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辺境農民の俺、騎士になったら世界を救うことになりました  作者: ニャンコ
第一章 『辺境農民、騎士になる』

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第二話後編 『続白金の魔女の弟子?』

 学院長の元を訪ねるグレン。

未知への好奇心、自身の向上心。

 そして、再度決意を固める。

弟子としての一歩を踏み出していく。

 王立魔導学院の最奥。


 一般の学院生が

殆ど立ち入ることのない一角に、

        その建物はあった。


 古い石造りの塔と、

     それに繋がる瀟洒(しょうしゃ)な屋敷。


 研究施設と住居を一つにしたような、

     少し変わった建物だった。


「ここが……

    学院長先生のお住まいですか?」

     グレンが尋ねる。


「そうじゃ」

     エレノアは

    何でもないことのように答えた。

「ワシの研究室でもあり、家でもある」


「……大きいですね」


「研究をしておると、

いちいち学院の外まで帰るのが面倒での」


「おおー」

     グレンは素直に頷いた。


 しかし。


 エレノアは研究者として

        二百年以上生きている。


 その研究施設ともなれば、

当然ながら規模も設備も普通ではない。


 建物の中に入った瞬間、

       グレンは目を見張った。


 壁一面に本棚。

 魔法陣の描かれた石板。

 見たこともない金属製の器具。

 色とりどりの液体が入った瓶。

 何に使うのか分からない魔導具。


「……」


「どうじゃ?」

     エレノアが楽しそうに聞く。


「すごいです」


「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 エレノアが嬉しそうに胸を張る。


「ここにはワシが

  長年集めてきた研究資料が…」


「学院長」

     静かな声が響いた。


 エレノアの動きが止まる。


「なんじゃ?」


「その前に、昼食を」


「……あとでよい」


「いけません」


「研究が……」


「昼食が先です」


「むぅ……」


 グレンが声のした方を見る。


 そこに、一人の女性が立っていた。


 銀色の長い髪。

 端正な顔立ち。

 細身で均整の取れた体つき。


 学院の教員を思わせる、

      落ち着いた服装。


 眼鏡の良く似合う、

知的で凛とした雰囲気がある。


 年齢は…


 グレンからすれば、

 二十代後半くらいに見えた。


「……」


 グレンは思った。


 こちらの人が

     学院長なのではないだろうか。


 そのくらい、学院長らしい女性だった。


「こちらは?」

     女性がグレンを見る。


「今日からワシの弟子になるグレンじゃ」


「まあ」


 女性の目が少しだけ見開かれた。


「あなたが……」


「はい。グレン・テミストクレスです。

       よろしくお願いします」


 グレンは深々と頭を下げる。


「ご丁寧にありがとうございます」


 女性も優雅に一礼した。


「私はセレフィーナ・アーデルハイト

            と申します」


「セレフィーナさん」


「お好きなようにお呼びください」


 そのとき。


「グレン」


 エレノアが口を挟んだ。


「この者はワシの研究助手であり、

        この家のメイド長じゃ」


「研究助手……?」


「はい」


 セレフィーナは穏やかに微笑む。


「学院長の研究を補佐しながら、

     こちらの管理をしております」


「それはそれは」

     グレンは感心した。

「凄いですね」


「いえ。学院長が研究以外を

    殆どなさらないので、

     必要に迫られているだけです」


「おい」

     エレノアが不満そうに言う。


「ワシだって料理くらい出来るぞ」


「前回は鍋を爆発させました」


「あれは、魔法を少し使っただけじゃ」


「料理の度に爆発を起こすのですか」


「……」


 エレノアが黙った。


 グレンは二人を交互に見る。


 どうやら、この人には

  エレノアは頭が上がらないらしい。


「学院長は昔からこうなのですか?」


 思わず口にしてしまった。


「グレン」

     エレノアが睨む。

「余計なことを聞くでない」


「申し訳ありません」


     セレフィーナは微笑んだ。

「ええ。昔からです」


「セレフィーナ!」


「事実ですので」


 淡々としている。

それがまた妙に説得力があった。


 ほどなく食堂へ案内される。


 テーブルには、

   既に昼食が用意されていた。


「グレン様もどうぞ」


「私も?」


「はい」


「でも……」


「弟子になったのでしょう?」


「……はい」


「でしたら、こちらで

  食事を取っていただいて構いません」


 グレンは少し戸惑った。


 騎士団の寄宿舎では、

    決められた時間に食事を取る。


 だが、ここは妙に落ち着いていた。


「いただきます」


 グレンが食事を始める。


