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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
序章  〜力の根源〜
8/51

特別編 エピソード3 ヒナ15歳 おっさんと光の剣

エピソード3このお話で完結です


なんとか主人公の成長過程を特別編で書けま


した


ここまで読んで頂いた皆様に感謝



 夕暮れの崖の上。


 ここは、あたしのお気に入りの場所だ。


 村から少し離れた高台。


 草の匂いと風の音しかしない静かな場所で、遠くには三日月山が見える。


 赤く染まり始めた空の下で、ぼんやり膝を抱えた。


 風が長い髪を揺らす。


 こうしてる時間、嫌いじゃない。


『人とは大変なものだな』


 頭の奥から、低い声が響いた。


 急に喋るからびっくりするんだよなぁ。


「あんたも共犯だからね?」


『……共犯?』


「毎回好き勝手言うし」


『貴様が勝手に動いているだけだ』


「でも止めないじゃん」


『止めても聞かんだろう』


「まあね」


 思わず笑う。


 すると、ふと思いついた。


「ねぇ」


『なんだ』


「今日から、ふーちゃんね」


『……何?』


「だって妖精っぽいし」


『どこがだ』


「でも声おっさんだし」


『……』


「だから、ふーちゃん」


 しばらく沈黙。


 絶対困ってる。


 想像するとちょっと面白い。


『意味が分からん』


「決定でーす」


 吹き出した笑い声が、夕風へ溶けていく。


 その時だった。


 ――ピタリ。


 風が止まる。


 空気が変わった。


 背筋を冷たいものが走る。


 反射的に顔を上げた。


 三日月山。


 その方向から、嫌な圧が流れてくる。


 重い。


 息が詰まる。


 肌を刺すみたいな殺気。


 ぞわりと本能が粟立った。


『ほう』


 頭の奥の声が低くなる。


 さっきまでの気の抜けた空気が消えていた。


『不吉とはあれのことではないのか?』


「……そうかも」


 山の向こう。


 空へ向かって、黒いマナが噴き上がっていた。


 嫌な感じしかしない。


 胸の奥がざわつく。


 身体が勝手に理解していた。


 ――あれは放っておいちゃ駄目だ。


「行かなきゃ」


 立ち上がる。


 崖の上を風が吹き抜けた。


 その瞬間、あたしの身体はもう走り出していた。



     ―――――



 三日月山、中腹。


 山へ足を踏み入れた瞬間から、空気がおかしかった。


 木々は黒く変色し、葉は枯れ落ち、風さえ重い。


 静か過ぎる。


 鳥もいない。


 虫の声すら聞こえない。


 生き物全部が、この先を恐れてるみたいだった。


「……気持ち悪……」


 思わず呟く。


『当然だ』


 頭の奥から低い声が響く。


『この先にいるのは災厄級だ』


 ふーちゃんの声ですら、少し硬い。


 その時だった。


 森が揺れる。


 重い音。


 一歩。


 また一歩。


 木々の奥から現れた巨大な影に、あたしは息を呑んだ。


 黒紫の鱗。


 月光を閉じ込めたみたいな眼。


 見上げるほど巨大な身体。


 存在してるだけで空気が歪んで見える。


 超弩級モンスター。


 ルナティック・ドゥライグ。


「……っ」


 背筋を冷たいものが走った。


 今までの相手とは格が違う。


 強いとか危険とか、そんな話じゃない。


 あれは――死だ。


 ルナティック・ドゥライグがゆっくり口を開く。


 次の瞬間。


 咆哮。


「っ――!!」


 鼓膜が震えた。


 山が揺れる。


 地面が軋み、木々がざわめく。


 一瞬、身体が止まりかける。


『右へ跳べ』


 反射だった。


 地を蹴る。


 直後、巨大な爪がさっきまでいた場所を抉り飛ばした。


 岩壁が砕け、無数の破片が宙を舞う。


『止まるな。次が来る』


 あたしは再び地を蹴った。


 小石が弾ける。


 身体が風みたいに森を駆け抜けた。


 振り下ろされた巨大な爪が大地を裂き、轟音と共に岩壁を砕く。


 その破壊を背後に感じながら、木々の隙間を滑るように走る。


 次の瞬間、唸りを上げた尾が薙ぎ払われた。


 空気が爆ぜる。


 何本もの大木がまとめてへし折れ、衝撃波が肌を刺した。


 身を低く沈め、その暴威の下を紙一重で潜り抜ける。


 止まったら終わる。


 だから前へ。


 爪撃が迫れば最小の動きで躱し、崩れた岩を足場に跳び、暴風みたいな連撃の中を縫うように駆け抜ける。


 山そのものが壊れていく戦場。


 その中で、あたしだけが妙に静かだった。


(速い……!)


