第4話 月明かりの奇跡
ロイくん視点の執筆です
―――――
あれほど濃密だった死の気配が、
嘘のように消えていく。
ロイドの意識が沈む。
もう限界だった。
全身から血が流れ続けている。
指一本、
動かせない。
冷たい。
地面が、
異様に冷たかった。
死ぬのか。
ぼんやりと、
そんなことを思う。
その時だった。
柔らかな感触が、
後頭部を包み込む。
……温かい。
冷え切っていた感覚の中で、
それだけが異様に鮮明だった。
ロイドは重い瞼を開ける。
月を背にした少女がいた。
長い白銀の髪。
透き通るような白い肌。
蒼い瞳が、
静かにこちらを見下ろしている。
歳は、
自分とそう変わらないように見えた。
なのに。
その姿はどこか、
人ではないもののように見えた。
少女がそっと身を屈める。
細い指が、
ロイドの頬に触れた。
ひやりと冷たいはずなのに、
不思議と安堵した。
「……まだ、生きてる」
鈴のような声だった。
どこか安心したように、
少女が小さく息を吐く。
その直後。
柔らかな唇が重なった。
ロイドの目が見開かれる。
微かな熱が、
喉の奥へ流れ込んできた。
次の瞬間。
止まりかけていた呼吸が、
強引に引き戻される。
肺が悲鳴を上げた。
「っ……! が……っ!」
激しく咳き込み、
血を吐く。
だが、
呼吸が戻っていた。
遠のいていた意識が、
無理やり現実へ引き戻される。
ロイドの呼吸が、
荒く上下する。
肺が焼けるように痛い。
それでも。
確かに、
さっきまで途切れかけていた命が、
再び身体へ繋ぎ止められていた。
「……っ……は……」
血混じりの息が漏れる。
少女はそんなロイドを膝へ抱えたまま、
静かに顔を覗き込んでいた。
蒼い瞳。
夜の闇の中でも、
その瞳だけは不思議なほど鮮明だった。
ロイドは朦朧とした意識の中で、
目の前の少女を見る。
近い。
近すぎる。
柔らかな髪が頬へ触れるたび、
微かに甘い匂いがした。
「……戻った」
少女が小さく呟く。
どこか安心したような声だった。
ロイドは掠れる喉を震わせる。
「……なにを……した……」
少女はぱちりと瞬きをする。
「喋れるの?」
少し意外そうな声だった。
それから。
「ん〜……」
少し考えるように首を傾げる。
そして。
「助けただけだよ?」
あまりにも軽い口調だった。
ロイドの思考が止まる。
意味を理解するまで、
数秒かかった。
直後。
血塗れの顔のまま、
ロイドの耳まで赤く染まった。
少女はそんな反応を見て、
不思議そうに首を傾げる。
「……?」
どうして赤くなるのか、
本気で分かっていない顔だった。
ロイドは言葉を失う。
混乱していた。
極限状態のせいなのか。
それとも、
目の前の少女が常識外れすぎるのか。
多分、
両方だった。
少女はそんなロイドを気にも留めず、
傷口へ視線を落とす。
裂けた腹部。
砕けた骨。
全身を覆う致命傷。
本来なら、
とっくに死んでいておかしくない状態だった。
だが。
何故か。
喰い千切られていたはずの右腕も、
元通りになっていた。
血に濡れてはいる。
だが、
そこには確かに腕があった。
指先まで。
まるで最初から失われてなどいなかったように。
ロイドの目が揺れる。
あり得ない。
欠損した腕の再生など、
王国最高位の治癒術師でも不可能なはずだった。
少女はそんなロイドの反応に気付いていないのか、
小さく唸る。
「んー……」
そして。
「やっぱりボロボロだなぁ」
その言葉通り、
ロイドはまともに動ける状態ではなかった。
だが。
それでもロイドは、
少女から目を逸らせなかった。
月明かりを背負った横顔が、
現実感を失うほど綺麗だったからだ。
少女はそんな視線に気付くと、
ぱちりと瞬きをした。
「……なに?」
「……お前……」
ロイドの喉が震える。
聞きたいことは山ほどあった。
何者なのか。
どうしてここにいるのか。
あの力は何なのか。
だが。
最初に口から出たのは、
別の言葉だった。
「……人間、か……?」
少女は一瞬だけ黙った。
それから。
ふっと笑う。
月明かりみたいに、
静かな笑みだった。
「さぁ?」
その答えは、
肯定にも否定にも聞こえた。
ロイくん視点のお話は、第4話までです
次回は同軸、主人公視点を少し書いていきた
いと思っております
?
次回からが本番…?笑
面倒臭い書き方ですが、皆様次回も
宜しくお願い致します
読んで頂きありがとうございました




