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辺境農民の俺、騎士になったら世界を救うことになりました  作者: ニャンコ
第二章 『王都の騎士として』

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9/24

第五話前編 『悪夢、その後』

 前話で頑張り過ぎたのか、少しペース配分がおかしくなっております。

 一定のペースで書くのは難しいです。


 それでも、なんとか書きましたよ

お楽しみくださいませ

 王都を襲った災厄は、

  後にこう呼ばれることになった。


      『王都の悪夢』

  Nightmare of the Royal Capital


 その頭文字を取って、

       いつしか人々はそれを

       N.O.C(ノック).と呼んだ。


 王都の至るところで魔道具が暴走し、

   多くの建物が損壊した。


 幸いにも、あの夜に比べれば、

  その後の王都は驚くほど早く

   日常を取り戻しつつあった。


 壊れた石畳は敷き直され、

   崩れた壁は修復され、

魔力供給を失った街灯にも次々と

  新しい魔石が取り付けられていく。


 それでも、

  完全に元通りというわけではない。


 街のあちこちには、

まだ修復途中の場所が残っていた。


「グレン、そっちは頼めるか!」


「はい!」


      騎士団の詰所近く


 グレンは数人の騎士とともに、

    崩れた石材を運んでいた。


「よいしょ……っと」


一抱えもある石を持ち上げる。


 十五歳の少年が持つには重すぎるはずの

それを、グレンは軽々と運んでいく。


「……相変わらず、力だけはあるな」


 近くで見ていたカイル・ベルナールが

呆れたように呟いた。


「農家育ちですから」


「それだけじゃあないだろう」

     カイルは苦笑する。


      『王都の悪夢』


 あの夜から、

まだそれほど時間(とき)は経っていない。

 グレン自身も、

あの夜のことを何度も思い出していた。


 特にミーナの足を治したときのこと。


 あれが自分の魔法だったという事実を、

グレンはいまだに実感できていなかった。

 あの時、何をしたのか。

  どうしてできたのか。


 エレノア学院長に聞いても、

   明確な答えは返ってこない。

ただ一つだけ、確かなことがある。

 グレンの中には、

まだ自分でも知らない力が眠っている。


「……だからこそ」

     グレンは石を置き、

         額の汗を拭った。

「もっと鍛えないと」


「何をだ?」


「全てです」


「…………」

     カイルの眉がわずかに上がる。

「お前、まだやる気か?」


「はい」


      即答だった。


「王都の復旧が終わったら、

 また騎士の訓練もありますよね?」


「あるが……」


「その後、学院にも行きます」


「……学院にも?」


「はい」


 カイルは頭を抱えた。


「お前なぁ……」


「?」


「いや、いい。好きにしろ」


 そう言いながらも、カイルの顔には

      僅かな苦笑が浮かんでいた。


          ◆


 午後

    騎士団の訓練場。


「来い!」

     カイルの声が響く。


     グレンは剣を構えた。

「はい!」


踏み込む。


一歩

   二歩

      剣を振る


       ガキンッ!


