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第17話「連鎖の断片」

―― ジョエルの執務室

ジョエルはリリーを自室に招き入れた。室内はとても綺麗に整頓されていた。一時的に借りている部屋なのだから当然かもしれないが、それにしても全ての家具や雑貨類はまるで人が住んでいることを感じさせないほどであった。シンと静まり返っており、息遣いがひどく大きく聞こえた。

ジョエルはリリーに向かい合うようにソファに座り、そして口元に幾分笑みを浮かべながら話し始めた。

「あなたのご活躍はきいております。いろいろなところから情報が舞い込んできますから。だからこの度は一つ礼を言わなくてはいけないと思っています。主に、アデリーナ様についてです。」

リリーはジョエルとはほとんど話を交わしたことがなかった。だから何の話なのだろうといぶかしく思っていた。

「あなたはアデリーナ様といつも行動を共にしてきた。一度サンクレア国から退避されたときもそうでした。グレート・バリケードを停止させることを判断し、実行したときもそうでした。」

そう言ってからジョエルは間を置いた。それから身を乗り出して話を続けた。

「ですがこれからは私がその役目を担いましょう。あなたは既に十分に役目を全うしました。」

ジョエルという男は感情の起伏が極端に少ない男だった。まるで、人形の面をかぶっているかのように表情一つ変わることがなかった。

リリーはその真意を尋ねた。「どういうことなの?」

「あなたは何度も彼女を宮廷外に連れ出しました。また、彼女をひそかに連れまわしたこともあった。身分を隠し、変装までして、下層に出て行った。」

リリーは思い出した。それはデクランのもとへ会いに行ったときのことだ。

「あなたは大きなミスを侵しているのです。彼女はデプリヴンに感染したというではないですか。一国の女王がデプリヴンに感染したということとなれば一大事です。そのような事態がなぜ発生したのか。」

リリーは返事ができず口をつぐんだままだった。

「どのように感染するのか明らかになっていない中、そのような軽率な行動をとった。外出することで感染機会が増える、そうして結局は感染してしまった。このような事態は防がねばならなかったのです。あなたは近衛騎士団でしょう。そういう意味においては彼女を守る役目を果たせなかったのですよ。」

リリーは思った、確かにその通りだと。アデリーナがデプリヴンに感染するのを防ぐことはできなかった。しかし、胸の内でわだかまりがあった。すぐに言葉として浮かんでこないようなことだった。

彼は椅子から立ち上がりリリーの前に立った。彼は彼女をまっすぐ見据えてから言った。

「私がいいたいことは以上です。ああ、それから、私たちがささやかな結婚式をあげるときには少なくとも参加いただきたいと思います。彼女もそれを喜ぶでしょうから。」

リリーには初耳だった。「彼女は、あなたと婚約しているの?」

「知らなかったのですか?わたしはそのためにこの国にやってきたのです。私たち二人は今後、困難な時も幸せな時も、喜びや悲しみを分かち合い、支え合いながら歩んでいくのです。」

リリーは初めて聞いたことに驚き、声がでなかった。少なくともそのような話をアデリーナからきいたことはなかった。そしてちょうどその時、彼の目の奥で何かが光ったように思えた。それは彼の強い決意の表れだったかもしれない。

ジョエルはリリーが理解に苦しんでいることに気づくと、静かに口を開いた。

「よいですか。あなたはわたしの言う通りにしていればよいのです。すべての人が幸せになります。よろしくお願いしますよ。」

リリーはその物言いに疎外感を感じた。だがそれを口にだすこともできなかった。


―― 近衛騎士団 執務室

近衛騎士団の任務は夜遅くまで続いていた。人々を国外まで誘導する、デプリヴンを排除する、怪我を負った人の応急処置をする、情報の統制、管理、諸々多くの事がのしかかり、疲弊は極限にまで達していた。

なんとか今は耐えてくれ、というブラックス団長の声も心なしか疲れているようだった。リリーは執務室に入り、ブラックスに声をかけた。「すみません、私が任務につけなくて。」

