露店の最終日
数日後。
私は、最後の露店を開くことに。
お店を返す決断をしたものの、ニコラさんの怪我が治るまで、私はここにいた。
だから今日が正真正銘の最終日。
もう慣れてしまった店の準備。
商品を並べていって、看板を出していく。
ああ、これでしなくなるんだ。
手に覚えてしまった動きだからこそ、終わる実感があった。
「よし、今日も頑張ろう」
軽く頷きながら、お店を始めていった。
「おはよう、今日も元気そうね」
少ししたら、常連の主婦がやってきた。
いつもの声で私に話しかけてくれる。
「はい!」
笑顔で返事を。
「ここの干し葡萄、癖になっちゃったわ」
「ありがとうございます!」
そう言ってくれて嬉しかった。
干し葡萄を買っていって、お店を離れていった。
ほんのちょっとだけ、寂しさがあったけれども。
「肩、お願いしてもいい?」
今度はマッサージのお客さん。
「もちろんです」
笑みを見せながらお客さんの肩を揉んでいく。
硬くなった肩を、少しずつほぐしていく。
力加減に気をつけながら。
「あなた、前よりも上手くなったわね」
「えへへ、ありがとうございます」
マッサージを終えたタイミング、お客さんからそう言われた。
私ははにかみながら答えた。
お客さんは嬉しそうな表情をしながら帰っていく。
「板についてきたなぁ」
お客さんが落ち着いたタイミングで、隣の露店主がそう私に話しかけてきた。
「えへへ……」
またはにかんじゃう。
「最初は潰れると思っていたんだが」
「ひどい!」
彼の冗談に頬を膨らませながらそう答えるけれども、内心では笑っていた。
ニコラさんはお店を返すまで手伝っていない。
近くのカフェで紅茶を飲んで見ているようだけど。
カップを置きながら、ニコラさんは露店を眺めていた。
「……ちゃんと店になってるな」
近くに来た時に、そう聞こえた気はしたかな。
「普通に生きるって、こういうことなんだ」
元の世界で敦賀佐奈として、高校生の生活していた時とは違う。
それでも。
今の私は、ヒロインじゃない。
ヒドインや悪役令嬢でもない。
ただの街にいる露店の店主。
物語の中心じゃなくても、生きている。
誰かに拍手されるわけでもない。
でも、ちゃんと今日を終えられる。
「…………」
ところで、あの質問をしていた男の人も、時折見かけている。
やはり、探っている。
誰に報告しているのかな。
訊くわけにもいかないけれど。
今日も、干し葡萄を買っていった。
でも、視線は商品じゃなく、私を見ていた。
「……終わっちゃうんだ」
やがて夕方になった。
夕焼けが空を包んでいく。
この露店を営む生活も終わりを迎えようとしている。
仕入れをしていった商品は減っていて、順調に売れていた。
「これも……」
看板を見てみた。
手書きで、マッサージの事などが書かれている、そんな看板。
「また来るわね」
店仕舞いの辺り。
私がここを任されてから来ていた常連のお客さん。
いつものように干し肉などの商品を買っていった。
「ありがとうございました!」
これで終わりかな。
するとこの主婦は、私を見て何かを考えていた。
「……ううん、来たいわね」
少しの間が空いて、そう答えた。
「こちらこそ」
私ははにかみながら返事をする。
そして主婦は去っていった。
「……うん」
私は看板や商品を片付けていく。
いつもの感じだけれども、明日からはニコラさんがまた店主をする。
これで、もう。
「ありがとうございました」
私は露店に向かってそう呟く。
それは、この街で生きていた自分への言葉でもあった。