 超弩級モンスター。


 なのに、信じられないくらい速い。


 でも。


 身体は不思議なくらい自然に動いていた。


 考えるより先に足が出る。


 恐怖より先に、本能が最適解を選び続ける。


 まるで戦い方を身体が覚えてるみたいだった。


 気付けば双剣を抜いていた。


「っ!!」


 踏み込み。


 銀閃。


 斬撃が黒紫の鱗を裂いた。


 硬い。


 でも。


(通った……!)


「いける……!」


『調子に乗るな、器』


「だからその呼び方やめて!」


 叫び返しながら距離を取る。


 心臓がうるさい。


 怖い。


 なのに。


 身体の奥が熱かった。


 もっと速く動ける。


 もっと斬れる。


 そんな感覚が全身を駆け巡っていた。


 その時だった。


 ルナティック・ドゥライグが動きを止める。


「……?」


 竜が大きく口を開いた。


 黒い光が集まっていく。


 空気が軋む。


 圧縮されていく闇。


 それを見た瞬間、血の気が引いた。


(まずい――!!)


 避けることはできる。


 でも。


 その先には。


「……村!」


 一直線だった。


 避けたらティーナ村まで届く。


『お前なら使えるだろ』


「え?」


『光の剣を出せ』


「はぁ!? 正気!?」


 そんなの聞いたこともない。


 使い方なんて分かるわけがない。


『受けろ』


「無茶言わないで――!!」


 次の瞬間。


 闇の奔流が放たれた。


 世界が黒に染まる。


 逃げたら終わる。


 だから。


 あたしは一歩前へ出た。


 耳元のピアスが熱を帯びる。


 白金の粒子が舞った。


「――太陽と月の影……」


 自然と言葉が零れる。


 知らないはずの詠唱。


 なのに身体が理解していた。


 光が集束する。


 あたしの手の中へ。


「我が刃に集まりて、無と生を等しく与えんこと!!」


 瞬間。


 光の剣が顕現した。


 白銀。


 でも、どこか月光みたいに静かな輝き。


 直後。


 闇のブレスが激突した。


「っぁああああ!!」


 轟音。


 白と黒が衝突する。


 押される。


 重い。


 全身が軋む。


 でも。


「……砕け、ない……!?」


 剣は壊れなかった。


 違う。


 耐えてるんじゃない。


 喰ってる。


 闇を吸収していた。


『ほう……』


 ふーちゃんの声が少しだけ変わる。


 次の瞬間。


「っ――ぁ……!?」


 激痛。


 膨大な闇が脳へ流れ込む。


 月蝕。


 破壊。


 終焉。


 壊れる世界。


 黒い感情。


 吐き気。


 頭が割れそうになる。


「う……あ……っ」


 膝が震える。


 それでも。


 その奥で。


 ひとつの言葉が浮かんだ。


「……光と闇は巡り、月蝕は境界を喰らう――」


 剣が変わる。


 白でもない。


 黒でもない。


 境界色。


 淡く揺れる、月蝕の刃。


 気付けば腕を振り抜いていた。


「終焉を眠りへ還せ――《月蝕封閃》」


 一閃。


 音が消える。


 次の瞬間。


 ルナティック・ドゥライグを覆っていた闇が霧散した。


 巨体がゆっくり崩れ落ちる。


 地面が震えた。


 そして。


 静寂。


「……はぁ……っ……」


 双剣を地面へ突き立て、荒く息を吐く。


 全身から力が抜けていく。


 まだ手が震えていた。


 今の何。


 本当にあたしがやったの?


「……なに、今の……」


『まだまだ力の使い方が甘いな』


 いつもの調子の声。


 疲れ切ったまま夜空を見上げる。


「ふーちゃん基準やめてよ……」


 静かな三日月だけが、淡く輝いていた。

哀川の過去の執筆ノートを今の感性でリメイ


クして執筆しています


大まかな流れはそのままですが、要所で哀川


が好きなものだったり…


こうだったら…と言うものを書いていければ


と…


不定期になりますが、次回から第1章1話から


執筆していく予定です


また、読んで頂ければ幸いです

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