シェンタイの秘宝【1】
「さぁ! 他に挑戦する者は居ないかっ⁉︎」
大きな建物が並ぶ大通りの歩道にて、高々と声を上げる青年がいる。
見る限り、筋骨隆々と表現しても間違いのない体躯の持ち主であった。
そんな彼の後ろには、木製の立て看板の様な物がある。
お手製の看板なのだろうそこには『この俺をノックアウト出来れば20万マール! 挑戦料1500マール!』と言う感じの文字が書かれている。
つまるに、筋骨隆々な男に挑戦し、勝利する事が出来たのなら、20万あげますよ!……って内容の代物なのだが、これだけでは普通の人間は挑戦しないだろう。
普通に挑戦して、勝てそうな体躯の持ち主ではないからだ。
よって、看板の文字には続きがある。
一方的に殴ってくれてOK! こっちからは攻撃しません!……と、こんな感じの文字だ。
つまるに、殴られ屋である。
日頃の鬱憤を晴らす為、お金を払って相手をボコボコにしても構いませんよ?……って感じの商売な訳だ。
これであるのなら、1500マール払って挑戦しても構わないと言う人間はそれなりに居たりもする。
やはり、世の中はストレスを蓄積している人間は、一定数いると言う事なのだろう。
制限時間は3分。
短かく感じてしまうかも知れないが、実際に三分間フルで相手を殴ろうとすると……まぁ、かなり疲れる。
ストレス発散も兼ね……かつ、相手を打ちのめせば20万マールの賞金も出ると言う、中々に面白いショー・ビジネスと言えた。
商売の方も、それなりに上々である。
十分に一人程度の挑戦者が現れ、青年へと一方的に攻撃を加えて行く。
しかしながら、青年の強靭な肉体と……その見た目に反した素早い反射能力でアッサリ避けられてしまい、彼をノックアウト出来る挑戦者は一人も居ないと言うのが実情であった。
尤も、挑戦者の方も単純にムシャクシャしていたので、相手を殴りたいと言う気持ちだけでやっていた為、そこまで嫌な顔をする様子もなかったのだが。
むしろ、晴れやかな表情で帰って行く者が多かった。
なんだかんだで、ストレスを発散させる、良い発奮材料になっているのかも知れない。
……と、そんな殴り屋をしていた青年の元に、
「ほむぅ〜。なるほど! 倒せば20万マールですか! 良いですね!」
オレンジ色のキノコ頭をした女性が、瞳を『キュピ〜ン☆』っと輝かせて叫ぶ。
この表現だけで、既に誰なのか分かったのなら、それはこの物語をしっかりと読んでくれている猛者であろう。
自称・二十歳だが、実年齢は本人さえも良く分かっていない、神出鬼没の腐れキノコこと……みかんだ。
みかんは、一人で青年の前で瞳をキュピ〜ン☆ っと輝かせた状態で、興味深々と言わんばかりの視線を送った。
……そう。
この時のみかんは一人であった。
周囲には、ういういやりんご、いよかん等のメンバーは居ない。
どうしてか?
この話をするには、少しばかり時間を巻き戻す必要がある。
それは、今から数日前の話だ。
キータ国の首都・キータの街にある国営カジノで全財産をスッてしまうと言う、どうにも間抜けな事件が発生した翌日……みかんは、いよかんから10万マール程度のお金を借りた。
これにより、贅沢さえしなければ、当面の路銀に困る事はなくなった……かに見えた。
だが、しかし!
10万マールを握り締めたみかんは、そのまま魔法の絨毯に乗って、再び首都・キータへと舞い戻り……そして、国営カジノへのリベンジ戦を展開して行く!
その顛末は……
「ちょうど良かったです! キータのカジノで10万ボラれて、お金が無かったのです! 20万も貰えるのなら、いよかんに10万返してもオツリが来るのです!」
……なんぞと、声高に叫ぶみかんの台詞が全てを語っていた。
簡素に言うのなら、再びカジノで文無し状態になっていたのである。
……人間、やはり地道に生きた方が良いのかも知れない。
少なからず、ギャンブルで一攫千金を狙おうなんて……砂糖よりも甘い考えを持つと、今のみかんの様な一文無しのド貧乏になってしまう事だってあるだろう。
……と言うか、可能性からすれば、そっちの方が圧倒的である。
だからして、
「10万も残るのなら、ラスト・チャンスがみかんにも巡って来るかもです!」
更にリベンジのリベンジを仕掛けてやろうと言う、腐り切った考えなんぞ持った日には、ロクな人生を送れないだろう。
……本当に懲りない腐れキノコと言えた。
……と、この様な経緯があったみかんは、一文無し状態のまま……キータ国の南東にあるミーギ国にやって来ていた。
厳密に言うと、ミーギ国の首都・シェンタイに足を運んでいた。




