69.廃墟を舞う その三
……翌日。
昨日はどうかしていました。興奮のあまりマッチ中も叫んでいましたからね……恥ずかしい。穴があったら入りたい。
ですが、進化したスキルの性能は把握できましたし、かなりの絶好調だったようで四連続五〇キル超えを達成しました。
やり過ぎて掲示板でちょっとした騒ぎになってしまいましたが……はあ。
今日はイベントフィールドには行かずに旅でもしましょうか。気分転換というやつです。
そう言えば帝国に到達した人がいるようで、帝国までに通る街が公開されているんですよ。マップ付きで、しかも街の特徴も添えられています。
王都から帝国領までに通る街は最短で七つ、このうち二つのポータルは解放しているので、残り五つの街を越えたら帝国に着くことになります。
街の数が多いような気もしますが、そもそも王都は王国の中でも西寄りにあるので、王国領の中心から国境までは四つ程度です。
街道沿いに生息する魔物も一定以上の強さは無いですし、今回のように旅をするだけならデスペナに陥ることもありません。レベル40台の魔物を倒せる実力があれば気楽な旅が出来ます。
まあ、街道自体が地形に合わせて曲がりくねっているので、直線距離はアテにならないんですけどね。数日は掛かるでしょう。
♢
ロザリーが暴れ回り、まさかの四連続五〇キルを達成して阿鼻叫喚となってから早一時間。遭遇報告が無くなったことで、『今なら生き残れるのでは?』と参加者達が希望を取り戻していた。
奇跡的にトップ勢と呼称されるプレイヤーとロザリーが同時にマッチしていなかったのもあり、ちらほらと鬼の撃退報告も出始めている。
けれど忘れてはならない。
トップ勢の中でも特にヤバい奴らが、鬼側として参加している事実に。
「……よし、周囲に鬼はいない。こっちだ」
「索敵サンキュー。やっぱ斥候いるだけで生存率上がるな」
物陰に隠れながら北東エリアを進む二人組。敏捷型剣士と斥候という、逃げ優先の組み合わせで参加しているプレイヤーだ。
彼らは斥候の持つスキルによって、周囲から視認することがほぼ不可能であり、逃げ道もある場所へと移動していた。
「ここにいれば安し――」
瞬間、足下で発動する魔法。中級に分類される攻撃魔法であり、威力の高い雷属性の〈サンダーボルト〉だ。
本来なら照準を合わせ、手元か杖から発動する魔法なのだが、これは罠として設置されていた。
魔法は術式と詠唱を組み合わせるため、より高威力のものへと改造するためには数学が必須となる。この〈サンダーボルト〉はその改造がされてある、トップ勢の放つ魔法だ。
だが、一つの魔法にしてはやけにダメージが大きい……
「――あ、やっぱり向かったわね。設置しておいてよかったわ」
彼女は紫リンゴ。魔法を罠として設置するスキルを有する、トップ勢の一人。装備をリキャストタイム短縮に特化させ、大量の魔法を改造した上で手の込んだ罠にする【魔法罠師】となった彼女は、このイベントフィールドと途轍もなく相性が良かったのだ。
「設置っと。これで雷系は再使用まで一二〇、炎は四〇ね。属性を修めし我が命ずる、氷よ集まれ、束ねて飛散し敵を貫け――【魔法設置】」
再使用までの時間を確認した彼女は口頭で詠唱しつつ、右手で〈アイスショット〉の、左手で〈アイスバレット〉の術式を描く。
そして、魔法名と唱えて発動する瞬間、スキルでそれらを罠とした。合計三つの魔法が地雷となった瞬間である。
設置した場所は袋小路。足下の一つが起動すれば、残り二つも連鎖的に起動するように配置されている。
このように彼女は、ただでさえ高威力な魔法を一箇所に束ねることで、どんな相手でも確実に屠れるよう工夫していた。
カルマ゠イブン。巨大な弓に槍を番えて放つプレイヤーだ。彼の一射は槍を消耗品として使っているだけあって一撃必殺。
ガチガチのタンクでも無ければ耐えることは不可能だろう。
最も見晴らしのいい中央の塔で戦場を見渡す彼は、彼方の壁に沿って移動している標的を狙い、その指を離した。
幾つものスキルが乗った槍はその重量をものともせず、とんでもない速度で軌跡を描く。
やがて標的の頭部に到達すると、避ける間もなく命中し胴体と別れを告げさせた。
それを確認して小さく息を吐くと、また槍を番えて次の標的に狙いを構える。
指を放つ、飛ぶ、当たる。
魔物を相手に数え切れないほど繰り返した行動は、プレイヤーが相手であっても同じ結果をもたらした。
すなわち即死。
食いしばり系の効果を持つスキルが発見されていない現状、当たればほぼ間違いなく即死である。
――だが、それだけなら彼はトップ勢には数えられていないだろう。彼がトップ勢に数えられる要因はもう一つある。
「五人か……」
かくれんぼだと言うのにパーティーで移動しているプレイヤーを捉えた彼は、インベントリから特殊や槍を取り出した。
それは鍛冶に情熱を注ぐふもっふが苦言を呈した問題作。幾つもの切れ込みが入った、今にも壊れそうな槍もどき。
番えて放たれた槍もどきは空中で切れ込みに沿って分解され、五本の細い槍となって標的に襲い掛かる。狙いを定めることなんて出来るはずがないのに、それらは五人の急所を吸い込まれるように穿つ。
この真似することが不可能な技術こそ、彼がトップ勢に数えられる最大の要因である。
「……今ので四〇か。まだ届かないな」
目指すは五〇。ロザリーという化け物を超えるには、まず同じだけのスコアを叩き出さなければならない。
彼はまた、槍を番えて獲物を探す。
一人一人確実に、そのHPをゼロにするために。
――そして、もう一人。グレイ・アンビシャス。
気が付けば死んでいた。気が付けば目の前にいた。気が付けば…………
「――は?」
今もまた、南西エリアを匍匐で移動していたプレイヤーが死んだ。周囲に鬼の姿は無い。
だと言うのに、彼の体は鋭利な刃物で寸断されている。
「――あつっ、え、ちょ」
一人のプレイヤーが炎に巻かれて死んだ。
「――おぐっ、ふ、嘘だろ……」
一人のプレイヤーが下半身を喰い千切られて死んだ。
「ここな――え?」
一人のプレイヤーが頭部をねじ切られて死んだ。
多種多様な攻撃による死。まるで一貫性が無いが、それらに共通するのは突然の死と言うこと。
剣で死に、槍で死に、槌で死に、炎で死に、風で死に、牙で死に、爪で死ぬ。
一貫性が無い。無くて当然だ。
「これで五〇。まだまだ獲物は必要ですからね……ふふ」
彼の名はグレイ・アンビシャス。不満足を意味する名の通り、彼は一つの手段に満足しない。
剣も使う、槍も使う、槌も使う、炎も使う、風も使う、牙も使う、爪も使う。使えるものなら何でも使う。
その肉体でさえも。
「《イミテイトシフト:21B》、《イミテイトシフト:4V》――さて、あと何人殺せば追いつけますかね?」




