◇129 魔法の授業
「魔法は誰にでも学ぶことができますが、やはり魔法神マジス様により『ギフト』を授かった者は他の魔法使いより強力な魔法を使うことができます。【魔力倍加】や【無詠唱】などがそれですね」
ストラム先生の話を聞きながら私はふむふむと属性について思い出していた。
この世界の人間は大なり小なりみんな魔力を持っている。
その魔力は、火・水・土・風・光・闇の六つの基本属性と、それ以外の特殊属性に分かれていて、人によりその適性は異なる。
属性がなくても魔法をまったく使えないということはなくて、簡単な生活魔法ならちゃんと習えば子供にも使えるらしい。
「この属性の適性も、授かる『ギフト』によって大きく変化することがあります。おそらく聖なる女神・ホーリィ様から『ギフト』を授かったエステル嬢は特殊属性である聖属性、召喚の女神・サモニア様から『ギフト』を授かったサクラリエル様は闇属性が強く出るものと思われます」
おおう……闇。闇属性っスか……。あんましいいイメージじゃないなあ……。
この世界での闇属性魔法って、召喚とか時間・空間、あとは精神なんかを操るような魔法がメインなんだっけか。『眠りの雲』の魔法なんかも闇属性だったはずだ。
お父様やお母様も時空の女神様から『ギフト』をもらっているから、闇属性の適性は高いと思われる。闇属性の魔法は暇を見て両親から習うか。
「各属性の適性を調べるためにはこちらの魔晶扇を使います」
そう言ってストラム先生が机の上に出したのは、細長い板が束ねられたようなもので、それを開くとまるで扇子のように扇状に広がった。
七枚の細長い板が連結する根本には水晶のような球が嵌め込まれている。
「ここを持ち、軽く魔力を流しますと……」
ストラム先生が扇の水晶部を持つと、板が鮮やかな七色に染まり始めた。
先生が持っている根本から、それぞれ色が先端へ向けて放射状に伸びているが、色によって伸び方はまちまちで、赤、青、緑の三色は七割ほどまで伸びているが、他の色は根本からほんの少ししか伸びていない。
「このように、私は火、水、風の適性が強く、他のはそれほど高くはないことがわかります」
なるほど。自分に向いている適性の色が伸びるわけか。火・水・土・風・光・闇・特殊の適性が、それぞれ赤・青・茶・緑・黄・紫・白と色ごとに光っている。
「ではエステル嬢からやってみましょうか」
「は、はい」
エステルがストラム先生から魔晶扇を受け取り、目をつぶって魔力を流す。
すると先生の言った通り、特殊属性の白色が一番先まで一気に染まってしまった。
「やはり特殊属性が群を抜いていますね。おそらく聖属性で間違いないと思われます。そのほかの属性も初級魔法までならすぐに使えると思いますよ」
エステルの扇は白色以外の属性も三分の一ほど染まっている。全属性使えるってこと? さすがは主人公といったところだろうか。
「では次はサクラリエル様で」
「はい」
エステルから魔晶扇を受け取り、軽く魔力を流す。するとやはり紫の闇属性が一気に染まり、次いで白の特殊属性が同じように一気に染まった。
だが、ほかの五属性はエステルのよりさらに低く、弱々しい光を放つだけ。これって……。
「闇属性は予想できましたが、特殊属性も大きな適性があるとは……」
ストラム先生がうむむと唸る。
闇属性は召喚の女神・サモニア様のおかげだろうけど、特殊属性は多分【聖剣】のせいじゃないかな……? あれって間違いなく聖属性だと思うし。あとひょっとしたら九女神様の加護のせいかもしれない。
「他の五属性がほとんど光ってませんが、これは……」
「そうですね……。ちょっとこの適性では初級魔法も難しいかと思います。まあ、生活魔法は使えると思いますが」
あ、やっぱり? でも生活魔法ってあれでしょ? 種火をつけるライターみたいな【着火】とか、コップ一杯の水を出す【水創造】とかでしょ? 便利は便利だけど……。
どうやら私にはそちらの魔法使いの才能はないらしい。
基本的に魔力の質とか量とかはある程度遺伝する。貴族に優れた魔法使いが多い理由もそれだ。
私も一応皇族の血を引くため、質と量に関しては同年代では並より高いらしい。
だけど適性ばかりはどうしようもない。せっかくのファンタジー世界、魔法をバンバン使ってみたかったけどね。
ストラム先生は火・水・風の魔法と、生活魔法しか使えないので、闇属性や特殊属性の魔法は他の人から教わることになりそうだ。
まあそもそも特殊属性は同じ属性の人があまりいないため、普通は自分でどうにかするしかないのだけれども。
今日はとりあえずエステルと一緒に【水創造】の練習をすることになった。
