◇146 事業の展開
■『桜色ストレンジガール』三巻の予約が始まっているみたいです。来月、9/18発売予定。今月のイセスマ32巻に続いての連続刊行です。よろしくお願い致します。
フィルハーモニー公爵家で行われた『新年の宴』は大成功だった。
派閥を決めかねていた貴族たちも、皇王派についた方が利点が多いと判断したのだろう、多くの新興貴族がこちら側についた。
おそらく派閥に所属している貴族の数だけなら、トップになったと思う。
だが、数だけ多けりゃいいってもんじゃない。中には足を引っ張る貴族もいるだろうし、敵対派閥に内応する間諜のような貴族もいるかもしれないしね。
そこらへんはお父様や皇王陛下がこれからじっくりと詰めていくことだろう。
大成功といえば、あれからパメラ先生にはひっきりなしにいろんな家からパーティーへの演奏依頼が届いたそうだ。それこそ派閥関係なく。
パメラ先生自身はもう貴族ではないので、他の派閥のパーティーに演奏しに行っても大きな問題はない。
一応、親の派閥が学芸派なので、そちらを優先にはしたようだけども。
学芸派のパーティーでパメラ先生が演奏するやいなや、今度は公爵家に楽器の購入問い合わせが殺到した。
これにはお父様たちもちょっと悩んだらしい。
ドラムやシンバル、あるいはサックスなどといった楽器はいい。問題はキーボードやエレキギターといった電気を使って演奏する楽器だ。
今のところ、パメラ先生のように演奏するためには、楽器の他にアンプなどが必要になり、それにはさらに私の店の電源か乾電池が必要となるのだ。
充電式のバッテリーに私の店の電気を充電するという方法もあるけど、それは現実的じゃないと思う。
私の喚び出す店舗の中で、『質屋』、『ファッションセンター』、『模型屋』、『コンビニ』、『楽器店』の五店舗で電池は買える。
だけど売った楽器全ての電気を乾電池で全部賄うのはさすがに無理がある。
連続使用すると、アルカリ単三乾電池六本で半日も持たない。際限なく電気を使う楽器を売っていたら、そのうち電池の方が供給できなくなり、下手をすると、電池の方が楽器より高価に扱われてしまう可能性もある。
なので、その旨をきっちりと説明した上で、購入者も楽師の資格を持っている者だけに限定した。
今は楽師だけだけど、皇王陛下と宰相さんが魔導具でエレキギターなどを再現しようとしているらしいので、そちらができれば規制もゆるくなると思う。
まあ、オーナー特権で私の知り合いには譲ったけどね。エリオットとかにさ。もちろんきっちりとお代はいただきましたよ?
あの三人、本当にバンドを組んだらしく、やっぱりエリオットがギター、リオンがベース、ドラムがジーンと予想通りの担当だった。
ギターやベースはパメラ先生のバンドメンバーである宮廷楽師が教えているとか。あの人たちも凄かったからなあ。
来年の『新年の宴』で私たちと対バンするつもりらしい。受けて立ってやろうじゃないの。もっと練習しないとね。
パメラ先生の問題を解決し、ジェレミー先生へと繋がるフラグをへし折った私だが、社交シーズンはまだまだ続く。
公爵家令嬢として、行きたくもないパーティーに出席し、出たくもないお茶会にお呼ばれされ、愛想笑いの毎日に、だんだんとウンザリしてくる。
まあそれでも仲良くなった御令嬢も何人かはできたし、いろんな伝手もできたりしたので、全く無駄ってわけじゃなかったけどさ。ホント貴族って大変だ……。
「社交界ではサクラちゃんの話で持ちきりよ。美味しい料理、斬新なお洋服、楽しい遊具、面白い音楽……。皇都の最先端を走ってるって」
「複雑な気分です……」
お母様の言葉に私はなんとも言えない表情を浮かべる。
走ってるのは私じゃなくて、地球の先達たちに培われ、受け継がれた技術や知識なんだけどなあ……。
全部私の功績みたいにされるとなんともいたたまれない……。
「それでね、一つ相談があるんだけど……。そろそろ直営店を出そうかと思うのよ」
「直営店、ですか?」
はて? 直営店とは?
「現在、サクラちゃんのお店から公爵家が商品を買って、それを親しい方や皇家を通じて売ったりしているわ。また、サクラブランドで作ったものは公爵家と付き合いのある商人に任せているけど、どうしても買う人が限られてしまうのよ」
ふむ。まあそうだろうな。今の販売ルートはあくまでも貴族に売るルートだ。
私の店で売っている物は、庶民が暮らしやすくなるものも多いのだけれど、値段のこともあり、そこまで回ってはいない。
つまり、私の店の商品は話題にはなっているけど、あくまでもそれは貴族の中での話。
お金を稼ぐという目的ならばそれでもいいけど、お母様の考えは違うようだ。
「私は辺境の生まれだから、皇都から離れた地方との格差を知っているわ。そういう地にもサクラブランドの商品が届くといいなと思っているの」
私の召喚した店の商品ではなく、それを参考に作ったサクラブランドの商品を、ということだね。平民にも買えるような値段で売りたいと。
お母様の話によると、サクラブランドの量産体制は着々と整いつつあるらしい。いつの間に……。我が母ながら行動力が半端ないのよ……。
「もちろん、平民でも少し贅沢すれば買えるお値段なら、サクラちゃんのお店の商品も置いておこうとおもってるわ。きっと目玉商品になるわよ?」
「ああ、そういう……」
やっとお母様の意図がわかった。つまりは直営店でサクラブランドを扱いたいけれど、そのままではいまいちパンチに欠ける。そこに地球の珍しい商品も置いて客の目を引こうってわけだ。
なんというか商魂逞しいわ……。お母様って、貴族のお嬢様のはずなんだけどな……。平民に生まれていたら大商人になっていたかもね。
サクラブランドで作られている商品は、地球のものではなく、こちらの世界のものを使って作られている。良いものではあるが、どうしても地球のものと比べると、質や性能でやや落ちる物が多い。
まあ、中には異世界独自の素材を使い、地球のものより上質なものも作れたりするのだが、それはまだごく一部に限られているからね。
直営店を出すこと自体に私はなんの問題もない。実質中心になって動くのはお母様だしね。
「まずは領都、その次はアインザッツ領に出店しようと思うのよ」
お祖父様のところか。いや、もう伯父様が領主なんだっけ。
お母様にとっては生まれ故郷だ。いろいろとやりやすいんだろう。
「私の店の物だと、どんな物が売れますかね?」
「辺境だと華美なものより実用的な物のほうが好まれるわね。化粧品とかよりも、髭剃りとか石鹸とか……。歯ブラシとかコップとか?」
うん、それ全部銭湯で買えるやつ……。うーん、実用的な物ねえ……。
コンビニで売ってる百円ライターとか、軍手とか?
