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祝20話!
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引き続き、楽しんで頂けると幸いです。
しかし、この場で追及するつもりはなく、仁織はイドを不審に思いながらも足を動かし始める。イドもまた、今度は素直に仁織の後ろを追った。
ややあって、廊下を進んだ先にはまたしても垂れ幕で分け隔てられているだだっ広い部屋。大会議室が狭く感じてしまうほど、そこは床面積も天井の高さも二階建ての一軒家がすっぽり入ってしまう広さだ。大会議室と違うのはイドと仁織がいる垂れ幕の内側のすぐ外側には階段があり、前を向けば必然的に相手を見下ろす形になるということ。
正に王の謁見の間。
「我らが城主がお越しです。頭を下げよ」
仁織がやって来たことを知ると、階段のすぐ下に控えていたクロが来訪者へ慇懃無礼に告げる。
それに仁織は一瞥もしない。ただ玉座の如き椅子に悠々と腰掛けた。そして、イドに端で見ているよう横目で命令する。
イドも好きで目立ちたいわけではない。しかも、仁織の目の前で。
静かにちょこん、と座る。
イドの行動に満足したのか、仁織はそれを確認すると眼下に跪く来訪者を見つめ、大袈裟に息を吐いた。
「随分と好き勝手やってくれたなぁ」
頬杖をつき、首を傾げる。
目を細めるが、来訪者にはその様は映らない。
「⋯⋯何のことでしょうか」
徐に来訪者の男が顔を上げ、飄々と言い返す。
冷や汗が思わず流れるも、決して気取られないように口角を上げた。
チッ――
気に入らないとでも言うかのように仁織は舌打ちした。
「何も知らないとでも思ったか」
「っ⋯⋯」
「外で嗅ぎ回った挙句、一人は出入りの商人に紛れ込み、一人は客として入ってきて」
巷で花街に鬼が出ると言われるようになる少し前から、使役者達は動き始めていた。
そしてそれを仁織は知っていた。
「で?何か収穫はあったか?」
「っ……」
顎を上げて更に目を細める。
男は先程から何も言えなかった。
細心の注意はしていた。ここは花街。日本の常識など通用しない、治外法権。
決して甘く見ていたということはない。
花街と敵対することは花街という場所ができた時から政府は避けていた。
故に今回、体裁的にも花街に政府が干渉できる名目があったにもかかわらず、使役者を大々的に動かすことは上層部すら躊躇われたのだ。
そうして動かすことになったのは一人の使役者のみ。成績も使役者の中では最低の、暴走しがちなドールを抱えた使役者。
これならば、もし何かあっても使役者に責任を押し付けられるという思惑しか感じられない。
それは任された使役者本人も察していた。
だからこそ余計に、緊張感が走る。
仁織は続ける。
「わざわざ楼主が集まる今日に来たということはそれなりだったらしいな?」
たらり。
使役者の男の頬に冷や汗が流れる。
「……知っ、て……」
声が掠れた。
全部知っているのか。どこまで、誰が知っているのか。
男はそう言いたかったのだろう。
ふむ、と仁織は頭を動かす。
「いいや?これを知ってんのは俺と黒蝶ぐらいじゃねぇか?ま、情報に鋭い三妓楼も知ってると思うがな」
「…………」
仁織は男が言いたかったことを察したらしく、仁織にしては懇切丁寧に教えてやった。
男は項垂れる。
一方、すぐさま食ってかかったのはドールの少女だった。
「嘘だ!」
「娜月」
「今の今まで何もしてこなかった!知ってるフリをしてるんだろ!」
「娜月!」
むぅ。使役者である男に窘められ、不満ながらに口を噤んだ。
申し訳ございません。謝罪を身体と共に示そうと男がしようとした時、ふと思いついたかのように仁織が疑問を呈す。
「……貴様らが潜入してたとして、この俺に関係あるのか?」
「なっ!」
カァッと娜月の顔が赤くなる。
激高しようにも、男から制止されている今、到底できないことだった。
それでも、我慢できず、声に漏れていたのだが。
仁織はそんな娜月の様子など一切介さず、断言する。
「貴様ら如き、花街は揺るがない」
仁織はそう言って彼らを見下ろした。
更に言えば、仁織個人ならば潜入、裏切り、内通など気にもとめない。それを命令したことはなく、黒蝶らが自ら取り締まっているだけなのだ。
仁織の言葉を受けて、男は恐る恐る口を開く。