「あ、【水創造】」
エステルが生活魔法を発動させると、お皿に載せたコップの中にポタポタと水が数滴落ちてきた。雨が降ってきたかな? という程度の水でしかない。飲み水にするにはこれでは足りないな。
「初めてならこれでも上出来です。何もない状態から生み出すのはけっこう難しいので」
「コツとかってあるんですか?」
「やはり繰り返しの練習ですかね。エステル嬢、次は今の量よりも多く出せるよう意識して下さい」
「は、はい。【水創造】」
再びエステルが魔法を発動させると、今度はタパパパッと、水をわずかにこぼしたくらいの水がコップの中に落ちた。おおっ、水の量が増えてる。
「【水創造】ではコップ一杯ほどの水を出すのが限界です。なので、その量を出せるようになったら習得したと言ってもよろしいでしょうね」
エステルの出した水はコップ四分の一ほど。これならすぐに習得してしまいそうだな。
「ではサクラリエル様も」
目の前に置かれたお皿の上のコップに私は魔力を集中させる。空気中から水を集めるイメージかな……。スポンジみたいなものに吸収させて、それをギュッと絞る感じで……。
「【水創造】」
私が魔法を発動させるとコップの中にちょろろろっ、と水が注ぎ込まれ、コップに並々となったところでピタリと止まった。
「一回で成功とは……大変結構です。サクラリエル様は習得したようですね」
「すごいです! サクラリエル様! どうやったのですか!?」
ストラム先生は感心し、エステルは大はしゃぎで尋ねてくる。これはアレかな? 魔法はイメージってやつかな?
そこで私はエステルに先ほどイメージしたことを細かく教えてみた。するとエステルも次の【水創造】で、コップ一杯の水を注ぐことに成功。やはり魔法を使うにあたってイメージは大事なようだ。
その後も生活魔法の火を着ける【着火】、周りを照らす【照明】、風を送る【送風】、小さなブロックを作る【石創造】、相手の心を落ち着かせる【沈静】を覚えた。
魔法を使ってみて分かったが、確かにこれは適性がないと大変な気がする。
たとえばお風呂いっぱいに水を張ろうとすると、【水創造】では何度も発動させないといけないが、水属性に大きな適性のある魔法使いなら【水球】を使って一発なのだ。
人それぞれ適性は違うので、これはもう個性としか言いようがない。
適性が多い人は魔法職に就くだろうし、無い人は無い人で魔法に頼らず生きていくだろう。
それに生活魔法なんて貧民街じゃほとんどの人が使えなかった。そもそも自分の魔力を感じることができないんだから、使えったって無理だよね。
私を育ててくれた薬師のお婆さんは魔力を使って魔法薬を作る薬師だったから、魔力の使い方は知っていたんだと思う。生活魔法も使えたのかもしれない。見たことないけど。
生活魔法はあれば便利だけど、無いなら無いで代わりになるものはいくらでもある。【着火】なら火打石、【照明】なら蝋燭があればいいんだから。
まあ、いざという時に役に立つからちゃんと覚えるけどね。
次いでストラム先生はエステルに初級魔法を教え始めた。
私は生活魔法しか覚えられないから、それを見ているだけだ。私が使える闇と特殊属性はストラム先生が教えられないからね。
そもそも基本的にストラム先生は学業の家庭教師で、今回の魔法授業はそれから逸脱している。
なのに生活魔法と自分の属性と同じならば、教えられるところまで教えてくれると言ってくれたのだ。これはお父様に時間外手当を出してもらわないと。
「【水球】!」
エステルの目の前にバスケットボールほどの水の塊がふよんふよんと浮いている。おおっ、すごい! 【水創造】とは比べ物にならない大きさだ。
エステルはその水の球を右に左にとふよふよ移動させている。というか、それどうすんの? ここ室内なんですけど……。
「エステル嬢、それを窓の外へ」
「は、はいっ!」
エステルがストラム先生が開けてくれた窓から外へ水球を運んでいく。水の球と一緒にエステルも動いてるけど、距離を離すとコントロールできなくなるのかな?
ばしゃっ、と窓から出た水球が外の雪の上に落ちた。
「ふう……」
「大変結構。もう少し練習すれば、投げるように水球を飛ばすこともできます。【水球】はその質量で敵を攻撃することもできますし、火災などの火を消すこともできます。コントロールが卓越すれば、敵の顔から離れないようにして窒息させることだってできるのですよ」
窒息って……。エグい使い方だなあ……。
でも初級魔法でもそういう使い方次第でかなり使える魔法になるんだね。なんでも使い方次第か。