 鋭い金属音が響いた。

カイルが受け流す。


「まだ真っ直ぐすぎる!」


「はい!」


 グレンはすぐに体勢を戻した。

  再び踏み込む。

      今度は正面からではない。


 僅かに左へ

  カイルの視線が動いた瞬間、

   グレンは足元へ意識を集中させる。


「土(アレナ)よ!」


 ほんの小さな魔力。


 グレンの足元の土が、

    数センチだけ盛り上がった。


 カイルの足が、その僅かな段差を踏む。


「おっ!」


 ほんの一瞬

     カイルの動きが鈍る。


 その隙にグレンの剣が迫った。


「そこまで!」


 カイルが剣を弾く。


 グレンの身体が後ろへ流れた。


「今のは……」


 グレンが息を整える。


 カイルは足元を見る。


 そこには、ほんの少しだけ

      盛り上がった土があった。


「魔法を使ったな?」


「はい」


「いつの間に詠唱した?」


「……詠唱?」

     グレンは首を傾げる。


「さっきのだ」


「ああ」


 グレンは少し考えてから答えた。


「短いので」


「短いからって問題じゃない」


 カイルは呆れた顔をした。


「剣を振りながら魔法を使うなとは

言わん。だが、普通はもっと意識を割く」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ」


     グレンは素直に頷いた。

「分かりました」


「……分かってない顔だな」


「いえ。分かりました」


「そうかよ」

     カイルはため息を吐く。


 だが、グレンは気付いていなかった。

以前なら、初級土魔法(アレナ)=Arenaを

発動するためには、

   一度動きを止める必要があった。


 今は違う。

剣を振りながらでも使える。

 しかも、狙った場所に。

ほんの数センチの隆起を、必要な場所に。

グレン自身にとっては、

    それだけの変化だった。

けれど、それは確かな成長だった。


         ◆


 夕方

    王立魔法学院


 研究室の一角で、

エレノア・アルヴェリスは

       グレンを見つめていた。


「……ふむ」


「どうしました?」


「いや」

      エレノアは

       楽しそうに目を細める。


「少し変わったの」


「変わりましたか?」


「魔力の流れがじゃ」


「自分では分かりません」


「うむ」

     エレノアは

     グレンの手元を見る。


「前よりも魔力の無駄が少ない」


「……」


「発動までの時間も短くなった。

     術式の組み立ても早い」


「少し慣れてきたのかも」


「本人の自覚はないようじゃの」

     エレノアは小さく笑った。

「面白い奴じゃ」


グレンは困ったように頭を掻いた。


「僕としては、まだまだです」


「まだまだ?」


「はい」


「ほう」


 エレノアの目が輝く。


「では、

  どこまで出来るようになりたい?」


「……全部です」


「全部?」


「剣も、魔法も」

     グレンは拳を握った。

「あの夜、僕は何もできませんでした」


エレノアは黙った。


「ミーナを助けることができたのは、

            たまたまです。

 あんなことがもう一度起きたら……

  今度は、もっと多くの人を

      助けられるようになりたい」


 エレノアは

   しばらくグレンを見つめていた。


そして、笑った。


「ならば、ワシの弟子にならんか?」


「……え?」

     グレンが固まる。

「弟子?」


「そうじゃ」


「僕が?」


「お主じゃ」


「エレノア学院長の……?」


「うむ」


グレンは困惑した。


「……私ごときが不相応では?」


 エレノアの表情が一瞬だけ止まる。

そして、


「そういうところじゃぞ」


「え?」


「お主は、自分を低く見積もりすぎる」


エレノアは立ち上がった。


「あの夜何が起きたか、

         ワシは見ておった」


「……」


「光属性の魔法を使った」


グレンの表情が固まる。


「しかも、

   欠損した肉体を完全に修復した」


「……」


「それだけではない」

     エレノアが一歩近づく。

「お主の魔法には、

  まだワシにも理解できぬ部分がある」


「僕の……?」


「だからこそじゃ」

     エレノアは笑った。

「弟子になれ、グレン」


    しばらく沈黙があった


やがてグレンは深く頭を下げた。


「……よろしくお願いします」


「うむ!」


エレノアは満足そうに頷いた。


「今日からお主は、ワシの弟子じゃ!」


「はい!」


 その様子を、研究室の奥で見ていた

セレフィーナ・アーデルハイトが

          小さく息を吐いた。


「……学院長」


「なんじゃ?」


「また無茶をなさらないでくださいね」


「ワシは何もしておらんぞ?」


「これからするでしょう」


「…………」


エレノアは視線を逸らし、

     吹けない口笛を吹いてみた。


「否定できませんね」

     セレフィーナは

         眼鏡を押し上げた。


「それに、グレンさん」


「はい?」


「あなたもです」


「え?」


