第九話後編 『情報戦』
さてさて、第三章です。クライマックスは近い?私の期待もどんどん膨らんでいます。
初任務からこの後、どんな活躍をするのでしょう?
◆◆◆追加補足◆◆◆
“THE FIRST”の存在が大きく、そう呼ばれて以降、流れでセカンド、サードと呼ばれるようになりました。発足時は7人だった光環騎士団が12人になった時、これで光環が整った。とされ、以後増員は無くなり12人で“コンプリートした”と言われだしました。
通された部屋は、
落ち着いた調度品で整えられていた。
壁には王国の地図が飾られ、
机の上には書類が積まれている。
地方行政に携わる貴族らしい、
実務的な部屋だった。
この部屋の主は、
ルシウス・フェルソン伯爵。
フェルソン家は、代々王国の要職に就い
てきた名門である。地方行政や領地間の調
整に強い影響力を持ち、王国内でもその家
名は広く知られていた。
当主であるルシウス自身も、政治的な駆
け引きに長けた人物として知られている。
穏やかな物腰の裏に本心を隠し、相手の意
図を探ることに長けているという。
そのルシウスが、二人を迎えた。
「本日は、どのようなご用件で?」
カイルは一礼し、
持参した書面を差し出した。
「近頃、各地で魔物の出現が増えている。
光環騎士団としても、
各地の状況を調べているところだ」
「ほう……」
「ついては、
情報収集にご協力いただきたい」
ルシウスは書面を受け取った。
光環騎士団からの正式な協力要請文。
貴族と面談するための
手続きとして用意されたものだ。
ルシウスは表情を変えず、
書面へ視線を落とした。
『ついにここまで辿り着いたか。
しかし……』
わずかな沈黙の後、
ルシウスは顔を上げた。
「そこまで調べてあれば、
もはや解決も時間の問題ですかな?」
皮肉を含んだ問いだった。
「フッ、まあそんなところです」
カイルは、
余裕を感じさせる笑みを浮かべた。
『そんな簡単に分かるわけねーだろう。
何か知ってるなら、
頼むから教えてくれって!』
もちろん、
そんな本音は表情に出さない。
その隣で、グレンは感心していた。
『流石カイルさん、
もう真相に迫っているのか』
ルシウスは二人を見比べると、
手元の書面に目を戻した。
「では、
内容を確認させていただきましょう」
そう言って、封を切ろうとしたその時、
「あっ……!」
有能な文官らしからぬミス。
どうやら指を切ったらしい。
「うっ、これはっマズイ……!」
ルシウスは、妙に大袈裟なほど慌てた。
「大丈夫ですか?」
グレンがすぐに身を乗り出し、
懐からハンカチを取り出す。
「こちらで押さえてください」
「い、いや、結構!」
ルシウスは
反射的に手を引っ込めた。
『危ないところだった。
血を見られるわけには……』
ルシウスは、慌てて手を隠す。
と、同時にグレンの手元へ目が向いた。
ハンカチに、血がついている。
それは赤ではない、どう見ても青。
人間の血ではあり得ない色だった。
『……しまった!』
ルシウスの表情が固まる。
だが、グレンは
血の色に気づいていなかった。カイルも、
ハンカチには目を向けていない。
しばらくの沈黙の後、やがて
ルシウスは、ゆっくりと顔を上げた。
「クックク……やはり侮れんな」
カイルは真顔のまま、
様子を伺っている。
『何だ? 今の反応は……?』
「我らの血の色が、体外に離れてしまえば
元の色に戻ることを利用するとは……!」
ルシウスは自らの失言に気づかない。
カイルは黙ったまま、ニヤリと笑った。
『えっ!なに?魔族ってこと?
言っちゃったよ?勝手に。見破り方って、
そーなの?知らなかったー。
そんな下手なんだあ!』
頭の中では、
驚きと混乱が渦巻いていた。
だが、顔には出さない。
出せるわけがない。
グレンもようやく、
何かに気づいたように顔を上げる。
「カイルさん、これは?
ということは、つまり……」
「その通りだ、ニンゲン!」
ルシウスは立ち上がった。
「魔王軍による人類滅亡計画!」
グレンの目が見開かれる。
そして、カイルを見る。
『やはり、
そこまで分かっていたのか……!』
「やはり、そこまで知られていたか。
ならば、もはや隠す必要もあるまい!」
『いやいやいや! 何も知らねーよ?
ていうか、ヤバくね?』
カイルは表情を崩さなかった。
「つまり、全て整った。ということか」
『全てって何?なにゆってんの、俺!』
「その通り!」
ルシウスは大きく頷いた。
「我々は各地に人間の姿で潜入し、
魔物を使って人類の戦力を調査していた!
各国の軍備、騎士団の練度、魔法使いの
能力……それらを把握し、
滅亡計画を実行するためにな!」
グレンは驚愕していた。
『そこまでの計画だったとは……!
流石はカイルさん』
グレンは再度カイルを見る。
カイルは冷静な顔を保っていた。
『マジか!
そんなデカい計画の話だったのか!
どうしよう!?』
「だが、ここまで知られていたとはな。
貴様らの働き、
見事と言うほかあるまい!」
ルシウスの身体が揺らいだ。
人間の姿が崩れ、異形の輪郭が現れる。
もはや、隠すつもりはないらしい。
「我らの計画を知った以上、
生かしておくわけにはいかん……
と言いたいところだが」
悪魔は口元を歪めた。
「今は、
貴様らの相手をしている場合ではない。
せいぜい、
残された時間を有効に使うことだな!」
捨て台詞とともに、
その姿がふっと消えた。
一瞬だった。
部屋に残されたのは、
カイルとグレンだけ。
「くっ……!」
カイルは拳を握った。
追うべきか。いや、今は……。
「いや、まずは報告だな」
「そうですね。しかし、カイルさん。
いつから、あそこまで……?」
グレンは尊敬の眼差しを向けていた。
「まあ、な」
カイルは曖昧にうなずいた。
『余計な事聞くな!
情報整理出来てねーし!あっそーだ!』
「それにしてもグレン。
良く奴の血を拭き取った」
「え?」
グレンは
手元のハンカチを見た。
「ああ、このハンカチですか。
昨日、インクを溢してしまって」
カイルの表情は固まった。
「……インク?」
「はい。洗っても、なかなか落ちなくて」
グレンは、
何の疑いもなく答えた。
カイルはもう一度、ハンカチを見た。
青い染み。
それが魔族の血だったのか、
それともただのインクの染みだったのか。
もはや、神のみぞ知ることであった。
◆
この悪魔の正体が露見したことは、
単なる一件の事件では終わらなかった。
人間に姿を変えた悪魔が各地に潜入し、
魔物の出現を利用して
人類の戦力を調べていた。
その事実は、
やがて各国へ伝わっていく。
そして、魔族を見分ける方法も。
血が身体から離れた時、
その色を確かめること。
単純で、お伽話によくある設定。
しかし、その情報が広まれば、悪魔たち
はこれまでのように人間社会へ潜入し、
調査を続けることができない。
もっとも、
彼らの調査は既に終わっていた。
人類の戦力は把握した。
各国の動向も、魔物を通じて確認した。
あとは、実行するだけだった。
北方で報告されていた異変。
各地で相次いだ、不自然な魔物の出現。
それらは、
すべて始まりにすぎなかった。
やがて各地から、
これまでとは比較にならない規模の
魔物の襲撃が報告され始める。
そして、ついに………
人類を滅ぼすための大侵攻が始まった。
世界は、戦場へと変わっていく。
第九話 了
あ、なんかスンマセン。
人類の滅亡危機になりました。




