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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
1章  禁足地の少女
14/15

第6話  真紅の瞳の狩る者

ヒナ視点の中盤です


ロイくんとヒナの心境を表現できれば…



     ―――――



ヒナは、

ティーナ村から離れた森の奥へ足を踏み入れていた。


頭上では、

枝葉の隙間から月光が零れ落ちている。


夜風が木々を揺らすたび、

淡い銀光が地面を滑るように流れていった。


昼間追いかけていた、

珍しい生き物の痕跡を探していたはずなのに、

気付けばかなり深い場所まで来てしまっている。


村の賑やかさは、

もう聞こえない。


あるのは、

森が息づく静かな音だけだった。


ため息が、

静かな森へ白く溶けていく。


追いかけていた気配は、

もう完全に途切れていた。


木々の隙間を見上げても、

あの珍しい生き物の影はどこにもない。


「……帰ろっかなぁ」


気の抜けた声を漏らし、

ヒナは軽く肩を回した。


——ぴたり。


その瞬間、

森の音が消えた。


葉擦れが止む。


虫の羽音が消える。


さっきまで頬を撫でていた夜風さえ、

不自然なほど唐突に途絶えていた。


静かだった。


あまりにも静かすぎた。


森そのものが、

息を潜めているみたいだった。


空気が重い。


肌へまとわりつくような圧が、

ゆっくりと周囲を満たしていく。


ヒナの足が止まる。


気怠げだった表情が、

すっと消えた。


真紅の瞳が細められる。


その視線の先。


暗い森の奥から、

赤黒い気配が滲み出していた。


「……この先で、

何か暴れてる」


風が流れる。


冷たい夜気が、

森の奥から静かに流れ込んできた。


その中に混じっていた。


鉄みたいに生臭い、

濃い血の臭い。


焼け焦げた肉の臭い。


獣特有の、

湿った獰猛な臭気。


そして——


それら全部を覆い隠すほど濃密な、

赤黒いマナ。


月蝕に侵された異質な力が、

まるで瘴気みたいに森へ滲み出していた。


息を吸うだけで、

肺の奥まで重く淀む。


空気そのものが腐っているみたいだった。


木々がざわめく。


地面が、

微かに脈打つ。


生き物としての本能が、

「あれに近づくな」と警鐘を鳴らしていた。


けれど——


ヒナの真紅の瞳だけは、

逆に愉しげに細められていく。


「……ケルベロス」


小さく呟いた声が、

静かな森へ溶けていった。


鼻をひくつかせた瞬間、

眉がわずかに動いた。


「月蝕に飲まれたかな……」


変異種なら、

これまで何度も倒してきた。


けれど、

今漂っている気配は明らかに異質だった。


濃い。


あまりにも濃すぎる。


まるで、

森そのものが腐り始めているみたいに、

赤黒いマナが空気へ滲み出している。


普通なら、

本能的に逃げ出したくなるような気配。


だが——


ヒナの口元は、

逆に楽しそうに吊り上がっていた。


「……面白そう」


その瞬間だった。


誕生日のことも。


ユッキーちゃんのおみくじも。


昼間から追いかけ回していた、

あの珍しい生き物のことさえ。


全部、

綺麗に頭の中から消えていた。


今、

ヒナの意識を埋め尽くしているのは——


森の奥で暴れる、

異様なマナの気配だけだった。


胸の奥が、

ぞくぞくと騒いでいる。


恐怖じゃない。


もっと原始的で、

抗いようのない高揚感。


強い敵を前にした時だけ、

身体の奥底で静かに燃え始める熱だった。


「……行かなきゃ」


誰に言うでもなく、

小さく呟く。


次の瞬間。


ヒナの身体が、

夜の森を裂いた。


地面を蹴った衝撃で、

周囲の草木が大きく揺れる。


踏み込んだ場所が浅く陥没し、

遅れて土が弾け飛んだ。


速い。


風より先に、

白銀の髪が闇を駆け抜けていく。


木々の隙間を縫うように、

細い身体が滑る。


枝が弾ける。


夜風が裂ける。


流れていく森の景色の中で、

月明かりだけが、

鋭くヒナの姿を照らしていた。


その姿はまるで——


夜を切り裂いて走る、

銀色の獣みたいだった。

読んで頂きありがとうございました


お話の更新の時間と、日程…


あまり考えてなかったんですが…


当面は20時30分に固定していきたいと思っております


掲載スピードは哀川の身体と相談で…


ある程度書き溜められたら、また考えてみま


す…

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