「あなたは、

  学院長以上に無茶をしそうですから」


「……気を付けます」


「その返事をする人は、

        大抵気を付けません」


セレフィーナの言葉に、

        エレノアが吹き出した。


「ははは!」


「笑い事ではありません」


「これは面白い弟子を拾ったのう」


「拾われたんですか、僕」


「そうじゃ」


「……」

     グレンは

     少しだけ複雑そうな顔をした。


          ◆


 それから、

グレンの魔法訓練は本格的になった。


ただし、


「Fuego(フエゴ)!」

      小さな炎が生まれる。

以前よりも、ほんの少しだけ大きい。


「Agua(アグア)!」

      水球が浮かぶ。

以前よりも形が安定している。


「Brisa(ブリザ)!」

      風が走る。


そして、


「Arena(アレナ)!」

      足元の土が盛り上がる。


    どれも初級魔法だった。


 威力そのものは、

  まだ初級の域を出ていない。


 だが

   速い。

     正確だった。

      そして、無駄がない。


「もう一度」

     エレノアが言う。


「はい」


     グレンが手を伸ばす。

「Arena」

      土が盛り上がる。


「Fuego」


小さな炎が、その土の上を走る。


「Brisa」


風が炎を押し、軌道を変える。


最後に、


「Agua」

      水が炎を消す。


       一瞬


炎が消えた場所に、水蒸気が広がった。


「……」

     エレノアが黙り込む。


「どうですか?」

     グレンが振り返る。


「……お主」


「はい?」


「今、何をした?」


「え?」


「四つの魔法を、

ほとんど間を置かずに使ったじゃろう」


「そうですか?」


「そうじゃ」

     エレノアは目を細めた。


「しかも、

  それぞれを単独で使ったのではない」


グレンは少し考える。


「次の魔法が使いやすくなるように、

       前の魔法を使いました」


「……」


「土を盛り上げれば

 火を高い位置から流せます。

 風で火を動かせば、

 水を当てる場所も決めやすいので」


エレノアは黙っている。


グレンは首を傾げた。


「何か変でしたか?」


「いや」

     エレノアは笑った。

「変なのは、今に始まったことではない」


「……?」


「よい。続けるぞ」


「はい!」


グレンは再び構えた。


「Fuego」 小さな火


「Brisa」     風


「Arena」     土


 今度は土煙を風で動かし、

       火を見えづらくする。


そして、


「Agua」


水がピンポイントで命中し、火を消した。


「……うむ」

     エレノアは満足そうに頷いた。

「確実に上手くなっておる」


「本当ですか?」


「ああ」

     エレノアはグレンを見る。

「まだ全部、初級魔法じゃがな」


「初級……」


「うむ」


 グレンは少しだけ考え込んだ。


「じゃあ、次は……」


 エレノアは口元を上げた。


「そのうち分かることじゃ」


「?」


「焦らずともよい」


「はい」


 そう答えたグレンだったが

その日の夜

     騎士団の訓練。

      魔法の訓練。

 そして王都の復旧作業。


 それらを、

  すべて終えてから学院へ戻った。


「……まだ研究の手伝いが残っています」


「駄目じゃ」

     エレノアが即答する。

「今日はもう休め」


「でも……」


「駄目」


「……はい」


 それでもグレンは、

研究室の机に置かれた資料を見ていた。


 セレフィーナが眉を寄せる。


「グレンさん」


「はい」


「今、何を考えていますか?」


「……少しだけなら、魔法の復習を」


「駄目です」


「はい」


「今日は寝てください」


「……はい」

     グレンは素直に返事をした。


 だが、その翌朝。

誰よりも早く起きたグレンは、

       また訓練場へ向かった。


 剣を振る。走る。魔法を使う。

そして復旧作業へ向かう。

それが、何日も続いた。


一日、二日……一週間、

そして、


「グレン」

     カイルが訓練場で声を掛ける。

「少し休め」


「大丈夫です」


「顔色が悪いぞ」


「大丈夫です」


「お前の“大丈夫(そういうの)”はアテにならん」


「本当に大丈夫ですから」

     グレンは笑った。


      その直後だった。

        視界が………揺れた。


「……あれ?」


      足元がふらつく。

         剣が手から落ちた。


       カラン


「グレン?」

     カイルの声が遠い。


「……すみません」


一歩。

 踏み出そうとして身体が動かなかった。


「グレン!」


 その声を最後に。

グレンの意識は、暗闇へ落ちていった。





 後編につづく



 正式に弟子入りしたグレン、

これからどうなっていくのか?

楽しみですね。



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