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セカンドワールド!  作者: こ~りん
四章:変幻自在のベトゥリューガー
76/115

76.変幻自在の―― その二

「(油断した……! どこに隠れて――いや違う、まさか……擬態?!)」

「おやその顔、気付いたようですね」


 頸動脈を咄嗟に抑えたが、ディルックのHPはスキルによって常に一割が削れており、この攻撃によってかなりのHPを失ってしまった。

 しかも部位欠損であるためポーションによる回復も見込めない。

 ポーションは傷を回復するための薬であって、失った部位を再生させるための薬ではないのだ。


「お察しの通り擬態ですよ。少し特殊な、ね」


 ディルックは急いで振り返り、下手人の顔を確認する。そして、その顔を見て『やられた!』と心の中で叫んだ。

 そこにいたのはNPCとして最初に敵から除外した相手。姿も雰囲気も他のNPC鬼と同じだった存在だが、実際はプレイヤーによる巧妙な擬態だったということだ。


「ですがまあ、秘密というのはバレないからこそ意味がありますからね。このまま死んでください」


 せめて一撃与えようと力が抜けつつある腕を振るうが、可能ならば攻撃を受けた瞬間に反撃するべきだった。死に瀕したことで大剣は手から零れ落ちる。


 握る力も、振り切る力も足りなかった。

 HPは生命力であり、それが減ればとうぜん身体機能も低下する。そんな状態で最高のパフォーマンスを発揮出来る人間はいないのだ。


「……少しだけ回収しておきますか。《アナライズ:イーター》」


 ディルックを殺した者の名はグレイ。グレイ・アンビシャス。

 彼は最初の不意打ちで捕食した肉片に解析系アーツを掛けると、その解析結果を見て小さく笑みを浮かべた。


「――ああ、これは……とてもいい物を手に入れましたね。《イミテイトシフト:1D(ワンディー)》」


 しかし、敢えてその性能をテストせずに、グレイはその身を蛇に変えて移動する。

 第一回イベントの舞台だった無人島で()()()()()蛇は、草陰に隠れるためか小柄な固体が多かった。そのため、彼に限っていえば隠密に最適な姿だ。


 ディルックの持っていたスキルを模倣した器官を体内に隠し持って、グレイはよりポイントを稼げる相手の捜索を始める。

 実はディルックを不意打ちで殺すために彼の周囲で留まっていたため、後半戦が始まってからはまだ数える程度しかプレイヤーを狩れていないのだ。


 大量に経験値を稼げるこのイベントは、クランの運営に時間を取られる彼にとって、まさにうってつけ狩り場と言える。

 可能な限り擬態能力を隠し、それがバレた状況でも二の矢を放てるよう用意周到に準備しているし、場合によっては三の矢まで隠した上で騙し合いに持ち込む腹づもりでいる。


 バトロワで詐欺師と言われた――外道だの倫理観皆無だの罵倒の方が圧倒的に多いが――だけの実力はあるのだ。


 ♢


 ロザリーは舞う。遺跡群の中を自由に跳ぶ。

 装備に備わったスキル、これまでに取得したスキル、元々の身体能力、それらを駆使して戦場を駆ける。

 ベレスの索敵もある彼女の目を掻い潜れる存在なぞ殆どいないだろう。


 ロザリーと遭遇した者は誰であろうと見敵必殺(サーチ&デストロイ)される。初心者も熟練者も分け隔てなく殺されるため、掲示板ではもはや災害のような扱いを受けていた。


 フィールドが統合された影響なのか、ランキングは常に更新されている。一〇〇位より下は表示されないが、自分が何位なのかを確認することは出来る。

 目立つのはやはりトップ勢だろう。


 一位から一〇位の総ポイント――獲得したスコアは、一〇位より下と比べると三倍以上、一〇〇位と比べると桁が二つも違う。

 現在はグレイが一位に君臨し、ロザリーは三位とやや劣るが、数時間も掛ければ巻き返せる程度の差でしかない。


 ――言うまでもないことだが、ロスト・ヘブンの時からグレイとロザリーには因縁があり、彼女は手練手管を駆使して殺しに来るグレイを撃退し続けていた。

 これまでの戦績では一応、一度も黒星を付けられたことが無い。危うかった場面こそあれど返り討ちに成功しているのだ。


 このイベントのランキングでロザリーが負けたなら、確実にグレイは煽りに来るだろう。勝負が付いた後に相手の精神を逆撫でするのが彼のルーティンであり、それが一度も出来なかった相手はロザリーなのだから。


「うおおおおお!」

「踏ん張れれんたろー!」

「無理!」


 第一回イベントの反省を踏まえより頑丈なタンクとして成長した者も、ロザリーの刃によって斃される。

 防御に秀でた者を殺すだけなら簡単なのだ。それ以上に難しいことを何度も経験してきた。

 セカンドワールドではその経験に加え、この世界で得たスキル等もある。


「うっそだろ!?」

「たえ……たえ……やっぱ無理!」


 タンクはもう一人いたが、そちらは三撃目を防げずに散った。タンクが落ちたことで残った三人も纏めて斃される。


 レベルが一定以上の者はカスタムアーツによって口頭での宣言無しにアーツを発動できるが、その効率は習熟度に左右される。

 修得したばかりのアーツと、何度も発動し調整したアーツ。後者の方が威力も燃費も優れていると証明されている。


 ロザリーは《スラッシュ》を多用しており、その習熟度はもはや極めたと言ってもいいぐらいだ。

 普通はMPが足りなくなるため節約されがちだが、【呪怨支配】で『呪装:骸の祈り』から発生する呪いをMPの回復に割り当てることで、彼女はほぼ全ての攻撃でアーツを使用している。


 更に《呪影》によって状態異常を付与する小技を戦いの中で開発し、安定して発動出来る射程範囲を拡大することで、より効率的に狩りをすることが可能になった。


「――あはっ」


 ……とても分かりやすく説明すると、今の彼女は高揚している。ハイテンションだ。

 長時間に及ぶ戦闘と、尽きることのない敵が、彼女の中の才能を存分に震わせている。


 もっと、もっとたくさん戦わせろと囁く才能のままに、彼女は武器を振るう。

 ハルバードはもちろん、必要ならば蹴りも殴りもする。


 様々な点を考慮したうえで総合評価するなら、ロザリーは最高に絶好調な状態なのだ。それこそ、ロスト・ヘブン時代の彼女を軽く上回るほどに。

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