第26話 鍛冶場の男達
「よし、決まり」
ヒナは満足そうに笑うと、
双剣を軽く肩へ担いだ。
陽光を受けた刀身が、
白銀色の光を散らす。
「ガンテツおじさん、
多分ロイ気に入ると思うよ」
「……そういうものか?」
「うん。
強い武器作るの好きだから」
「あと変な拘り強い」
「おいヒナ。
聞こえとるぞい」
ヨネが呆れたように言う。
ヒナは「あはは」と笑って誤魔化した。
「じゃ、行こっか」
そのまま歩き出すヒナ。
ロイドも後へ続く。
コトハも慌てて駆け寄った。
「わたしも行くー!」
「おまえさんはまず、
マナ圧縮成功率を上げんかい」
「うぅっ……」
ヨネに言われ、
コトハがしょんぼり肩を落とす。
だが数秒後には、
もう気を取り直していた。
「でも新しい剣見たい!」
「まぁ、
見学くらいなら構わんじゃろ」
ヨネも湯飲みを置き、
ゆっくり立ち上がる。
こうして四人は、
鍛錬場を後にした。
昼のティーナ村は穏やかだった。
畑仕事をする村人。
洗濯物を干す声。
子供達の笑い声。
王都とは違う。
肩肘張らない、
静かな生活の空気。
ロイドは歩きながら、
ふと周囲を見回した。
最初は異質だった。
理解不能だった。
だが今は、
少しだけこの空気が心地良いと思っている自分がいた。
「ロイ?」
前を歩いていたヒナが、
振り返る。
「どうかした?」
「……いや」
ロイドは小さく首を振った。
「平和な村だと思ってな」
その瞬間。
ヒナとヨネが、
何とも言えない顔をした。
「……平和?」
「お兄ちゃん、
感覚麻痺してきてるかも」
「え?」
コトハが村外れを指差す。
そこでは、
村人達が巨大な牙猪を数人がかりで解体していた。
しかも。
「あ、そこの骨残しといてー!
スープに使うからー!」
「おう!」
笑顔で会話している。
ロイドは少し黙った。
……やはり、
この村はおかしい。
「慣れって怖いね〜」
ヒナがくすくす笑う。
そんな話をしている内に、
村外れの一角が見えてきた。
巨大な煙突。
黒煙。
響く金属音。
熱気。
近付くだけで、
空気が変わる。
ガンッ!!
腹へ響くような重い音。
まるで鐘みたいな金属音だった。
「相変わらず元気だねぇ」
ヒナが苦笑する。
その先。
巨大な炉の前で、
筋骨隆々の男が鉄塊を打っていた。
分厚い腕。
岩みたいな背中。
白髪混じりの短髪。
振り下ろされる大槌の度、
火花が散る。
「おーい、ガンテツおじさーん!」
ヒナが手を振る。
男はゆっくり顔を上げた。
鋭い目が、
ロイドを捉える。
「……ほぉ」
低い声だった。
「お前さんが、
外から来た騎士か」
その視線だけで、
空気が少し重くなる。
職人特有の圧。
いや、
それ以上だ。
まるで武器そのものみたいな威圧感だった。
ロイドは自然と姿勢を正す。
「ロイド・ディドラスだ」
「ガンテツだ」
短い名乗り。
だが、
妙な重みがあった。
直後。
鍛冶場の奥から、
ぱたぱたと軽い足音が響く。
「えっ!?
ヒナちゃん来たの!?」
現れたのは、
妙に派手な男だった。
長い髪を後ろで結び、
装飾過多な服を纏っている。
耳には大量のピアス。
指輪。
首飾り。
しかも無駄にキラキラしていた。
「っていうかイケメン連れてるー!?」
「…………」
ロイドは一瞬固まる。
距離感が近い。
妙に近い。
「こっちはハナお兄ちゃん」
「ハナオで〜す♡」
ぐいっと顔を寄せてくる。
「わぁ〜……
異国の守り人様って感じ〜」
「……そうか」
「真面目!
硬い!
でも顔良い!」
「…………」
ロイドは少し押されていた。
その様子を見て、
ヒナが吹き出す。
「ロイ、
完全に押されてるじゃん」
「……お前は慣れてるのか」
「もう十年以上の付き合いだからね〜」
ヒナは慣れた様子で笑った。
ガンテツはそんなやり取りを横目に、
ロイドをじっと見つめる。
やがて。
「で?」
大槌を肩へ担ぎながら口を開いた。
「ヒナがわざわざ連れて来たって事は、
武器絡みだろ」
ロイドの表情が少し引き締まる。
「あぁ」
静かに頷いた。
「剣を新調したい」
その瞬間。
ガンテツの目が、
僅かに細くなる。
職人の目だった。
ロイド自身を見る目ではない。
“どんな剣を求めているか”
を見抜こうとする視線。
鍛冶場の熱気が、
ゆっくり空気を揺らしていた。
ガンテツはしばらく黙ったまま、
ロイドを見ていた。
鋭い視線。
まるで、
剣そのものを品定めするような目だった。
やがて。
「……今、
剣は持っとるか」
「あぁ」
ロイドは腰の鉄剣へ手を添える。
鍛錬用として借りている、
簡素な片手剣。
王都時代なら、
まず戦場で使う事はない代物だ。
ロイドが鞘から抜くと、
ガンテツは無言で受け取った。
その瞬間。
「うわ、
絶対ダメ出し始まるやつだ」
ヒナが小声で呟く。
「始まるね〜」
コトハも頷く。
ハナオは苦笑しながら肩を竦めた。
「ガンちゃん、
武器絡むと超怖いからねぇ」
ガンテツはそんな声を無視し、
鉄剣を軽く振る。
ヒュン――
風切り音。
次の瞬間。
「……軽過ぎる」
低い声が落ちた。
「しかも脆い」
ガンテツは眉を寄せる。
「今のお前さんの身体強化に、
全く耐えられとらん」
ロイドの表情が少し険しくなる。
やはりそうか、
という感覚はあった。
最近、
剣を振る度に違和感が増していた。
踏み込みに対して、
剣が遅れる。
出力に、
刃が追い付いていない。
「普通の鉄じゃ限界だ」
ガンテツは鉄剣を返しながら続けた。
「今のお前さん、
無意識でマナ流し込んどるぞ」
「……無意識で?」
「あぁ」
ガンテツは鼻を鳴らす。
「しかも質が妙だ」




