第1話 月夜の禁足地
第1話 無事に書き終えました
不安定なペースの執筆ですが
読んで頂ければ幸いです
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夜の禁足地は静かだった。
静かすぎた。
本来なら、
森には葉擦れの音が満ちているはずだった。
枝が軋む音。
草を撫でる風の音。
夜鳥の羽ばたき。
遠くで鳴く獣の気配。
だが、
禁足地の夜は違った。
音だけが異様に遠い。
まるで森そのものが、
息を潜めているようだった。
その不自然さに、
ロイド・ディドラスは眉を寄せた。
「団長?」
後ろから部下の声。
ロイドは視線を森の奥へ向けたまま答える。
「……いや」
短く返す。
だが違和感は消えない。
肌にまとわりつくような、
冷たい風。
夜になってから、
禁足地の空気が明らかに変わっていた。
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王国第一騎士団。
総勢百二十名。
ディドラス王国最強と呼ばれる精鋭部隊である。
今回の遠征目的は三つ。
禁足地内部の調査。
高位素材の回収。
そして、
奥地に発生した異常現象の確認。
遠征開始から数日は順調だった。
S級モンスターを複数討伐。
希少鉱石や魔獣素材も確保。
被害は軽微。
むしろ歴代でも成功に近い遠征だと、
誰もがそう思っていた。
――今日までは。
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「各班、夜営準備を開始しろ」
ロイドの指示が飛ぶ。
騎士達は即座に動き始めた。
周囲の警戒。
結界杭の設置。
天幕の展開。
焚き火用の薪運び。
長期遠征に慣れた第一騎士団の動きに無駄はない。
「第三班、東側の警戒線を広げます!」
「補給班は食事の準備を急げ!」
声が飛び交い、
静かな森にわずかな活気が戻る。
やがて中央に焚き火が灯った。
赤い火が暗闇を照らし、
騎士達の鎧を鈍く反射させる。
討伐した魔獣の肉が焼かれ、
香ばしい匂いが漂い始めた。
「ここまで順調だと逆に不気味ですね」
若い騎士が苦笑する。
「馬鹿言え。
何も起きないのが一番だ」
別の騎士が笑い返した。
だが。
ロイドだけは、
笑わなかった。
彼は焚き火の揺れを見つめたまま、
静かに目を細める。
風向きがおかしい。
火が、
森の奥へ吸われるように揺れている。
そして。
ふっ――……
冷たい風が、
頬を撫でた。
その瞬間。
禁足地の空気が、
静かに変わった。
ロイドは腰の剣に手を添える。
――グルルルル……
低い唸り声が、
静まり返った森の奥から響く。
騎士達が一斉に立ち上がった。
空気が張り詰める。
「来るぞ!!」
誰かの怒号が飛んだ。
直後。
森の闇の中で、
紅い双眸がゆっくりと浮かび上がる。
それは、
異様な巨体だった。
木々の隙間から姿を現した黒い獣。
通常のヘルハウンドとは比較にならないほど巨大な体躯。
漆黒の毛並み。
剥き出しの牙。
口元から漏れる赤熱した吐息。
一歩踏み出すたび、
地面が重く沈んだ。
騎士達の間に動揺が走る。
ヘルハウンドは本来、
群れで行動する魔獣だ。
単独で現れること自体が珍しい。
まして、
これほど巨大な個体など、
誰も見たことがなかった。
ヘルハウンドは低く唸りながら、
騎士達を睨み据えている。
まるで、
獲物を選別しているかのようだった。
「総員、迎撃!!」
ロイドの声が夜に響く。
瞬間。
魔法陣が次々と展開された。
炎弾。
氷槍。
閃光。
無数の魔法が一斉に放たれ、
ヘルハウンドを爆炎が包み込む。
轟音が森を揺らした。
だが。
爆煙を突き破り、
黒い巨体が飛び出す。
「なっ――!?」
巨体とは思えない速度だった。
振るわれた爪が、
騎士を一人鎧ごと吹き飛ばす。
骨の砕ける音。
遅れて響く悲鳴。
「散開しろ!!」
ロイドが地面を蹴った。
銀色の剣閃が走る。
斬撃がヘルハウンドの肩を深く裂き、
黒い血が飛び散った。
しかし、
止まらない。
灼熱の牙がロイドへ迫る。
ロイドは剣で噛み付きを受け流し、
そのまま腹部へ蹴りを叩き込んだ。
巨体が僅かによろめく。
「今だ!!」
騎士達が再び魔法を放つ。
炎。
氷。
雷。
集中砲火がヘルハウンドへ降り注ぐ。
咆哮。
片目が潰れ、
全身から黒煙が立ち昇った。
それでもなお、
ヘルハウンドは立っていた。
騎士達の顔に恐怖が浮かぶ。
ロイドは剣を握り直した。
重い。
強い。
だが、
倒せない相手ではない。
ヘルハウンドが咆哮し、
再び突進する。
ロイドは真正面から迎え撃った。
激突。
火花。
牙と剣がぶつかり合い、
衝撃が大地を震わせる。
そして。
「――はあああああッ!!」
裂帛の気合いと共に放たれた一撃が、
ヘルハウンドの首元を深く切り裂いた。
巨体が大きく揺れる。
血を撒き散らしながら、
ヘルハウンドは地面へ崩れ落ちた。
ロイド•ディドラス•アーシニア
ロイくんと呼んでます笑
この世界ではかなり強い騎士様です
次回のお話は出来ていますので
順次、更新していきたいと思っております




