5話 笑子さんの秘書仲間
秘書仲間
笑子さんは社長秘書をしている。ところで、笑子さんがこの社長の秘書になったのは三年前だ。と、いうことは当然のことながら、それ以前にも秘書がいたことになる。
その秘書は男性だった。今現在何をしているのか。
同じ会社で清掃員をしている。
これはあまくまでも噂だが、彼は横領が発覚して、クビになりかけた。それを社長の令子さんが反対。そのまま清掃員にしてしまったという話である。
「なんでもねぇ、外国に行こうとしたら、パスポートを取り上げられたらしいわよ。横領した分、働けって言ったらしいわ。」
笑子さんの同僚は言った。
そんな話を聞いた、三日後のことだった。移動のためにその日、玄関へと礼子と笑子は向かっていた。当然、受付の社員達も立ってお見送りだ。
「覚悟―!」
静かだったはずのフロアに大声が響いた。
清掃員が襲ってきた。
慌てて笑子は社長の前に立ち、ガードマンは彼を取り押さえた。腕をねじ上げられて、抵抗しなくなったのか、なにやら、ナイフのようなものが落ちた。
「あらあら、また失敗ね。」
礼子はため息をついた。
「そんなことじゃ、出世できないわよ。じゃ、行きますよ。」
礼子は笑子に言った。
「まってください。今、この人は社長を殺そうとしたんですよ?警察に連絡を。」
「ああ、いいのよ。」
行こうとした、ガードマンを止めた。
「社長。」
「離してやって。」
「はい。」
礼子はナイフを拾った。
「ほら、マジック用のナイフなのよ。刃がちゃんと隠れるようになっているでしょう?前回はペイント弾だったわよねぇー。」
「なんで……。」
唖然として、笑子はすっかり敬語を忘れていた。
「あのね、私を倒したら、この会社を辞めてもいいわよって言っているのよ。ねぇ、正明君。運動不足なんじゃない?息が切れているわよ。」
「社長。名前で呼ばないでくださいよ、何度も言いますが、私は東です。」
その清掃員の男は、ねじ上げられた時の腕が痛むのか、顔をしかめながら言った。まだ息が切れている。
「あの……お知りあいですか?」
笑子はおそるおそる聞いてみた。
「ああ、紹介するわ。こっちが秘書の笑子さんよ。こちらは前の秘書の正明君。」
笑子は目を丸くした。ではこれが前の秘書?
「どうも。東です。」
その男は意外にもきちんと挨拶をした。
「あ、林です。」
慌てて、笑子もお辞儀をした。
「そうそう、ガードマンさん、後で名前を教えてくれる?昇給しておくわ。」
「はぁ。」
さすがに、ガードマンのほうも唖然としていた。
「じゃ、行きますよ。あ、正明君、また来月挑戦してね。」
礼子はさっそうと会社から出て行った。
「なんで、危険だと知りながら、雇っているんですか?」
「あら、だって、誰が私を守ってくれるか、一目でわかるでしょう?」
にっこりと、笑って礼子は車に乗り込んだ。その後ろ姿を見て、笑子は思った。一体、何を考えているのかさっぱりわからない!
ついでに、事件を起こすのもやめるいい訳にはならないと思い知った。




