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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
1章  禁足地の少女
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第17話  月が息づく場所



――その時だった。


ぞわり。


不意に、

空気が揺れた。


「……!」


ロイドの表情が変わる。


静かなのに、

異様な存在感だけがある。


空気そのものが、

何かへ引き寄せられているような感覚。


胸の奥が脈打つ。


身体の内側を、

淡い熱が流れていく。


あの日。


禁足地で感じた、

あの異様な気配に少し似ていた。


だが違う。


もっと静かで。


もっと深い。


身体が、

無意識にそちらへ向く。


導かれるように、

ロイドは歩き出していた。


村外れ。


崖へ続く細道を抜ける。


近付くほど、

周囲の空気が静かになっていく。


風の音すら遠い。


草木の揺れる音だけが、

やけに鮮明に耳へ届く。


やがて。


開けた崖の先端へ辿り着く。


そこに、

少女がいた。


白銀の髪が風に揺れている。


ヒナだった。


崖の先端へ静かに座り、

目を閉じている。


ただそれだけ。


それだけのはずなのに。


空気そのものが、

ヒナを中心に静まっていた。


淡い月色の何かが、

呼吸に合わせるように揺らめいている。


王都で見てきたルナとも違う。


もっと静かで。


もっと“生きている”ような感覚。


陽光の中なのに、

ヒナの周囲だけは淡い月色を纏っていた。


境界が曖昧だ。


まるでヒナ自身が、

世界へ溶け込んでいるみたいだった。


だが、

確かに“力”だった。


ロイドは思わず息を呑む。


綺麗だった。


静かで。


神秘的で。


だが同時に、

得体の知れない畏怖もあった。


世界そのものが、

少女へ呼吸を合わせているみたいだった。


声を掛けようとした、

その瞬間。


ヒナがゆっくり目を開いた。


朝日を受けた蒼い瞳が、

淡く透き通る。


「あれ?」


くるりと振り返る。


「よくここ分かったね」


驚いた様子もなく、

ヒナは小さく笑う。


「ここ、あたしのお気に入りなんだ」


その笑みを見て、

ロイドは一瞬言葉を失った。


さっきまでの神秘的な空気が、

一瞬で薄れる。


年相応の少女みたいな顔だった。


だが。


ヒナ本人は気にした様子もなく、

立ち上がる。


「さて……と」


ぐ、と軽く身体を伸ばす。


骨が小さく鳴る。


「そろそろ巡回行かなきゃ」


「巡回?」


ヒナはそこで、

ふとロイドの顔を見た。


そして少しだけ目を細める。


「……ロイドも感じてる?」


「何をだ?」


「今日は朝からモンちゃん達騒がしいよね」


モンちゃん達。


意味不明な単語だった。


だが。


ヒナの表情は少しだけ真剣だった。


風が吹く。


白銀の髪が揺れる。


「あっち側、

ちょっと空気変なんだよね」


そう言いながら、

ヒナは森の奥へ視線を向けた。


ロイドもつられてそちらを見る。


――ぞわり。


まただ。


嫌な感覚。


空気の奥で、

何かが蠢いている。


ヒナは小さく息を吐き、

崖の縁へ立つ。


「じゃ、行ってくる」


「お、おい待――」


次の瞬間。


ヒナはそのまま崖から飛び降りた。


だが。


下の岩場を蹴り、

ヒナは獣みたいな速度で駆け抜けていく。


白銀の残像が、

森の中へ消える。


一瞬で距離が開く。


村の外――周辺地域へ向かったと思った頃には、

もう小さくしか見えなかった。


ロイドは呆然とその姿を見送る。


その時。


ヒナが消えた先から、

再び空気の揺らぎを感じた。


先ほどの波動。


だが今度は少し乱れている。


ざわつくような、

嫌な気配。


ロイドは眉を寄せた。


そして小さく呟く。


「あいつ……いつもああなのか?」


返事はない。


吹き抜ける風だけが、

静かに崖を撫でていく。


ロイドは眉を寄せたまま、

ヒナが消えた森の奥を見つめた。


胸の奥が、

妙にざわついている。


嫌な予感。


だが同時に、

目を離してはいけない何かが、

あの少女にはある気がしていた。


ティーナ村。


穏やかで。


静かで。


どこにでもありそうな小さな村。


――そのはずだった。


だが実際は違う。


村人達は皆、

当たり前みたいに異常な力を扱う。


そして。


ヒナ・ソレイル。


あの少女だけは、

その中でも明らかに異質だった。


ロイドは小さく息を吐く。


遠くで鳥が鳴いた。


陽光は暖かい。


だが。


森の奥から流れてくる空気だけが、

どこか冷たく感じられた。


まるで、

何かが始まろうとしているみたいに。

5月もあっという間ですね…


春夏秋冬、最近は冬と夏しか来ないような…


6月からの更新は、週2回を考えております


まずは第1章を書き終えたいです笑

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