第七話前編 『動き始める世界』
第二章もどんどん盛り上がってきますよー
今回のお話は“世界”
アステカ以外に、この世界には
いくつもの国があります。どんな国があるんでしょう^ ^
中央大陸
東西に広がる巨大な大陸には、
いくつもの国家が存在している。
大陸の北側を広く占める
ルージア帝国
大陸の東に位置し、
巨大な山脈の向こうに広がる
シン帝国
西側には
ポルタス王国
そして
パニアス王国
北西の海上には島国
ブリタニア王国
この二つの王国と山脈の間には、
いくつもの小国が存在していた。
互いに国境を接し。
互いに交易し。
そして
互いに警戒している。
この時代
人類の国々にとって、
もっとも身近な脅威は…他国だった。
◆
パニアス使節団が
アステカから戻る以前のこと。
パニアス王国
王宮の一室。
大きな机の上に、
一枚の地図が広げられている。
中央大陸、
その南には海が広がり、
その向こうには南大陸。
アステカ
そして西の海
そのさらに向こうには、西大陸。
アトランティス
「……北部の報告を、もう一度」
王の言葉に、側近が
手元の書類へ目を落とした。
「はい。北方で
魔物の出現件数が増加しています」
「被害は?」
「現時点では局地的です。
街や村が襲われる例はありますが、
大規模な侵攻と
呼べるほどではありません」
「群れで行動する個体が増えていると?」
「はい」
王は黙って地図を見つめた。
北
そして南
「……妙だな」
「何が、でしょうか?」
「いや」
王は首を横に振った。
「まだ、何とも言えぬ」
魔物の増加
それだけなら、珍しいことではない。
辺境では昔から起きている。
だからこそ
王は、それだけで騒ぐつもりはなかった。
しかし、
分からないものを、
分からないままにしておくことも
好まなかった。
王は地図の南端へ視線を移した。
海の向こう
南大陸
アステカ
中央大陸から見れば、遠い国だ。
文化も違う。
信仰も違う。
大陸発見以降も互いに敵対することも、
親密な関係を築くこともなかった。
ただ、最近になって、
少しずつ交流が始まっている。
「アステカへの使節団は?」
「すでに出発しております」
「そうか」
王は頷いた。
「西は?」
側近が答える。
「アトランティスへも、
ほぼ同時期に派遣しております」
王は地図の西へ目を向けた。
アトランティス
こちらもまた、中央大陸から
遠く離れた国。
知らない土地
知らない文化
知らない人々
だからこそ、
「調べておくべきだ」
王は静かに言った。
「知らないことと、
劣っていることは違う」
誰かに聞かせるためではなく。
自分自身に確認するような言葉だった。
「それに」
王は地図の上に指を置く。
南
西
そして北
「世界が少しずつ動いているのなら、
我々だけが動かずにいる理由もない」
側近が頷く。
「敵か、味方かを見極めるためですか?」
王は少し考えた。
「それもある」
そして
「だが、まずは知ることだ」
それ以上は語らなかった。
パニアス王国
その王は、未知を恐れる男ではない。
だからといって
未知を無条件に受け入れるほど、
お人好しでもなかった。
◆
同じ頃
中央大陸の東
巨大な山脈の向こう
シン王国
その王宮にも、
一枚の地図が広げられていた。
「ふんっ、パニアスが動いたか」
王が言った。
「はい。南大陸のアステカ。
そして西大陸のアトランティスへ、
ほぼ同時期に使節団を送ったようです」
「ふむ」
王は地図を眺める。
東西を隔てる巨大な山脈。
北には凍土が広がる。
南には海。
その先には、
いくつもの島々が浮かんでいる。
シンは広大な国土を持つ。
だが、その地理ゆえに
他国との交流は決して多くなかった。
だからこそ
外の世界で何が起きているのか。
王は誰よりも気にしていた。
「パニアスは、
わざわざ自分たちで調べるのか」
「そのようです」
「律儀なことだ」
王は椅子に深く腰掛けた。
「ならば、こちらは待てばいい」
側近が顔を上げる。
「待つ、のですか?」
「そうだ」
王は笑った。
「他国が金と時間を使って
情報を集めてくれるのだ。
こちらまで同じことをする必要はない」
パニアスが何を見るのか。
アステカがどんな国なのか。
アトランティスには何があるのか。
その答えを待ってからでも遅くはない。
王は地図の中央へ目を戻した。
「世界が広いからこそ、中心が必要だ」
静かな声だった。
「その中心は、我が国なのだ」
パニアスが世界を知ろうとするのなら。
シンは、その知識を使えばいい。
そう考える王だった。
◆
海を挟んだ西
ブリタニア王国
「パニアスが、
また余計なことを始めたようね」
玉座に座る女王は、
報告書を読みながら呟いた。
「南大陸と西大陸への使節団です」
「そう」
女王は紙を机へ置いた。
「アステカとアトランティス……」
知らない国
知らない土地
知らない資源
知らない力
それらが存在している。
それが、女王には気に入らなかった。
「調べなさい」
「どこまででしょうか?」
「全部よ」
