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双月のヒナ 〜禁足地の戦乙女〜  作者: 哀川 とあ
1章  禁足地の少女
13/17

第5話  禁足地のヒナ

ロイくん視点第1話のヒナ視点のお話


本編始まりからややこしくてごめんなさい



     ―――――



陽の光が、三日月山を柔らかく照らしていた。


空は高く澄み渡り、吹き抜ける風はどこか眠たげにぬるい。


崖の端に腰を下ろしたヒナは、頬杖をつきながらぼんやりと山を眺めていた。


銀色の髪は、

崖を渡る風にさらわれるように揺れていた。


細く長い髪が、

陽光を受けるたび淡く輝き、

まるで月明かりの名残が昼へ溶け込んでいるようにも見える。


その流れに合わせるように、

左耳のピアスが小さく揺れた。


小さな金属音。


陽の光を反射した輝きが、

一瞬だけヒナの頬を掠める。


それはただの装飾ではない。


無意識のうちに触れてしまうほど、

彼女にとって大切なものだった。


「……なんにもないなぁ」


ぽつりと零れた声は、そのまま空へ溶けていく。


禁足地側も妙に静かだった。


モンスターの気配もない。


瘴気の流れも薄い。


「あーあ……つまんない」


足をぶらぶらと揺らしながら空を見上げる。


その時だった。


「あ」


思い出したように目を丸くしたヒナが、勢いよく立ち上がる。


「そうだ!」


次の瞬間には、崖を蹴って駆け出していた。


風を裂くような速度。


木々の隙間を縫い、獣道を滑るように走り抜けていく。


目指す先は、ティーナ村の外れにある小さなおみくじ屋だった。


暖簾を勢いよく開ける。





「ユッキーちゃーん! おみくじ引かせてー!」


「……はぁ」


奥にいたユヅキが、露骨に呆れた顔をした。


「今日は引かせない予定だったんだけどねぇ」


「なんで?」


「なんでも」


ユッキーちゃんが、和紙を整えながらヒナを見る。


今日はヒナの十八歳の誕生日。


だからこそ、本当は引かせたくなかった。


この少女のおみくじは、時々笑えないほど当たる。


特に——紫。


ヒナは両手を合わせた。


「お願いっ!」


「……」


「お願いお願い!」


しばらく黙っていたユヅキは、やがて観念したように肩を竦めた。


「……はぁ、根負けしたよ。一回だけだからね」


「やった!」


嬉しそうに箱を振る。


ころん、と一本の棒が落ちた。


ユッキーちゃんが静かに引き出しを開ける。


取り出された和紙は——紫。


一瞬、空気が止まった。


「……あ」


ヒナが苦笑いする。


ユヅキも眉を下げた。


紫の和紙。


大凶。


ユッキーちゃんが珍しく真面目な顔になる。


「大事な日なのに……不吉だねぇ」


「まぁ、当たらない時もあるじゃん?」


「いや、あんたの紫って二回目なんだよね」


呆れたようにため息を吐く。


「くじ運良いんだか悪いんだか」


それから少しだけ優しい声で続けた。


「今日は温泉にでも浸かって、のんびり過ごしな」


「はーい」


軽い返事。


もう半分聞いていない。


ヒナは手を振りながら、そのまま店を飛び出していった。


暖簾が揺れる。


静かになった店内で、ユヅキはゆっくり空を見上げた。


月を覆うように、雲が広がり始めている。


「……荒れるかねぇ」



   ◇


夜。


月明かりが、

ティーナ村を白く照らしていた。


料理の匂いが、

夜風に乗って広場いっぱいに漂っている。


焼き立ての肉。


香草の効いた煮込み。


甘い果実酒の香り。


広場を囲む灯りは、

月明かりに負けないくらい温かく揺れていた。


村人達の笑い声が重なり合い、

誕生祭を待つ空気が、

ティーナ村全体を優しく包み込んでいる。


けれど——


その輪の中心にいるはずの娘だけが、

まだ戻ってきていなかった。


「午後の見回り行ったっきり、

帰ってこないわねぇ……」


ミツキは広場の灯り越しに、

村の外れへ続く夜道を見つめていた。


賑やかな笑い声が響いているのに、

その姿だけが見当たらない。


胸の奥が、

妙にざわつく。


隣では、

ゲンが果実酒の入った杯を傾けていた。


「気配もねぇし、

そのうち戻るだろ」


どっしりとした声。


長年、

娘を見てきたからこその信頼だった。


森で迷うような子でもない。


モンスター相手に後れを取るような強さでもない。


だからこそ、

ゲンは慌てない。


けれど——


「なら良いけどねぇ……」


ミツキは小さく息を吐く。


夜風が、

灯りを揺らした。


胸騒ぎの正体だけが、

どうしても消えてくれなかった。

ヒナにはフルネームがありますよ…


そのうち出てくると思います笑


次回も読んで頂けたら幸いです…

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