第11話 白銀のぬくもり
出会い編の続きになります
「……いや」
掠れた声が、
静かな部屋へ落ちる。
まだ熱の残る喉は上手く動かず、
短い言葉を返すだけでも胸の奥が軋んだ。
だが。
少女はそんなロイドの返答を聞いても、
すぐには離れなかった。
透き通る蒼い瞳が、
真っ直ぐこちらを見つめている。
近い。
吐息が触れそうなくらい近い距離。
白銀の髪から、
淡い花みたいな香りが漂っていた。
ロイドは思わず視線を逸らす。
すると少女は、
ようやく張り詰めていたものが解けたみたいに、
小さく息を吐いた。
「……ちゃんと喋れてる」
その声には、
隠しきれない安堵が滲んでいた。
まるで。
目の前の男が言葉を返したことだけで、
救われたみたいに。
ロイドは僅かに眉を寄せる。
「……?」
少女はそんなロイドを見つめながら、
少しだけ困ったように笑った。
「昨日までは、
ずっと苦しそうだったから」
その瞬間。
少女の表情へ、
かすかな陰りが落ちる。
熱に魘されながら、
何度も呻いていた姿。
苦しそうに息を繰り返し、
時折小さく震えていた身体。
それらを思い出したのだろう。
少女はゆっくり視線を伏せ、
小さな声で続けた。
「だから……
起きてくれて、ほんとによかった」
「……お前が、
助けたのか」
掠れた声だった。
まだ熱の残る喉では、
短い言葉を吐き出すだけでも苦しかった。
それでも。
どうしても聞かずにはいられなかった。
目の前の少女が。
あの血塗れの戦場から、
自分を連れ出したのか。
少女は、
きょとんと小さく瞬きをする。
まるで、
そんなことを聞かれる意味が分からない、
と言いたげに。
それから。
少し困ったように眉を下げ、
柔らかく笑った。
「森で倒れてたから」
返ってきた言葉は、
驚くほどあっさりしていた。
大したことじゃない、
と言うみたいに。
恩着せがましさも。
誇らしさも。
何もない。
ただ、
そこに倒れていたから拾った。
それだけだとでも言うように。
「死んじゃいそうだったし」
静かな声だった。
けれど。
その一言には、
不思議なくらい迷いがなかった。
助ける理由を、
疑ったことすらないみたいに。
王都では。
誰かを助けるという行為にも、
必ず“意味”が求められた。
利益。
立場。
打算。
貴族達は価値で人を測り、
騎士達は責任と功績で動く。
優しさだけでは、
生きていけない世界だった。
第一騎士団長であるロイドへ向けられる視線も、
決して単純なものではない。
期待。
畏怖。
羨望。
政治利用。
王国最強という肩書きは、
人を惹き付けると同時に、
距離も作っていた。
だからロイドは、
誰かが無条件で手を差し伸べる事に慣れていなかった。
見返りもなく。
名前も知らず。
身元すら分からない相手を。
ただ、
「死にそうだったから」
その理由だけで助ける。
しかも、
一週間も付きっきりで看病していたのだ。
それはロイドにとって、
あまりにも理解し難い優しさだった。
だからこそ。
ヒナの言葉は、
戦場で張り詰め続けていた心へ、
静かに沁み込んでいく。
責務でもなく。
忠誠でもなく。
期待でもない。
ただ、
「生きていてよかった」
そう言われた事実が。
ロイドには、
月明かりみたいに静かで、
どうしようもなく眩しく感じられた。
ロイくんの真面目さと、ヒナの優しさが出せ
ればと、執筆しました
なので、まだ続きますけれど、良かったら
お付き合いください…
読んで頂きありがとうございました