ブラックスはリリーをみて笑顔を作ってみせた。

「アデリーナ様の様子はどうだ?」

「いまのところ落ち着いています。」

「そういえば、お前のところにジョエル・ホワイト卿がやってこなかったか?」

リリーは頷いた。

「そうか。何を言っていた?」

「これからは女王様のことは私に任せてほしい、と。」

「そうか、実はわたしのところにも来てそのような話をしていてな。これからは女王様のお体、容態含め、私も密接に協力していくのでよろしくお願いしたい、と言っていた。よく筋がわからずわかったとだけ伝えておいたのだが。その時に彼の目を見たのだが、なんだか不思議な感覚を覚えたよ。すぐに目をそらしたが…。」

ブラックスはそういって腕を組みながら首を傾げた。それはまるで目の奥に何かがひかったかのような感覚だった。そしてブラックスの腕には小さな痣ができていた。


――

その日の夜、リリーは夢をみていた。その夢が一体だれのものであるのかはよく分からなかった。

それはとても不思議な夢だった。

そして自分はおそらくは子供だった。それなりに広い家で一人の子供として育てられている、そのような記憶だった。だが、それは自分ではないという意識があった。だれかの記憶が体の中に流れ込んできている感覚があったからだ。

その子供はとても活発で気の強い子だった。あまりに気が強すぎるためにその母親からはいつも叱られていた。そしてその子が歳を重ねるにつれて、母親の言い方も強く厳しいものに変わって言った。

「なぜ言うことをきかないの!」

「なぜおまえはいらないことをするの!」

記憶の中で時間が経過するにしたがって母親の顔色は険しくなっていった。


彼は母親に連れられて大きな建物を訪れた。それはとても巨大で、窓のほとんどついていない巨大な建物だった。

「体の組成を変更し、なんでも言うことをきくようになる治療です。あくまで治験ですのでその保証はできません、たとえば何かしらの副作用がでてくる可能性もあります。同意いただけるのでしたらこちらにサインをしてください。」

小さな紙切れに母親はペンを無言で走らせた。彼女はこちらをみようとはしなかった。ただただ、神経質に眉間にしわを寄せていた。

それから彼はそれなりに母親の言うことを聞くようになっていた。その治療とやらの効果なのかもしれない。うまくいったのだろう。


そしてそこから場面が変わった。目の前には同じ年くらいの別の男の子がいた。

「ねぇ、どうして約束していた場所にきてくれないのさ。来ると言っただろう?」

友人がそう言うと彼はこたえて言った。「これがとても楽しくてね。」

彼は一人である遊びに夢中になっているようだった。

「なぁ、そんなことはおいといて、みんなであそこで遊ぼうよ。」

「いや、ぼくは今これをやっているから君たちと遊ぶことはできないんだ。これしかしたくないんだ。」

「そうか・・じゃあな。」

そうして友人は一人ひとりと去っていった。彼はとても喜んだ。こうして今熱中している遊びに一人で集中できるのだから。

しかし、彼は一人で夢中になって遊び続け、気が付いた時には空が真っ赤にそまる夕暮れ時になっていた。そこには自分一人しかおらず、誰一人として周囲にはいなかった。自分の体を移す影は長く伸びていた。人の声はまるでない、それはとても悲しい光景にみえた。

彼は胸の内で思った。

(なんて友人たちはばかなんだろう。こんなに面白い遊びに参加しないだなんて、理解できないよ。)


それから彼は好きな女の子ができた。いつも遠くでその子を見守っていた。しかし、彼には彼女に声をかけることはなかった。そうして彼女の事を考えるうちに、彼にとっての全てが彼女になっていた。どのような反応が待ち受けているかわからず、距離の置き方をはかりかねていた。


次の記憶ではその女の子はずいぶん大きくなっていた。そして、女の子は別の男の子と付き合い始めた。彼は深く傷つき、それでもその彼女に対する興味を失うことはなかった。

彼はまた友人を求めるようになった。しかし、彼の周りには誰一人としていなかった。そしてどういうわけか、彼から人々は離れていく。いかに正しいことを言っても説明しても、どういうわけか離れていった。