「……ならば、お聞きしたい。此度の鬼、花街はどうするおつもりですか?」
「…………」
本題に漸く入れたことに多少なりとも安堵する。
このまま追い出されたとあっては使役者本部の動きも分からない。
「多数の目撃情報に犠牲者。使役者としましては到底傍観できることではありません」
男はこればかりははっきりと断言した。
「なれば、殺す、と?」
楼主会の際にも挙がった話題だった。
先でのやり取りがなければ、それもまた一つの候補というだけだった。
しかし、仁織は既に結論を出している。
「当然です。鬼は討伐こそが正しい」
「ふん……」
予想できた返答だ。使役者らしい、政府の犬らしい考え方である。
真祖が討伐されて半世紀が過ぎた現在も理念は変わっていない。今更なことだ。
ただ、それに焦ったのはイドだった。
「ちょ、ちょーっと待ったぁぁぁあ!」
垂れ幕の中からイドが飛び出し、転がり下りる。
突然の第三者の言動に男も娜月も目を見開き、身体を構えた。
イドは彼らの反応に気づく余裕もなく、上半身を起こして訴える。
「ニィはとっても優しいよ!人を殺すなんてしてない!」
必死だ。
そして、本日何度目かの同じ主張である。
男は困惑しながらも顔をイドに近づけた。一定の距離を保って。
「……何者ですか?」
「イドだよ!」
むふん。
素早く立ち上がって胸を張る。
男は瞬きを数回繰り返した後、ゆっくりと垂れ幕の向こうにいる仁織に目をやった。イドは諦め、仁織に詳しい説明を求めたのだ。
そうしたい気持ちは分かる。
はぁ。
仁織は額に手をやり、仕方ないと応じてやる。
「禿だ」
それ以上、仁織は言わなかった。
イドは仁織の方を向いてはて、と頭を捻ると、ややあって、そういえば今は禿だった、と思い出す。
「イド、でしたね。そのニィとやらが何なのかは知りませんが、鬼が人を殺さないなんてこと、有り得ないんですよ。実際に犠牲者も出ている。そのニィが関係しているのかもしれません」
男は可能性を提示しつつも、頭の中ではそのニィという人物に目を光らせていた。
イドが出てきたタイミング、イドの主張、イドの焦りがその存在を裏付けていた。
言葉を詰まらせながら、もじもじ、指を絡ませて、イドは何とか証言する。
「っ……ニィは吸血鬼だけど……優しいんだよ。人だって、殺さないって言ってたし、ニィが狙ってるのは始祖だって、言ってたよ!」
「吸血鬼……」
やはり。
男は一瞬、目を伏せた。
「そうですか……では、そのニィの所に案内して頂けますか?私が判断いたしましょう」
にっこり、人好きの優男らしい微笑みを絶やさず、イドに提案する。いくら内心ではどうその鬼を殺そうか考えていても、あくまでも表には出さずに。
だが、イドは首を縦に振らなかった。
「ダメ!」
イドにしては珍しく、迷うことのない拒絶だった。
理由は明白で、これもまた珍しく、相手を完全に疑ったものである。
「判断した後は?殺すつもりなんでしょ?!そんなの、ダメだよ!」
ただ、イドの言ったことは図星だった。
何故だか、男は背中が凍えた気がした。すぐに消えてなくなった感覚に男は違和感しか抱かない。
気のせいか、と持ち直す。
「…………では、こうしましょう。一緒に調査して頂くということで」
「…………」
「!分かった!ニィがしたんじゃないって証明してあげる!」
「では、交渉成立ですね」
パアァァァッと表情を明るくして、イドは両手を腰に当てる。
思った以上の成果だ。
――ふふ。何かよく分かんないけど、これで仁織から逃げられるし、完璧!
イドは有頂天だった。
ニィのこともイドは変わらず意識していた。ニィのまた会えるのであれば尚良し。イドにとっては最高の提案である。
男は徐に立ち上がり、イドの前に歩み寄った。
「私は珀人、こちらは娜月と申します。よろしくお願いしますね」
「僕はイドだよ!よろしく!」
そう、珀人とイドは握手を交わした。
視界の端でクロが奇妙な顔をしているが、何も知らない珀人は分からない。
これで終わらないなんて。
「――なら、俺も行くとするか」
唐突に響いた声。
何と言ったのか聞き取れたのは、先程仁織から耳打ちされたクロのみ。
「へ?」
イドが振り向き、この場の全ての者がそれを目撃した。
垂れ幕からゆっくり姿を現した仁織は階段を一段一段下りる。
「丁度、楼主達に俺が動くと言ったしな」
「えっ」




