露店の決断
私はニコラさんに頼んで、次の日も露店を営業させてもらった。
ニコラさんは少し身体を癒す必要があるから。
商品を準備して、看板を露店の前へ。
これでお店の準備は完了。
「……今日も、やるんだよね」
軽く息を吸いながら、お店を開いていった。
「やれるんだよね、ここで」
もしも、選択すればずっとお店を続けられる。
でも、それが正しいのかな。
「おはよう、今日もやっているのね」
常連のお客さんがやってきた。
にっこりとしながら、私を見つめている。
「はい!」
私はそれを見たら、嬉しくなってくる。
元気よく返事をしていた。
「最近ここ、安心するのよ」
干し肉などを買っていって、帰っていった。
「ありがとうございます」
はっきりとした居場所。
確かに、居たくなってくる。
「肩、お願いできる?」
しばらくしたら、マッサージのお客さんがやってきた。
「もちろんです」
私は笑顔を見せながら、マッサージを行っていく。
結構硬いけれども、ほぐしていく。
敦賀佐奈の時よりも上手くなっていると思う。
「ありがとう、気持ちよかったよ」
お客さんの女性は微笑みを見せながら、香草袋もおまけで買っていった。
嬉しくなってくる。
露店で商品とマッサージをしている女の子が定着しようとしていた。
「本当、ここで生きているかも」
ここで骨を埋めても、悪くないよね。
乙女ゲームのヒロインだったとしても、破滅しちゃったのだから。
残されたささやかな幸せのままに、生きていくのも悪くない。
誰かを断罪するためじゃなく、誰かに必要とされながら、生きている。
それからお客さんが増えていって忙しくなっていく。
でも、そんな気持ちを考えさせられるタイミングが。
「このお店、いつからやっているんですか?」
そのお客さんは、少し客足が落ち着いた時に。
さっきも来ていたけれども、また来た。
ギルドの人間じゃない。
「ずっと前から。ですが私は二週間前に代理でここに」
「そうですか」
軽く頷きながら、また質問を。
「前はどちらに?」
「隣国にいました。色々な事情でこちらに」
誤魔化してもいいかもしれない。
でも、この国に来てそんなに月日が経っていない。
地理も分からないから、こう返事を。
「お一人で?」
「……そんな感じです」
今度は苦笑いしながら返事を。
上手く返答出来ないけれど。
男は一瞬だけ、私の顔をじっと見ていた。
まるで、何かと照らし合わせるみたいに。
「そうですか。ありがとうございます」
少し質問は続いたけれども、最終的に干し葡萄を買っていって帰った。
……普通の人だよね。
「サフィー、ちょっと良いかしら?」
教会の仕事を終えたアプリルがやってきた。
ちょっと不安そうな表情をしている。
「……あの方、昨日も来ていましたわ」
「え?」
昨日も来ていたって。
常連とは違うの?
「他の人物に訊いていたものと似た感じだったわ」
「私に対しての?」
どんな人物なのかとかかな。
何で訊くの?
「それもあるけれど、わたくしに対してもあるみたいね」
アプリルに対しても訊くなんて。
大丈夫なの?
「偶然にしては、出来過ぎていますわ」
そうかもしれない。
「……見られてるのかな?」
今日は直接訊く感じになっていたけれども。
さらにこっそり見るとかないよね。
ただの常連、だよね……?
「可能性はありますわ」
アプリルの勘なのかな。
外れていればいいけれど。
「また……壊されるのかな」
変な事を言われて。
そうなったら、ささやかな幸せが壊れちゃう。
露店を見ながらため息をつく。
「……好きなのに、ここ」
「好きな場所があることはいいことだ」
しばらくして、ニコラさんがやってきた。
昨日より少し元気な感じ。
「ニコラさん……」
包帯を巻いた腕を軽く押さえながら、ニコラさんは言った。
「だが、それに縛られるな」
縛られるな、かぁ。
他に場所ってあるのかな。
「……うん、行こう」
弱い決断。
「そうするのね」
だけどアプリルは微笑んで私を見つめていた。
「ここで終わるのは、違う気がする」
言葉にしていく度、弱かったものが少しずつ強くなる。
「店は返します」
「分かった」
ニコラさんは頷いた。
「でも」
私は彼の目を見つめる。
「ここで出来たことは、持っていきます」
それは、失わなかったものだった。