臣下が困った顔をする。
「具体的に言いますと…」
女王の視線が上がった。
「私に聞くの?」
「……申し訳ありません」
「それを考えるのが、
あなたたちの仕事でしょう」
「はっ!」
臣下は慌てて頭を下げた。
女王は再び地図へ目を落とした。
中央大陸
南大陸
西大陸
世界は思っていたよりも広い。
ならば、
「広いのなら、
狭くすれば良いだけでしょう」
誰に聞かせるでもなく、女王は呟いた。
◆
さらに北東
ルージア帝国
広大な国土を持つ大国。
しかし、その北部には人の暮らせない
凍土が広がっている。
広い
だが
人間が住める場所は限られている。
その国を治める皇帝は、
パニアスの動きを聞くと、
興味深そうに地図を眺めた。
「南と西か」
「はい」
「パニアスは世界を調べるつもりらしい」
「我が国も使節団を?」
皇帝は首を横に振った。
「不要だ」
「しかし…」
「知らぬ土地も、いずれ分かる」
皇帝は地図の上で指を滑らせる。
広大な大地
国境
海
そして、その先に広がる未知。
「パニアスが調べる」
「シンが様子を見る」
「ブリタニアが欲しがる」
皇帝は薄く笑った。
「ならば、我々は最後に奪えばいい」
側近たちは何も言わなかった。
皇帝の言葉は、冗談ではない。
この男は、
本気で世界を手に入れるつもりだった。
◆
一方。
ポルタス王国。
パニアスの北に位置するこの国でも、他国の動きは把握されていた。
「南大陸への使節団ですか」
「そうだ」
王は報告書を閉じた。
「アトランティスへも同時期に送ったそうです」
「……そうか」
それだけだった。
「我が国からも何か?」
「いや」
王は首を横に振る。
「今は必要ない」
「北方の魔物については?」
「それも、まだ慌てる段階ではない」
穏やかな声。
戦争を好まない王。
それが、現在のポルタスだった。
だが、
この国の歴代の王が
戦争を繰り返してきたこと
を知る者は多い。
そして、
今の王が、戦えば決して弱くないこと
を知る者は少なくない。
争わない。
戦うべき時を見誤らない。
それが、この王の強さだった。
◆
そして、
中央大陸から遠く離れた南大陸。
アステカ王国
王の執務室
一人の大臣が国王へ報告を続けていた。
「陛下。パニアスから
使節団が来るとのことです」
「うむ」
「中央大陸の大国です。これまで、
我が国とは殆ど交流のなかった国ですぞ」
「そうだねえ」
「しかも、北方では魔物の出現が
増えているとの報告もあります」
「うーむ」
国王は黙って茶を飲んでいる。
大臣は構わず続けた。
「この状況で他国の使節団を
受け入れる以上、
警備の増強は必要でしょう。万一に備え、
王都周辺の兵力を増やすべきです」
「うーん…まだ良いであろう」
「しかし陛下…」
「もう少し待とうか」
「ですが、国防というものは、
何かが起きてからでは遅いのです」
「でもねえ」
「予算を確保しておけば、
兵の増員も武器の調達もできます。
今回を機に、各地方の守備隊にも
追加の資金を……」
「……いやあ、まだかなあ」
「…………」
大臣は一瞬、言葉を止めた。
しかし、
「少なくとも、
北部の守備隊だけでも増強を……」
「もう少し待とう」
「……左様でございますか」
大臣は、
どうにか飲み込むように頭を下げた。
「では、今後の情勢を見ながら、改めて
国防費の増額についてご検討ください」
「ああ、そうしよう」
「失礼いたします」
大臣は一礼し、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静寂
国王はしばらく何も言わなかった。
やがて、
先ほどまで大臣が立っていた場所へ、
視線を向ける。
その目は
先ほどまでの、
穏やかなものではなかった。
だが、何を考えているのか。
それを語る者は、誰もいなかった。
◆
世界は動き始めていた。
南へ
西へ
東へ
そして
北へ
だが、まだ誰も、それらを
一つの出来事として見てはいない。
北方で魔物が増えている。
それは事実。
しかし、
それは、あくまで辺境の問題だった。
少なくとも、今の人類にとっては。
各国は互いを警戒している。
パニアスは、世界を知ろうとしている。
シンは、
その動きを利用しようとしている。
ブリタニアは、
世界を自分の手に収めようとしている。
ルージアは、力によって
世界を支配しようとしている。
ポルタスは、争いを避けながら
静かに備えている。
アステカは………まだ静かに見ている。
そして、
北
凍土のさらに向こう。
季節によって海とも陸ともなる、
境界の先。
そこに何があるのかを
まだ、人類は知らない。
この時
世界の誰もが
まだ、人間同士の争いこそが
最大の問題だと思っていた。
だからこそ
北で起きている小さな異変に
本当の意味で目を向ける者は、
まだいなかった。
後編につづく
いかがです?
大国の首長が登場しました。各国の特徴、性格を表してみました。情報は少ないですが、国々の雰囲気がたくさん伝わると嬉しいです。