人とはそのようなものかもしれないと彼は考え始めていた。

― 人とは離れていくものなのだ。

― 人とは孤独なものだ。

そして、だからこそ必要な時には強引にでも引き留める必要があるのだ。たとえ相手が嫌がっていても…。


リリーははっと目を覚ました。額には多くの汗をかいていた。自室で倒れ込んでしまったらしかった。体全体から大きな疲労が押し寄せてきていた。それにしてもさきほどの記憶は一体だれのものだったのだろうか。

リリーがふと自分の腕にある痣を確認すると、彼女と同じような痣が小さく一つできていた。その様子に驚き絶句した。それはおそらく、デプリヴンに感染したときにできる痣とアデリーナの痣と同じものであった。じっと見つめていると、それはやがて薄くなり消えていった。そして、もともとあった自分の腕の痣がやや大きくなっているように感じられた。

(この痣の形、アディと同じ。そしてそれを誰が植え付けたのか…。)

そしてそのとき、すでに直観を得ていた。エレクタが運んでいてくれた記憶、その特徴、それらはすべてある一人の男に帰結していた。アデリーナが起きたらこのことを離さなくてはいけない。そう思いながらも、体全体がひどく疲労してうまく動くことができずにいた。体のけだるさを感じながらリリーはいつの間にか意識を失っていた。


――

国中の人々は国の方針に従い、すみやかに荷物をまとめて、国を出て行った。また、移動する上でデプリヴンであるかどうかを判断するための機器類が使われ、見つけ次第囚えるもしくは排除することとなっていた。しかしデプリヴンがその身を隠してレイシア国に向かうという事例はなかった。それはとても不思議なことであった。何か裏があるとしか思えない状況だったが、いまのところその理由については明らかではない。それは考えすぎだったのかもしれない。デプリヴンはやはりほとんどが短絡的で、攻撃的だからだ。


―― 宮廷内 某所

アデリーナは体調がずいぶんよくなっていた。相変わらず腕には多くの痣がみえたが、まだデプリヴンにはなっていないという実感があった。

「アデリーナ様。」

男の声がした。声の持ち主はジョエル・ホワイトだった。彼は待っていたとばかりに足を膝間ついていた。真っ白なタキシードを着て、着飾っていた。アデリーナはその様子に驚いた。まるでこれから華やかなパーティでもあるかのような雰囲気を醸していたからだ。

幾分面食らいながらアデリーナは尋ねた。

「どうしたのですか?ジョエル・ホワイト卿。このようなところに呼び出して、それにその服装は・・・。」

ジョエルは笑顔で言った。

「今日という日は新しい門出の日になることでしょう。ここに愛を誓い、サンクレア国を再建し、豊かな国にすることを誓いましょう。人々が幸せで暮らすことのできる新しい国になることを誓いましょう。」

そう言いながらジョエルは立ち上がり、アデリーナの元へとゆっくりと歩いていく。

「あの、あなたは一体誰とそのような、愛を誓うわけですか?」

アデリーナの声にジョエルは静かに微笑んでみせた。

「言わせようとしているのですか。そのような台詞をすぐに思いつくだなんて、さすがはアデリーナ様。」

首を傾げ、眉間にしわを寄せるアデリーナの前に彼はさわやかな笑顔で膝間づいた。彼はどこからもってきたのか、指輪を取り出し、アデリーナの手を取った、そして指輪をその手に通そうとする。

アデリーナは咄嗟に手を引いた。その対応に驚くジョエル。「どど、どうしたのですか?」

「あの、誰かと間違えてはいないでしょうか・・・?私たちはそのような関係ではないでしょう。」

ジョエルは絶句し、それから唇をわずかに震わせていた。何が起きたのか分からないといったような表情をしていた。アデリーナは続けて言った。

「ジョエル・ホワイト卿、私はあなたにはとても感謝しているのです。私たちのサンクレアを救うために尽力してくれた。おそらくあなたがいなければ今頃どうなっていたか。しかし、それとこれとは別です。何を勘違いしているのか分かりませんが・・・。」

