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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
1章  禁足地の少女
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第36話  白耀蓮花



 遅れて衝撃音。


 白銀の残光が、

森を駆け抜ける。


 ロイドの視界から、

完全に消えていた。


「っ……!?」


 速い。


 今まで見たどの踏み込みより速い。


 ヒナの双剣が、

神獣へ白銀の軌跡を描きながら迫る。


「――《白耀連花》」


 瞬間。


 森へ、

無数の斬撃光が咲き乱れた。


 轟音。


 白銀の斬撃が、

森を埋め尽くす。


 木々が裂ける。


 地面が抉れる。


 衝撃だけで、

周囲の枝葉が吹き飛んだ。


 ロイドは息を呑む。


 速過ぎる。


 目で追えない。


 残るのは、

白銀の軌跡だけ。


 神獣の周囲へ、

無数の斬撃光が咲き乱れる。


 だが。


「……っ」


 ヒナの表情が、

僅かに変わった。


 浅い。


 確かに斬っている。


 だが。


 “崩れない”。


 神獣は、

白銀の嵐の中で静かに立っていた。


 避けている訳でもない。


 受け流している訳でもない。


 ただ。


 “対応している”。


 ロイドの背筋へ、

冷たいものが走る。


 今まで、

ヒナが押し切れなかった相手を見た事が無かった。


 ヒナの姿が消える。


 次の瞬間。


 神獣の背後。


 空気を裂く超高速踏み込み。


 二本の刃が、

白銀の光を引きながら振り抜かれる。


「――ッ!!」


 轟音。


 衝撃波が、

周囲の森を揺らした。


 だが。


 神獣は片腕で受け止めていた。


 白銀光と、

神獣の異質な圧がぶつかり合う。


 空気そのものが軋む。


 ヒナの瞳が、

僅かに細くなる。


「……へぇ」


 楽しそうでもあり。


 苛立っているみたいでもあった。


 神獣が静かに口を開く。


「美しい力だ」


「だが……

 未だ不完全」


 瞬間。


 重圧が落ちた。


 ロイドの身体が軋む。


「ぐっ……!」


 立っているだけで、

肺が押し潰されそうになる。


 コトハも顔を青くしていた。


 だが。


 ヒナだけは笑っていた。


「だから……

 訳わかんないって!」


 苛立ったみたいに言いながら、

地面を蹴る。


 白銀光が爆ぜた。


 次の瞬間。


 ヒナの周囲へ、

白銀光が渦巻く。


 空気が震える。


 ロイドは本能的に悟る。


 ――まだ上がある。


 ヒナが静かに双剣を構えた。


 そして。


 白銀混じりの亜麻色の髪が、

ふわりと揺れる。


 静かな声が、

森へ響いた。


「太陽と月の影……

 我が刃に集まりて、

 無と生を等しく与えんことを!」


 次の瞬間。


 白銀の光が爆発した。


 昼の森だった。


 だが。


 周囲の色が、

一瞬で白へ塗り潰される。


 木々の影。


 空気。


 地面。


 全てが、

“白銀の光”へ呑まれた。


 ロイドには、

空間そのものが裂けたように見えた。


 ヒナの姿が消える。


 直後。


 神獣の目前。


 白銀の斬光。


 轟音が遅れて森を揺らした。


「――ッ!!」


 衝撃波だけで、

周囲の木々が吹き飛ぶ。


 地面が割れる。


 白銀の光柱が、

空へ突き抜けた。


 ロイドは腕で顔を庇う。


 凄まじい圧。


 呼吸すら押し返される。


 その瞬間。


 ロイドは咄嗟に、

コトハを探していた。


「コトハ!!」


 白銀の暴風の中。


 小さな影が、

吹き飛ばされそうになっている。


 ロイドは地面を蹴った。


 衝撃波へ逆らうように踏み込み、

コトハの前へ滑り込む。


 片腕で抱き寄せる。


 直後。


 轟音。


 白銀光の余波が、

背中へ叩き付けられた。


「っ……!」


 肺が軋む。


 だが、

離さない。


 コトハを庇ったまま、

ロイドは前を見る。


 そして。


 白銀光の中心で戦うヒナを見て、

息を呑んだ。


 ヒナは止まらない。


 白銀の残光が、

神獣の周囲を縦横無尽に駆け抜ける。


 斬る。


 斬る。


 斬る。


 超高速連撃。


 まるで、

白銀の嵐だった。


 神獣の足元が砕ける。


 周囲の森が崩れる。


 それでも。


 神獣は倒れない。


 白銀光の中心で、

静かにヒナを見据えていた。


 そして。


 初めて。


 神獣が防御姿勢を取る。


 ロイドの背筋へ、

冷たいものが走る。


 ――受けるしかない。


 神獣ですら、

完全には捌き切れない。


 次の瞬間。


 ヒナが神獣の懐へ踏み込む。


 双剣へ、

白銀光が超圧縮されていく。


 空気が悲鳴を上げる。


 ヒナの瞳が、

鋭く細められた。


「終わりっ!!」


 白銀の十字斬撃。


 轟音。


 世界が揺れた。


 白煙が、

森を覆い尽くす。


 ロイドは息を呑んだ。


 終わった。


 そう思った。


 だが。


 白煙の奥。


 ゆっくりと、

巨大な影が立ち上がる。


 神獣だった。


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