 エレノアも嬉しそうに食べ始める。


 セレフィーナは

  二人の様子を確認しながら、

    必要なものを静かに補っていく。


「……美味しいです」

     グレンが言うと、


「それは何よりです」

     セレフィーナが微笑んだ。


 その表情には、

   どこか満足そうなものがあった。


「学院長」


「なんじゃ?」


「食事中に本を読むのはおやめください」


「む」


 エレノアの手には、

   いつの間にか魔法書があった。


「……研究したい」


「食事の後でお願いします」


「むぅ……」


 グレンは思った。


 学院長は研究者としては

          凄い人なのだろう。

     間違いなく。

しかし、

 生活面では、かなりアレな人らしい。


 食事を終えると、エレノアは

   研究室へグレンを連れていった。


「さて」


 机の上に一冊の分厚い本を置く。


「まずは基礎からじゃ」


「はい」


「魔法とは何か」


「……魔法を使う方法、ですか?」


「違う」


 エレノアが指を立てる。


「魔法とは、己の中にある魔力を

     世界へ干渉させる技術じゃ」


「魔力を……世界に?」


「うむ」


 エレノアの目が輝く。


 その瞬間、先ほどまでの

生活能力の低い少女とは

         別人のようだった。


「火、水、土、風。木、金。

         そして光、闇、時」


 九つの属性。


「これらを理解し、

     魔力を適切な形へ変換する」


「……」


「じゃが、

   魔力が多いだけでは意味がない」


 エレノアはグレンを見る。


「おぬしには魔力がある。

         途方もない量がな」


「はい」


「だが、」

     エレノアは一冊の本を開いた。

「知識がない」


「……はい」


「経験もない」


「はい」


「技術もない」


「……はい」


「つまり」


 エレノアはニヤリと笑った。


「おぬしは、

  巨大な井戸を持っているのに、

       バケツの使い方を知らん」


「……うっ」


「分かったのか?」


「はい。

 俺は何も知らないということですね」


「そういうことじゃ」

     エレノアは楽しそうだった。

「だからこそ、面白い」


 グレンは本を開いた。


 見たことのない文字や魔法陣。

 理解できないことばかりだった。

だが、


「……覚えます」


「ほう」


「全部」


 グレンは本を見つめた。


「俺は剣も、

    最初は何もできませんでした」


「……」


「なら、魔法も同じです」


 エレノアの口元が緩む。


「努力すればいい」


 その言葉を聞いて、

  エレノアは少しだけ目を細めた。


「……そうじゃな」


 そして。


「では、今日から

      死ぬほど勉強するがよい」


「はい!」


「ただし…」

     エレノアは指を一本立てた。

「無茶をして倒れるのは禁止じゃ」


「分かりました」


「本当に分かっておるか?」


「はい」


 エレノアは怪訝そうな顔をした。


 しかし、

この時のグレンはまだ知らなかった。


 この「無茶をするな」という忠告を、

    彼が何度も破ることになるとは。


 夕方。


 グレンは研究棟を出た。


「では、失礼します」


「うむ。明日も来るのじゃぞ」


「はい」


 セレフィーナも

       玄関まで見送ってくれた。


「グレン様」


「はい?」


「騎士団でのお勤めがあるのでしたら、

    決して無理をなさらないように」


「肝に銘じます」


 その返事を聞いた瞬間。


 セレフィーナの目が細くなった。


「……学院長」


「なんじゃ?」


「この方、本当に大丈夫でしょうか?」


「分からん」


「即答ですか」


「じゃが、面白いぞ」


「それは分かります」


 二人は、遠ざかっていく

      グレンの背中を見送った。


 グレンは騎士団の寄宿舎へ戻った。


 部屋に入る。

机の上に、今日借りた魔法書を置く。


 明日は騎士団の訓練。

    その後は魔導学院。


 やることは増えた。

         それでも、

「……楽しみだ」

    グレンは本を開いた。


 まだ一行も理解できない。

 それでも、少しずつ読んでいく。

 剣を覚えたときと同じように。


 一つずつ。

      一歩ずつ。


 そして翌朝。


 グレンはいつも通り、

          誰より早く起きた。


 騎士として強くなる。

 魔導師として強くなる。

二つの道を歩む少年の毎日が、

         こうして始まった。




     第二話 了



 騎士の務めと魔導の修行。 両面から

“護る力”を磨いていくことになったグレン。

放っておくとすぐに限界を超えてしまう。

 さて、どうなるのか。


◆◆◆キャラ紹介コーナー◆◆◆


ミーナ・ベル

貧しい農家の次女。家族へ仕送りする為に出稼ぎにきている。

学院付きのメイドだが、レイグラン家に恩義がある。


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