その時、扉をあけてリリーがその場にやってきた。リリーはジョエルとアデリーナの間に割って入る格好になった。息を切らしそれから、アデリーナの様子を確認した。まだ無事だったようだった。リリーはアデリーナに言った。

「ここにいたのね、アディ。ずいぶん探した。アディを守るのは私の役目でしょう、勝手に部屋を離れないで。」

アデリーナは申し明けないという表情をして答えた。「リリー。ありがとう。ごめんね。」

その様子を見ながらジョエルは眉間にしわを寄せた。そしてリリーに視線を向けて言った。

「あなたは私と約束しませんでしたか?これからアデリーナ様をお守りするのは私だと言ったはずですが。」


リリーはジョエルに向き直って言った。

「ようやく私は分かりました。ジョエル・ホワイト卿。デプリヴンの元凶が何者なのか。」

室内は静寂に包まれていた。張りつめた空気が三人の間に流れていた。リリーは静かに落ち着いた声で言った。「あなたです。」

ジョエルはその声にピクリと反応し、いぶかし気な表情でリリーに視線を向けた。

リリーは続けた。「あなたが私に向けた視線、それを通じて私の中に入り込んできた記憶、すべてをみました。あなたの記憶がエレクタを通してすべてを教えてくれた。あなたはまるで誰かに伝えたいためにそのエレクタを発していた。」

ジョエルは鼻で笑った。「なにを言っているのですか?よく意味がわかりません。」

「あなたはとても頭がよかった。あなたは誰にも頼ることなく、いや誰に頼ることもできずここまで来てしまった。それがあなたの一番の弱さだった。そしてあなたは心がとても弱かった。」

ジョエルの表情に怒りが現れた。彼はリリーの言葉を聞いて、手を震わせ、顔を赤く興奮させていた。「あなたは・・・訳の分からないことを言って、この大事な儀式をつぶそうというのですね。いいでしょう。そのような無礼に対してはそれ相応の報いを与えましょう。」

彼は腰につけていた剣を手に取った。その剣先はまっすぐにリリーを捕らえていた。彼はそれから間髪を入れずにリリーとの間合いを詰め、剣を振りかざす。リリーは寸前のところでその剣の軌道を確認し、体をそらせた。それから剣の柄に手をかけてジョエルに向けた。

ジョエルは言った。

「わたしの言う通りにしていればいいのです。なぜこうも言うことを聞かない人達が多いのか。嘆かわしい。」

「あなたの周りには誰もいない。それがなぜだか分かりますか?」

それからジョエルとリリーの剣は何度かぶつかり合い、金属音をあたりに響かせた。互いの剣は相手を捕らえることがない。

「あなたは確信しているからです。自分の正しさを。」

「ごちゃごちゃうるさい!」

互いに息を切らしていた。リリーの体には細かな傷がつき、いたるところから出血していた。しかし、ジョエル・ホワイトは彼の真っ白な服でさえ、まるで切り傷一つついておらず、綺麗なままだった。ジョエルの次の一撃はリリーの顔をかすめ、彼女の帽子を切り裂いた。そこには一本の角が生えていた。

ジョエルはそれをみて驚き、そして口の端を持ち上げて言った。

「あなたはデプリヴンだったのか。人の事をデプリヴンの元凶のように言っておきながらこれはとんだお笑い種だ。アデリーナ様みましたか。いかにあなたが彼女に騙されていたのか。操られてきたのか。これですべてが明白になりました!」

アデリーナはリリーの元へと静かに近寄り言った。

「リリーはデプリヴンではありません。なぜなら彼女は人の事を思いやることができる。私はデプリヴンに感染してみてよくわかった。自分の思考がどのようになってしまうのか。人を思いやることができなくなる。私は怖い。そのような人間になることが、そのように変わってしまうことが。」

