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8話 笑子さんのエイプリルフ−ル

 エイプリルフール


「笑子さぁーん。」

 今日も、かわらない口調で社長室から呼び出しの声が聞こえてきた。

「林です。なにか?」

「あなた、今日でクビね。」

「はい?」

「今日中に荷物まとめてね。」

社長の玲子はいつもと変わらない笑顔でにこやかに言った。さすがにいつも冷静な笑子でも目を丸くした。

「あの……ずいぶん急なお話なんですが、よろしかったら理由などお聞かせ願いませんか?」

「あなた辞表出していたでしょう?あれが受理されたの。」

「……そうですか。わかりました。」

少々戸惑いながらも、笑子は社長室を出て行った。急に頭の中が真っ白になった。

急にクビ?明日からどうしよう。引継ぎはどうするのかしら?誰が後を継ぐのかしら?退職金出るかしら?今日までのお給料は出るのかしら?でもクビなら出ないわね。辞表はたしかに出しているんだけど、なんでかしら、急に。

あれこれいろんなことが頭の中をぐるぐる回っていた。

「どうしたの?なんだか、顔色が悪いけど。」

同僚が心配して、声をかけてきてくれた。

「あのね、クビになったみたい。」

「クビ?なんで?なにかやったの?」

 同僚は唖然としたように言った。もし、笑子が普段から冗談を言うような性格をしていたら、とてもじゃないが信じてもらえないに違いない。

「そうじゃないけど……。」

笑子にだってよくかわかっていないのに、どうやってうまく説明などできるだろうか。

「とにかく、急な話で驚いているんだけど。」

 同僚はしばらく考え込むと、急にカレンダーを見てから言った。

「待った。今日、四月一日だわ。」

「それが?」

「エイプリルフールじゃない。騙されているよ。」

「でも、いままでそんなこと、やられたことなかったわよ。」

 しかし、同僚は指を振って言った。

「甘いわ。去年、会社が倒産しそうだって噂聞いた?」

「聞いたわ。どうしてそんな根も葉もないような噂が流れたんだろうって思ったもの。」

「あれ、社長が出したの。」

「え?!」

「おととしは、副社長が海外に飛ばされるところだった。家族にまで宣言してさ。パスポートまで取ったのよ。」

「そういえば、それが原因で引退したんだっけ。」

「そう。その前は社長が引退するとか言われていたしね。だいたい、あんたがやめて困るのは彼女のほうなんだから。今日だけのことだと思って、 一日、のんびり過ごせば?」

同僚はやけにのんきに言った。ふと笑子は思った。

「ねぇ、前から気になってたんだけど、あなた、どうしてそんなに社長のことにいろいろと詳しいの?」

「あれ、知らなかった?いとこなのよ。」

 同僚はあっさりと言った。

「……誰が?」

「社長が。」

「……えええええええええ???」

笑子は今までの中で一番大きな声を出した。

「ホントに?!」

同僚はにこやかに笑った。

「さぁ、どうかな?今日はなんの日?」

「エイプリルフール……。」

「ふふふふふ。」

同僚はにこやかに笑いながら去っていった。さて、嘘はどこからどこまでだろうか。笑子は、なんだか本当にやめてもいいような気がしてきていた。

日本で、どうしてこんな目に会わなければならないのか、どうも理不尽さを感じている笑子だった。


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