第22話 白閃の森
6月の初投稿になります
火曜日、金曜日で更新していこうと
思っております
遺跡は、静かだった。
先程まで発光していた古代文字も、
今は淡い光を残すだけで、
神域のような静寂が広がっている。
澄み切った空気。
冷たい月光。
まるで世界から音そのものが消えたような空間。
その中で――
ロイドは、遠くを見ていた。
森の奥。
ティーナ村のさらに先。
禁足地側。
そこから。
低く響く咆哮が、夜を震わせた。
直後。
夜空を裂くように、
白い閃光が走る。
「――っ」
ロイドは息を呑む。
見間違えるはずがなかった。
あの光は。
ヒナだ。
月明かりとも違う、
純白の斬光。
静かな夜を切り裂く、
圧倒的な力。
自然と、
ロイドの脳裏へ蘇る。
ティーナ村へ来てから、
ずっと感じ続けていた違和感。
重傷だった身体。
本来なら、
まだ満足に剣など振れないはずだった。
だが。
夜になるほど、
感覚が鋭くなる。
身体が軽い。
治癒も異常なほど早い。
失っていたはずの感覚が、
少しずつ戻ってきている。
いや。
戻るどころではない。
以前より動ける。
そんな確信すらあった。
「……」
ロイドは静かに拳を握る。
自分は、
王国第一騎士団長。
ロイド・ディドラス。
本来、
守られる側の人間ではない。
誰かを守る側だ。
だというのに。
ティーナ村へ来てから、
何度ヒナに助けられただろう。
命を救われ。
看病され。
守られ続けている。
感謝はある。
だが同時に。
騎士としての誇りが、
胸の奥で静かに疼いていた。
まだ、
剣を捨ててはいない。
まだ戦える。
ユヅキに告げられた言葉が脳裏を過る。
『夜間強化』
『感覚進化』
『異常治癒』
『マナ適応』
外の人間では、
本来あり得ない変化。
だがもし。
今の自分なら。
「……少しくらいは」
「力になれるかもしれない」
そう呟き、
ロイドは腰へ手を伸ばす。
だが次の瞬間。
「……っ」
僅かに表情が歪んだ。
愛剣は、
禁足地遠征で折れている。
今の自分には、
騎士団長として振るっていた剣はない。
残っているのは、
ティーナ村で借りている簡素な生活用装備だけだった。
ロイドは一度、
月遺跡の出口方向へ視線を向ける。
そして。
「……せめて、剣くらいは必要か」
小さく息を吐き、
村の鍛錬場へ向かった。
夜の鍛錬場は静かだった。
木製人形。
積まれた木剣。
訓練用武器棚。
その中からロイドは、
一本の鉄剣を手に取る。
ティーナ村の練習用剣。
王国騎士団装備と比べれば、
粗削りで無骨。
だが。
「……悪くない重さだ」
軽く振る。
風切り音。
以前より遥かに身体が馴染む。
握った瞬間、
違和感より先に、
“動ける”感覚が来た。
ロイドは静かに目を細める。
「本当に……身体が変わってやがる」
その背後で。
ユヅキが静かに目を細めていた。
「行くのですね」
「ああ」
短く答える。
ユヅキは止めなかった。
ただ。
どこか、
全てを見通しているような瞳で、
ロイドを見つめる。
「……夜の森は危険です」
「特に今は」
「分かってる」
ロイドは小さく笑った。
「だが」
「俺は騎士だ」
その言葉に、
ユヅキは僅かに目を伏せる。
そして。
「……無理はしないでください」
静かな声だけが返ってきた。
ロイドは頷き、
剣を肩へ担ぐ。
そして。
夜の森へ足を踏み入れた。
瞬間。
空気が変わる。
冷たい。
いや。
重い。
木々の隙間から差し込む月光が、
白く地面を照らしている。
静寂。
だがその奥に、
確かな気配があった。
遠くの葉擦れ。
獣の呼吸。
木の軋み。
全てが異様なほど鮮明に分かる。
「……っ」
ロイドは目を見開く。
見える。
暗闇が。
聞こえる。
遠くの音が。
さらに。
身体が軽かった。
踏み込みが鋭い。
呼吸が深い。
禁足地遠征時より、
明らかに動けている。
ロイドは改めて実感する。
ティーナ村へ来てから、
自分の身体は確実に変わり始めている。
その時だった。
ゾクリ、と。
首筋を撫でるような殺気。
瞬間。
ロイドは反射的に横へ跳ぶ。
直後。
轟音。
先程まで立っていた場所へ、
巨大な鎌が叩き込まれた。
「……!」
木々が裂ける。
土が抉れる。
ロイドは即座に剣を抜いた。
月光の中。
ゆっくりと姿を現す。
巨大な蟷螂。
白銀の外殻。
半透明に輝く身体。
月光を纏う巨大な鎌。
だが異様だった。
身体の周囲へ、
黒い靄が絡み付いている。
荒れ狂う気配。
濁った殺意。
「異常個体……!」
ロイドは低く呟く。
次の瞬間。
蟷螂型モンスター――
《光鎌蟲王ルクス・マンティス》が、
消えた。
なかなかお話が進みません笑
第1章は長いですが、皆様お付き合いくださ
いませ…