アデリーナはそれからリリーの頭をなで、それから角を触った。

「これも彼女の一部。私はすべてを受入れている。私は姉妹のように、家族のように思っています。」


リリーはそれからアデリーナの腕をとった。「この痣は私にもみえるようになったんだ。」

「そうなの?」アデリーナは驚いて言った。

「そうして、痣の形をみてわかったの。あなたに感染させたのはこのジョエル・ホワイトだってことを。そして、感染の仕方もわかった。それは彼の目を通じて感染する。」

「え?」

アデリーナはジョエルと初めて出会ったときのことを思い出した。そうだ、彼を最初にみたとき、まるで彼の目に吸い込まれ両な感覚があったのを思い出した。「そうか、私はあの時にすでに感染していたのね…。」

ジョエルはうろたえて言った。「私から感染するなんて、そんなわけがないだろう。」

リリーは言った。「あなたは天からの才能を授かった。だからこそあなたの人生には大きな試練も与えられたのだと思う。頭がよく、そして強いからこそ、あなたは誰のことも理解することができなかった。そして、どんなにあなた自身が強くても、一人でやってきているつもりでも、人として生きていく力は得られない。デプリヴンのように。」

「そんなはずがない!もう話すな、口を閉じていろ!」

ジョエルはそれからより一層激しい力をリリーにぶつけた。彼は剣を投げ捨て、リリーにつかみかかった。それはまるで武器を持たないデプリヴンのような戦いぶりだった。リリーは手で捕まれ、軽々と投げ飛ばされる。彼女の体は壁面に強く打ち付けられた。激しい音が響き、粉塵が舞った。

しかし、リリーは目を開けて彼を真っすぐ見つめた。

(強い・・・。でも、彼には全く負ける気がしない・・・)

アデリーナは叫んだ。「もうやめて!」

叫んだ彼女の元にジョエルは歩み寄って言った。「アデリーナ様。もう少し待っていてください。あのようなデプリヴンに惑わされて可哀そうに。今すぐに決着をつけ・・。」

パーン。

乾いた音があたりに鳴り響いた。アデリーナの手がジョエルの頬を強く打ち付けた。ジョエルは片頬に熱さを感じながら、そのまま身動きすることができなかった。何が起こったのか理解ができなかったようだった。

リリー「ジョエル。もう話すな、うるさい、言う通りにすればいい・・・・・。あなたのセリフは、すべてあなたの親から言われてきたことでしょう?」


ホワイトは目を見開いた。

(そうだ、僕はいつもそのように言われてきた・・・)

それでも僕はお母さんのことが好きだった。お母さんに認められたくて、それなのに僕は自分を制御できず、反発せざるをえなかった。僕がいけなかったから、お母さんは怒っていたのだ。

あの施設に送られるとき、僕は嫌だった。あの施設はきっと僕を殺すための施設なんだ。でも嫌だとは言えなかった。僕のお母さんはみたこともないほど嬉しそうな顔をしていたからだ。


ジョエルは足元から崩れ、それから倒れ込んだ。剣は手から離れ、床に派手な金属音をたてながら転がった。もはや彼には誰かと剣を交える気力は残っていないようにみえた。

「僕はただ、普通の親子のように、同じ屋根の元で暮らしたかっただけなんだ・・・。」


リリーは彼の言葉を聞いてハッとした。そうして、リリーの記憶は深いところから浮き出てきた。


―私はジョエルと同じだ…


人を襲う人型の獣が蔓延したとき、私は自分の強さを知った。どのような獣にも負けることはなかった。私はそうして、結局のところ、一人でそれらを殲滅したのだ。私はこんなにできるのだといいたかった。だが最期の最後まで母は振り向いてくれなかった。

遠くから声が聞こえた。「リリー。返事をして………。」

アデリーナが必死に私の名前を呼んでいる。でもそれは私の名前だっただろうか。

近くで彼女のぬくもりが伝わってきた。

(私は・・・、母のぬくもりが欲しくて、いままで生きてきたんだ・・。)


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