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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
1章  禁足地の少女
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第23話  光鎌蟲王



 ――速い。


 ロイドの視界から、


《光鎌蟲王ルクス・マンティス》の姿が掻き消える。


 直後。


 耳元を裂くような風切り音。


 ロイドは反射的に身体を沈めた。


 銀閃。


 頭上を巨大な鎌が薙ぎ払う。


 遅れて、


背後の大樹が斜めに滑り落ちた。


「っ……!」


 異常な切断力。


 だが。


 見えている。


 以前の自分なら、


今の一撃すら認識出来なかった。


 ロイドは地面を蹴る。


 身体が軽い。


 踏み込みが深い。


 剣速が伸びる。


「はぁっ!」


 鋭い踏み込みから放たれる横薙ぎ。


 金属音。


 火花。


 《ルクス・マンティス》の鎌と剣が激突する。


 重い。


 だが押し負けない。


 ロイドは目を見開く。


「……本当に、動ける……!」


 剣を滑らせ、


即座に二撃目。


 さらに踏み込む。


 騎士団長として叩き込まれた剣技が、


変化した身体能力によって加速していく。


 《ルクス・マンティス》が跳ぶ。


 木々を蹴り、


上空から鎌を振り下ろす。


 ロイドは半歩ずれるように回避。


 直後。


 地面が裂ける。


 土砂が吹き飛ぶ。


 その隙へ。


「――っ!」


 ロイドは剣を振り抜いた。


 斬撃が、


蟷螂の外殻を浅く裂く。


 白銀の破片が宙へ散った。


 《ルクス・マンティス》が低く唸る。


 ロイドは息を呑む。


 斬れた。


 S級クラスの外殻を。


 ティーナ村の練習用剣で。


 それだけ、


今の自分の身体能力が異常だという事だった。


 《ルクス・マンティス》が木々の上へ跳ぶ。


 消える。


 次の瞬間には、


別の枝へ。


 さらに次。


 残光だけを残し、


森の中を高速移動していく。


「……見失うかよ!」


 ロイドは視線を走らせる。


 葉の揺れ。


 枝の軋み。


 空気の流れ。


 気配。


 全てが、


以前より鮮明に読める。


 右。


 ロイドは即座に剣を振る。


 ギィンッ!!


 激突。


 鎌を受け止める。


 衝撃が腕を痺れさせた。


 だが。


 止められる。


 踏み負けない。


 《ルクス・マンティス》が咆哮する。


 その口元へ、


淡い白光が集まり始めた。


「……っ!?」


 瞬間。


 光刃が放たれる。


 ロイドは咄嗟に回避。


 白い斬撃が森を裂いた。


 大樹がまとめて切断され、


轟音と共に倒れていく。


「なんて威力だ……!」


 息を呑む。


 だが。


 身体は不思議と冷静だった。


 戦える。


 読める。


 反応できる。


 夜の森。


 月光。


 この空間そのものが、


自分の感覚を研ぎ澄ませている。


「はぁっ!!」


 ロイドは地面を蹴る。


 一気に間合いを詰める。


 剣閃。


 連撃。


 騎士式剣術。


 正確な重心移動。


 最小動作。


 王国第一騎士団長として磨き上げた技術が、


今の身体能力と噛み合っていく。


 《ルクス・マンティス》の鎌を弾き、


懐へ潜り込む。


 そして。


「――っ!」


 一閃。


 深く。


 今度は確かに、


外殻を裂いた。


 黒い体液が飛び散る。


 《ルクス・マンティス》が苦悶の咆哮を上げた。


 同時に。


 ロイドの剣へ、


淡い月色粒子が纏い始める。


 静かに。


 呼吸するように。


 まるで、


剣そのものが光を帯びていくみたいに。


 だが。


 ロイド本人は、


まだ気付いていない。


「いける……!」


 胸が熱くなる。


 今なら戦える。


 守られるだけじゃない。


 自分も、


誰かを守る側へ立てる。


 だが次の瞬間だった。


 《ルクス・マンティス》の身体から、


黒い靄が噴き出した。


「――!?」


 空気が震える。


 森が軋む。


 殺気が変わる。


 白銀だった外殻へ、


黒い亀裂のような模様が走り始めた。


 鎌が肥大化する。


 マナ圧が跳ね上がる。


 嫌な気配。


 禁足地で感じた、


あの異常な圧力に近い。


「なんだ……これは……!」


 ロイドの背筋へ、


冷たいものが走る。


 《ルクス・マンティス》が咆哮した。


 黒い月光が、


森を揺らす。


 その瞬間。


 《ルクス・マンティス》が消えた。


 先程より速い。


「っ!!」


 反応は出来た。


 だが。


 間に合わない。


 振り抜かれる黒鎌。


 ロイドは咄嗟に剣を盾にする。


 轟音。


 凄まじい衝撃。


「がっ――!!」


 身体が吹き飛ぶ。


 木へ叩き付けられ、


肺から空気が漏れた。


 鉄剣へ亀裂が走る。


「……くそっ……!」


 立ち上がろうとした瞬間。


 気配。


 背後。


 速い。


 振り返るより先に、


巨大な鎌が迫る。


 避け切れない。


 そう確信した瞬間。


 夜の森を。


 白い閃光が裂いた。

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