7話 笑子さんの嫌な予感
笑子さんの嫌な予感
普通、いやな予感というものは、なんとなく感じるものだ。しかし、笑子の場合、同僚の彼女が小声で話し始めると、必ず、感じるものでもあった。
「聞いて。最近、社長、ゲームに夢中になっているらしいの。」
それは笑子も知っていた。さすがに、会議中に、ゲームの音が急に鳴り出したときは、あせった。携帯の音だとごまかしてみたが、相手にそれで納得していただいたか、よくわからない。
「それとね、着物。」
「着物?」
これは笑子は初耳だった。
「そう。裏の向こうの通りにある着物屋で見かけたって子がいたの。それもここ最近、何度もよ。自分は着ないのに。」
「そうねぇ。」
笑子も同意した。正月だろうが、なんだろうが、彼女が着物を着ている姿など一度も見たことはないのは事実だった。急に着物になにゆえ興味を持ったのだろう。
「でね。ひそかに言われているのが、着物をぬがせるゲームでも作るんじゃないかって。」
「はぁ?」
思わず大声を出した。慌てて、同僚は口に指を当てたが、遅かった。それが社長室まで聞こえたのか、社長の礼子の声がした。
「笑子さぁーん。」
「あ、行かなきゃ。」
笑子は慌てて、社長室へと向かった。
「林です。お呼びでしょうか。」
「これと、これ、どっちがいいかしら?若いお嬢さんになんだけど。」
同僚のいっていたことが頭に浮かぶ。なぜ、着せるのではなく、脱がせるゲームなのか、需要の問題だろう。笑子は二つの着物の写真を見比べていった。
「こっちのほうが。華やかに見えます。」
「そう、じゃ、こっちにしようかしら。」
「どうするんですか?」
「送るの。」
「どなたに?必要でしたら、手配いたしますよ。」
「あら、お願いできる?このゲーム作っている会社に私の名前で。」
礼子は、インターネットで調べて、印刷した会社がかかれた紙を差し出した。
「それは、かまいせんが、差し付けなかったら、理由も聞いてよろしいですか?」
「送る理由?この間、会議中にゲームの音が突然に鳴ったでしょう?」
礼子は渋そうな顔をした。
「ああ、あのゲーム機ですか。」
ついこの間のことだから、まだ笑子も忘れていなかった。
「そう。会議中ならまだしも、取引先の前で鳴ったら、失礼でしょ。文句を言ったら、振動型の開発をしてくれるっていうから。その御礼。」
にこやかに礼子は言った。そんなことで文句を言われたゲーム会社も迷惑な話だろう。それに、振動タイプを断れなかったのではないだろうか。
笑子はその紙を見ながら言った。
「この会社、今度、経営系のゲームを出す会社ではありませんか?なにかで、見たことがあったような気がします。」
「そうよ。うちの子会社のコンビニが、協力しているの。」
だからかと、笑子は思った。当然、もっと上の会社の、しかも社長の頼みを断れるはずもない。
笑子は言った。
「いいですか、その前に、会議中でもゲームはしないでください!持っているところを発見したら、没収しますからね!」
笑子は断言した。
「えー。」
「えー、じゃありません!それより、この手配はしておきますから、早く、この書類たちにはんこを押してくださいよ!」
礼子の机の上に乗っていた、仕事はほとんど進んでいなかった。同僚の言っていたことにはならなさそうだが、余計に笑子の仕事が増えそうだと思った。
ゲーム機の没収!いくつなんだと、笑子は自問自答をしていた。