ぼったくり価格でも千円でライターが買えるなら、便利なんじゃないかな。
この世界、生活魔法が使えない人は未だに火打石だし。後はハサミとか、ノートとか。
ただなあ……。転売屋とかが心配だな。うちで買った商品を別のところで法外な値段で売るような悪徳商人が出ないとも限らない。
「それは大丈夫。売っている所が公爵家の直営店よ? そんなことをしたら公爵家に喧嘩を売っているようなものだし、買う方も馬鹿じゃなければ、教会で商売の神様に誓わせてから買うわ。それが嘘だったり、商売の道を外れているのなら天罰が下るから」
お母様がさも当然とそんなことを言うが、天罰とかおっかねぇなあ!
未だにこの世界の神様ありきの常識に私は馴染めない。散々恩恵を受けてるくせにって? まあ、そうなんですけどね……。
この世界だと、魔獣や野盗などからの護衛料とか、馬の飼い葉とか、宿賃とか、遠くまで商品を運ぶのは運送費がけっこうかかる。だから皇都から辺境に持っていくと、百円……いや、千円ライターも千円じゃ割に合わなくなるのかもしれない。
まあ、お母様の言う客寄せの目玉商品で、販促効果が望めるならそれを補って余りあるのかもしれないけど。
「それともう一つ相談があるの」
「え? まだなにか?」
「実は福音王国から公爵家にお手紙が届いてね。『学院』の制服をデザインして欲しいって……」
「は!?」
『学院』の制服をデザイン!? いやいやいや、ちょっと待って!? なんでそんな大きな案件がウチに!?
「ほら、福音王国の聖女様がいらしてたでしょう? サクラちゃんのデザインした服を見て、とても気に入ったようなの。で、その話を教皇猊下が聞いて、ぜひお願いしたいって……」
「ええ……? それって私が『聖剣の姫君』であることが関係してません?」
「うーん……たぶんね。でも新興のサクラブランドとしてはまたとないチャンスなのも確かよ。一気に箔がつくわ」
いやまあ、そうだけどさあ……。というか、『学院』の制服って、ゲームでみんなが着てたやつ? あれでいいじゃん……。別に変える必要は……あれ? そういえば『学院』の制服って、今はどんなのなんだろ?
私の頭の中に浮かんだ制服は今から十年後のものだ。ひょっとして、このタイミングであの制服になったの?
私が今の『学院』の制服ってどんなのですかと尋ねると、お母様は小さな一枚の姿絵を持ってきてくれた。
わ、これって若い時のお母様とお父様!? 十四、五歳くらいだろうか。二人とも確か今は二十四と二十五歳だったから、だいたい十年前のか。……ここから四年後には私を生むんだよね……。ホント、こっちの結婚からの出産、早すぎない……?
「十年前のだけど、今もこの制服のはずよ」
両親の着ていた制服は、私が知らない制服だった。っていうか、これって制服っていうより、ローブだよね?
過去の両親が着ている制服は、9と3/4番線から出る列車じゃないと行けない魔法学校の生徒が着てたやつみたいだ。
真っ黒いローブに胸元に校章? らしき物がある。いかにも魔法学校、という感じで、これはこれで趣があると思うけど……。
「この制服って、あまりオシャレできないのよね。ローブに全部隠れてしまうから。男子生徒なんかはローブの裏地に魔獣の刺繍なんかしてたけど」
ああ……。日本でも学ランの裏地に虎とか竜とか刺繍されたのもあった気がする。あれと同じ感じなのかな……。
「サクラちゃんならどんな制服にする?」
「どんな、と言われましても……」
これ、どうするのが正解なのかしら? ゲームでの制服でいいならすぐにでも描けるけど、それでいいのかな……? 実際はゲームのキャラデザイナーさんがデザインして描いたものなんだけど……。
それとも私オリジナルの制服にしちゃう? 現代風のブレザーとか、セーラーとかでいいなら描けるけども。
わからん。ここはそれらも含めて幾つかのデザイン案を出し、福音王国で決めてもらおう。そうしよう。
私は思いつく限りの制服や、漫画やアニメ、ゲームなどで観たファンタジー風制服などを描き、福音王国へと送った。後はそっちで決めて下さい。
丸投げ? うん、気にしない、気にしない……。




