第八話前編 『オリハルコンの剣』
ファンタジーではお馴染み、伝説の金属
“オリハルコン” でました!
この世界には存在しています。
そして、あるとこにはある。
ないとこにはない。
そんなレア素材を使ってグレンの武具が!
ますますグレンから目が離せませんよぉっ
ねえ、お客さんっ そうでしょう?
てなこと言いつつ、ちゃんと物語は進んでいくのです。お楽しみくださいっ
王都の一角にある武具工房に、
カイルとグレンの姿があった。
「……おい、カイル。こいつは……」
作業台の上に置かれた鈍い金色の金属塊
“それ”を見て、バルドの表情が変わった。
「ああ、オリハルコンだ」
「いったい、どうやって手に入れた?」
「簡単に話せることじゃねえ。
お前もわかってるだろう?」
「……そう、だな。」
バルドはそれ以上追及せず、
金属塊を手に取った。
角度を変え、表面を確かめる。その目は、
先程までとは明らかに違っていた。
やがて、グレンへと視線を移す。
「それで、こいつを使って何を作る?」
「剣をお願いしたいんです」
「剣、だと……」
バルドはグレンの腰に目を向けた。
「お前、騎士なんだよな?」
「はい」
「なら、普段使ってる剣は?」
「これです」
グレンが腰から抜いたのは、
いつもの木剣だった。
バルドは眉をひそめた。
「……ちょっと、見せてくれ」
受け取った木剣を、手の中で確かめる。
柄には、
長年の使用によって生じた凹凸があった。
指の位置に沿ったくぼみ。
掌が当たる部分の変形。握ったとき、
手の中に吸い付くように収まる形。
それは単に古びた木剣ではなかった。
持ち主の手に、完全に馴染んだ
木剣だった。
「……いったい、
どれだけ振ればこうなるってんだ」
バルドは呟いた。
誰に答えを求めるでもなく、
「ちょっと振ってみろ」
グレンは頷き、
工房の空いた場所へ移動した。
木剣を構え、
振る、
鋭い風切り音が響いた。
一閃
返す動きから、さらに一閃。
無駄な力みはない。
足運びも、剣先の軌道も、
全てがひとつに繋がっている。
まるで木剣が、
グレンの身体の一部に見える。
最後の一振りを終え、
グレンは静かに構えを解いた。
バルドは、しばらく何も言わなかった。
やがて、
木剣を持つ少年を見つめたまま、
カイルへ顔を向ける。
「……おい、カイル。こいつは何者だ?」
「言っただろう。
精鋭部隊への入隊が決まった騎士だ」
「そういうことを聞いてるんじゃねえ!」
バルドは
呆れたように声を上げた。
「これほどの使い手が、
なんで木剣を携えてるんだ?」
カイルは笑った。
「こいつは精鋭部隊に入隊が決まった。
そして、
オリハルコンを持ってここに来た」
鈍い金色の金属塊に目をやり、
それからバルドを見る。
「お前さんが仕事をするには、
充分じゃねえか?」
バルドはグレンを見た。
それから、木剣を返す。
「……なるほどな」
その声には、もう迷いがなかった。
「よし。引き受けてやる」
バルドは、
しばらくオリハルコンの塊を眺めていた。
やがて、
グレンの手にある木剣へ視線を移す。
「……もう一度、振ってみろ」
「はい」
グレンは工房の空いた場所へ進み、
木剣を構えた。
一振り。
続けて、二振り、三振り。
無駄のない動きだった。
腕力に任せて振り回すのではなく、
身体全体を使い、
剣の重さを自然に乗せている。
バルドは黙って、
その一連の動きを見つめた。
「……なるほどな」
「何かわかったのか?」
カイルが尋ねる。
「少なくとも、こいつに普通の剣を
持たせりゃいいって話じゃねえ」
バルドはグレンに向き直った。
「お前、剣を振るとき、
何を一番大事にしてる?」
「速さです。必要な場所に、
必要な一撃を届かせること。
それと、
次の動作に移りやすいことですね」
「威力よりもか?」
「威力も必要です。でも、
振りが遅ければ当たりません。
重すぎれば、
連続して振るうのにも支障が出ます」
バルドは口の端をわずかに上げた。
「……おもしれえことを言う」
鍛冶師として、これまで
数え切れないほどの剣を打ってきた。
だが、武器の性能ばかりを求め、
自分の動きを武器に合わせようとする者も
少なくない。
目の前の少年は違った。
剣に求めるものが、はっきりしている。
「よし。なら、こいつの性質を生かして、
お前に合わせた剣を作ってやる」
バルドは
オリハルコンを作業台へ置いた。
「ただし、少しばかり
変わった形になるかもしれねえぞ」
「使い易いなら、構いません」
「……言ったな」
バルドは楽しそうに笑った。
◆
それから数日、工房には
朝から晩まで槌の音が響き続けた。
オリハルコンは、
ただ硬いだけの金属ではない。
加工する者の技量が、そのまま
仕上がりに表れる。バルドは素材の特性を
見極めながら、何度も形を確かめ、
刃の厚みや反り、重心を調整していった。
「ミスリルなら、
魔力との相性を考えて作る。
だが、こいつは違う。
強度を生かしながら、
どこまで軽く、
どこまで鋭くできるかだ」
独り言のように呟き、
バルドは再び槌を振るう。
◆
そして、ついに完成の日が訪れた。
「……できたぞ」
工房の奥からバルドが持ってきたものを
見て、グレンは目を瞬かせた。
そこにあったのは、
