテーマが必要であるが、そこは『異世界』でいいのではないだろうか。この世界にない遊びや世界を感じさせるテーマパークだ。
いつかこのフィルハーモニーランドを完成させて、領都を大観光地とするのだ。
そんな野望を胸に秘めつつ、私は両親にプレゼンを続けるのであった。




