68.廃墟を舞う その二
「――あら?」
「お久しぶりです、リンゴさん」
「ええ、久しぶりね」
残り時間三〇分、キル数が二八になったとき、ばったりとリンゴさんに遭遇しました。
その頭上には鬼のマークが浮かんでおり、私と同じく鬼側を選んだのが分かります。
「鬼なんですね」
「私はこっちの方がスキルを活かしやすいからね」
そう言えば【遠隔起動】というスキルを持っていましたね。あの頃より格段に強くなっているはずですから、効果も凶悪になっていそうです。
「っと、罠に掛かったみたいね。二人倒したわ」
「罠? ……ああ、遂に設置できるようになったんですね」
「【魔法設置】ってスキルよ。【魔法隠蔽】と【遠隔起動】の二つと組み合わせれば、どんな場所でも即地雷原」
「えげつないですね……」
「貴女に言われたくないわ」
えげつないのはお互い様ですか。
たしかに、私は呪いを撒き散らしたり、ロスト・ヘブンで鍛えた対人能力に、ベレスに、【呪骸纏帯】による移動に、と色々手札がありますから。
それはリンゴさんも同様で、彼女の容姿から分かるのは、即座にポーションを使用できるポーションホルダー、魔法のリキャストタイムを縮める効果がある魔導書です。
質より量を重視しているのでしょう。
両手が空いている理由は分かりませんが、わざわざ空けているのです。相応の理由があるに決まっています。
例えば……それぞれの手で魔法を発動するため、とか。高難易度でしょうけど。
「じゃあ私はあっちに――」
「そっちは私のベレスがいるので、もう少し南の方に敵がいるはずですよ」
「そうなの? じゃあそうするわね」
現在地は中心部から見て真東で、リンゴさんが行こうとしたのはその中心部なので、その南側に行くことをオススメしました。
私はここから北をぐるっと回る予定なので、ばったり遭遇しただけのリンゴさんとは別れることになります。
リンゴさんが風魔法で屋根の上にジャンプして登ったのを見て、私は壁沿いに移動を再開しました。
そして残り時間三分になって……
「最後の最後に見つかるとかついてねー!!!」
私は瓦礫の隙間に隠れていた人を全力で追跡しています。
……そう、全力です。ついてないと言いながら、彼の走る速度は見事なものなのです。
見つかった瞬間バッと逃げ出し、アクロバットな動きで崩れかけの屋根に登ったと思ったら、そのまま凄まじい速度で爆走しました。
【自在帯】を活用して私も追いかけているのですが、地上より障害物が少ない屋根の上では回り込むことも出来ず……
《――タイムアップ!》
《――残り人数:3/100》
《――スコアが記録されます》
「しゃあっ!」
「くっ……」
そのまま制限時間が過ぎるまで逃げ切られてしまいました。
敏捷特化の人に全力で逃げられると厄介だと身に染みました。理解させられましたよ。次は殺す。
「っと、同じ場所か」
どうやら制限時間を過ぎると強制的に待機場所に転移させられるようです。転移先はランダムらしいのですが、私は最初と同じ中心部の塔でした。
この待機場所、地続きのように見えてそうじゃないらしく、ラインの内側にどれだけいてもマッチングには影響しません。
私が転移した直後にマッチングが完了したのですが、ラインを踏み越える間もなく鬼が揃ってスタートしましたから。
つまり、このイベントフィールドを好きなだけ観察出来ると言うことです。
まず、東西南北を繋ぐ大通りは塔からだと端まで見通すことが出来ます。なので、スタートと同時にぐるっと観察するだけでも意味があります。
北西、一番廃墟化が進んでいる区域であり、瓦礫も多いので隠れ場所が豊富です。
北東、ところどころ崩れていますが頑丈な建物が多く、地上から屋根に登れるポイントが点在しています。
南西、生え放題になっている雑草と地下通路のお陰で北西と同様隠れ場所が豊富ですが、足下が見えにくいので一旦見つかると捕まりやすい区域です。
南東、一番複雑な区域で道の幅もバラバラ、建物の高さもバラバラ、オマケに衝撃を加えると倒壊するオブジェクトが設置されています。
マッチ毎に細かい配置は替わるようですが、大まかな傾向はこの通りです。
私の実力が発揮しやすいのはやはり北側でしょう。
大体の把握が終わったので早速マッチを――と行きたいところですが。
「その前にスキルかな」
ステータス画面を開きます。
レベルが上がったので進化に経験値を消費しても良くなったのです。
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【地平線の騎士団】
『ロザリー』レベル59
右手:『呪装:骸の祈り』+3
左手:――
防具:『業物:脱兎フード』+5
├紳士で丈夫な衣服(上)─呪魂鋼の胸当て+4
├紳士で丈夫な衣服(下)
├ブラッドカウのベルト─頑丈なベルトポーチ
├【影追の竜鱗腕鎧】
└【呪骸纏帯 ヴルヘイム】
装身具:妖精の耳飾り
└ベレスの絆
スキル:【奇襲戦士LV8】【ハルバードⅡLV30】【鑑定眼LV22】【看破眼LV3】【悪路LV26】【襲撃ⅡLV9】【斬撃ⅡLV7】【跳躍LV20】【呪詛支配LV20】【瞬発力強化LV10】【持久力増加LV10】【状態異常耐性:麻痺LV3】【状態異常耐性:毒LV13】【状態異常耐性:出血LV4】【採取術LV8】【採掘術LV2】【植物学LV5】【影の加護LV4】
アーツ:《スラッシュ》《カウンター》《大切断》《呪影》
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このうち【跳躍】と【呪詛支配】が進化可能になったので、経験値を支払い進化させます。
進化で消費するレベルの合計は6。【呪詛支配】がユニークなので5も消費するんですよね……。ですが、進化させるだけの価値があります。
まず【跳躍】ですが、通常進化の【跳躍Ⅱ】となりました。
効果内容はそのままで、補正値が上がったぐらいでしょう。
次、【呪詛支配】。ユニークからユニークへの進化なので本当……ほんっっっとうに重たいのですが
、心を落ち着かせてOKを選択します。
私は呪いを私自身のスタイルに組み込んだので、いずれは進化させないといけないんですよ。
進化したスキル名は【呪怨支配】、気になるスキル効果は……
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【呪怨支配】
呪怨に該当するモノを支配下に置き、その性能を上昇させる。また、消費することでHPとMPを回復し、攻撃力微増(30秒)のバフを獲得する。
【影の加護】:効果対象追加・影
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勝利っ! 勝利ですよこれは! 大勝利!
バフは30秒しか持たないようですが、呪いは『呪装:骸の祈り』から湧き出るので実質継続バフです。
しかも性能上昇の効果も付きましたから状態異常の効果も高まりましたし、これは完全勝利と言っても過言ではありません。
思わずガッツポーズをしてしまいましたが気にしません。ここはイベントフィールドの待機場所ですから誰にも見られませんし。