一見すると木剣だった。
柄から鞘まで、
木製の稽古用の剣に見える。
飾り気もなく、奇抜な意匠もない。
「これが……?」
「抜いてみな」
言われるまま、グレンは柄を握った。
鞘を押さえ、静かに引き抜く。
スァッ
『現れたのは、鈍い金色の刃』
刃には穏やかな反りがあり、
片側だけに鋭い刃がついている。
余計な装飾はなく、光を受けた金色が、
刃の輪郭を静かに浮かび上がらせていた。
グレンは息を呑んだ。
「……こんな形の剣があるなんて」
グレンは、金色の刀身を傾けた。
刃の根元に、小さな文字が刻まれている。
見慣れない文字。少なくとも、
グレンの知るどの文字とも違う。
「……これは?」
「銘だ。古いドワーフの
文献に残っていた文字でな」
バルドは刀身に目を向けた。
「頼光。“魔を討つ者”という意味らしい」
「魔を……討つ者」
グレンには、
その文字を読むことはできない。
ただ、バルドが口にした名だけを、
静かに胸に刻んだ。
「……頼光」
グレンは刀を鞘へと納めた。
「伝説に残ってる剣だ。
“カタナ”って呼ばれてたらしい」
バルドは腕を組み、
グレンの手元を見つめた。
「本来なら、
特殊な技法でしか作れねえ代物だ。
今じゃ、その技を知る者も殆ど居ねえ。
だが、オリハルコンなら再現できる」
「なぜ、この形に?」
「お前の木剣を見て、考えたんだよ。
お前は剣を振るうとき、
力任せに叩きつけるんじゃねえ。
刃を走らせて、最短の動きで斬る。
その剣筋なら、こいつが合うと思った」
バルドは、グレンの握る柄を指さした。
「刃の形だけじゃねえ。重心も、握りも、
お前が振るったときに
一番自然になるように調整してある」
グレンは、ゆっくりと剣を構えた。
手首を返す。
刃が滑らかに動く。
もう一度、振るう。
木剣で何千、何万と繰り返してきた。
その感覚が、ほとんど途切れることなく
新しい剣へとつながっていた。
軽い
それでいて、
刃の先まで確かな重みがある。
まるで、長年使い込んできた木剣が、
そのまま真剣へと
生まれ変わったかのようだった。
「……すごい」
思わず漏れた言葉に、
バルドは満足そうに頷いた。
「少なくとも、お前が使うなら、
普通の剣よりこっちの方が強えだろうな」
「有難うございます。大切に使います」
「“大切に”か。そいつはいいが、
使い込んでこそ武器は応えてくれる。
その木剣みてえに存分に振るこった」
グレンは剣を鞘に納めた。
木剣にしか見えない、飾り気のない姿。
だが、その中には、伝説の金属と
熟練の鍛冶師の技が込められている。
「……カタナ、か」
グレンは、
もう一度その名を口にした。
「気に入ったか?」
「はい。
自分の手に、ぴったり合っています」
「そりゃよかった」
バルドは背を向け、
道具を片づけ始めた。
「おい、カイル。いい奴を連れてきたな」
「だろう?」
「次に何を持ち込むかは知らねえが、
仕事を選ぶのは俺だ。
そこだけは忘れるなよ」
「わかってるさ」
二人のやり取りを聞きながら、
グレンは小さく頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
バルドは振り返らない。
ただ、片手をヒラヒラと振った。
工房を出ると、
空は茜色に染まり始めていた。
グレンは腰に佩いた新しい剣へ、
そっと手を添える。
これから、
この剣とともに戦うことになる。
その実感が、ようやく湧いてきた。
「さて、武器も整ったことだし、
そろそろ実戦だな」
カイルの言葉に、グレンは顔を上げた。
「精鋭部隊の任務ですか?」
「ああ。近頃、王国内の各地で
“魔物の出現”が相次いでいる。
まずは現地へ向かい、
被害を抑えながら状況を確認する」
「魔物が、そんなに?」
「一か所だけなら、
珍しい話でもない。だが、
こうも各地で続くとなるとな」
カイルの声から、いつもの軽さが消えた。
「詳しいことは、現場で確かめる。
お前にとっては、
これが精鋭部隊としての初任務だ」
グレンは頷いた。
「わかりました。準備をしておきます」
「頼んだぞ」
二人は並んで歩き出した。
その頃、王国内のある場所では、
誰にも知られることなく、
一人の人物が報告を受けていた。
「……そうか。
今回も、兵の動きは確認できたのだな」
薄暗い室内
報告者が頭を垂れる。
「はい。ですが、
騎士たちの対応は予想以上に迅速でした」
「構わぬ。
まだ、確かめるべきことは残っている」
人物は、机上に置かれた
小さな何かを指先で押しつぶした。
乾いた音が、静かな部屋に響いた。
「次の準備を進めろ」
その声を聞く者は、他にいなかった。
そして、グレンたちはまだ知らない。
これから始まる任務が、
王国の各地で起きている異変の、
ほんの一端にすぎないことを……
後編につづく
新たな出会いが、グレンにもたらしたモノ
それがグレンの手にあるべくしてある。
さあ、異世界大活劇の始まりです!
総天然色でお送りします。
あっ、ゴメンナサイっ。描は無いですが
気持ち的に!です
◆◆◆キャラ紹介コーナー◆◆◆
鍛治師
バルド・グランツ
ドワーフ。
アステカの凄腕鍛治師。
オリハルコンも扱い、武具の歴史にも詳しい。
気難しく強面だが、認めた相手への面倒見が良い。




