6話 笑子さんの情報源
笑子さんの情報源
ある日のこと。
「ねぇ、笑子さぁん。」
「林です。なんでしょう?」
「来月の末ってなにかある?」
笑子は手帳をめくった。
「……いまのところはなにもありませんが?」
「じゃ、私休んでいいかしら?」
「構いませんが、なにかあるんですか?」
「亭主と息子の墓参り。」
笑子はうなづいた。
「ああ、わかりました。でも、ご子息は亡くなっていませんからね。」
「わかっているわよっ。」
ふくれっつらをして礼子は言った。初めて、笑子が社長秘書になったときに、同じ頃に言われたことがあった。
「亭主と息子の墓参りに行ってきてもいいかしら?」
そう聞かれたら、普通なら両方とも亡くなったのだと思うだろう。
笑子も最初は信じた。そして、悲しく思ったものだ。自分には息子がいる分だけましだったのだろうと。しかし、その日の涙ほど返して欲しいと切に願ったことはなかった。
当日になって、笑子は彼女の同僚から聞かされることになる。
「え?息子さん?死んでないわよ。」
「え、だって、墓参りって。」
「ああ。ご主人は確かに亡くなっているんだけど、墓参りに息子さんと行くのよ。息子さんとは大喧嘩しているの。それも、くだらない理由なのよ。なんだと思う?」
なんだか、嫌な予感がするものの、笑子は聞いてみた。
「なに?」
「息子さんが社長の見たかったドラマの録画を忘れたの。」
しばらく、笑子の思考が止まった。
「……え?それだけ?」
「そう。もう六年くらい?ずっと喧嘩しっぱなし!アホみたいでしょう?」
「……うん。」
次の日、聞いてみた。
「ご子息は亡くなっていらっしゃらないんですね?」
たちまち、礼子は不機嫌そうになった。
「そぉよぉー。でも、いないのと一緒よ。あたしが見たかったドラマを撮り忘れるなんて、親子の愛がないのよ!それもあやまりもしないで!あの頑固なの、誰に似たのかしら?」
笑子は思った。そんなことで親子の愛を決められるものなのだろうか。頑固は誰か?鏡を見ればわかるだろうと。しかし、そんなことも言えず。
「それで、お墓参りというのは?」
「会うのよ。一年に一度ね。それさえも、腹立たしいわ!」
笑子はため息をついた。それから、三年たっても、なにも変わらなかった。
「まったく、頑固者が!あー、腹が立つ!」
カバンごと、机に放り出した社長に向かって笑子は言った。
「あんまり、怒られると血圧が上がりますよ?」
笑子はすっかりこんなことくらいには、慣れたように言った。
ドラマはもう、何度も放送しているのに、いまだに仲直りしていないようだ。
それにしても、と、笑子は思う。あの同僚は一体どこからいろんな情報を得てくるのだろう?社長の息子さんの頑固さは誰からの遺伝なのかということよりも、そっちのほうが謎のような気がしている笑子だった。




