馬鹿な冒険者に福音の到来【17】
「いやいや……待て? シリアさんよ? お前は良家のお嬢様だろ? しかも、伝説作れちゃう様なお嬢様だろ? そんなのが、俺の様なこれと言った個性のない平凡な男を好きになるとか……それ、どんなファンタジーだよっ!」
ミナトは、しこたまアタフタした態度のまま、顔で『ありえない』を露骨に作った状態のまま、遮二無二叫んで見せる。
それら一連の態度を見たシリアは、思い切り『イラッ!』っとした顔になるも……間も無くニッ! っと笑みを作り出した。
ミナトが、この様な台詞を口にして来るのは、シリア的に言うのなら、予測の範疇内だった。
よって、その様な言葉の一つや二つは言って来る事を想定した返しの行動を、しっかり考えていたのだ。
果たして、その返しとは?
チュッ……
「……へ?」
ミナトはポカンとなる。
何が起こったのか? ちょっと直ぐには分からなかった。
ただ、現実として。
ミナトの右頬に、シリアの唇が優しくフィットした。
あったかくて柔らかい感触が、まだ右頬に余韻として残っている……そんな気がした。
「……これが、私なりの答え!……どう? これでも分からないって言うのなら、次は唇を奪っちゃうぞ?」
「いやいや! うん! 分かった! 凄く分かった! だから、大丈夫だ! シリアの気持ちを理解したぞ!」
顔を赤くしつつも……しかし、強い意志を持って口を動かすシリアがいた所で、ミナトがふためき口調のまま、慌てて叫んでみせた。
感覚的に言うのなら、ミナトがたまらずギブアップして来た……と言った所か?
女性に対する経験値が足りないミナトには、刺激が強過ぎて思考がパンクしてしまう状況でもあったからだ。
……が、しかし。
「……ねぇ、お兄ちゃん? シリアちゃんが頬にキスしたのなら、妹の私だってお兄ちゃんのホッペにチューをしても良いよね? その程度の権利はあって然るべきだよね?」
直後にやって来たリオの言葉と、
「くぅぅぅ……パインだけでも面倒だと言うのに……この上、シリアさんまで……もう、一刻の猶予もありません! ミナト! さぁ、私のベーゼを……濃厚な愛のベーゼを即座に受けるべきです! さぁ、早く!」
どうして、そう言う理屈になるんだっ⁉︎ と、思い切り叫んでやりたい台詞を、かなり真剣な顔になってのたまう女神ココナッツの姿があった。
いや、厳密に言うのなら……更に近くで見ていたパインも頬を『ぷくぅ〜っ!』っと、パンパンに膨らませた状態で、露骨に悔しがっていたのが分かった。
結果、どーなったのかと言うと?
「……あ、そーだ! そう言えばさ? 確かこの辺りに輝きの木が集まっているエリアがあった筈なんだよな?……ホラ、俺もさ? 駆け出しの頃はこの仕事を良くやったから、大体のポイントってか? そう言うのが分かるんだよね〜!」
周囲に生まれた、陰鬱と言うか……妙に居心地の悪い空気を、これでもかと言うばかりに実感しまくっていたミナトは、額から嫌な汗をダラダラ流しながらも、四人に答えると……
「そんな訳で、さ?……俺、ちょっとそのポイントに行って来るよ? 馬車は任せた!」
……ってな感じの台詞を口早に喋った後、素早く馬車を止めると、周囲の面々も唖然となってしまう勢いで馬車から飛び出して行った。
とどのつまり。
「……逃げたな」
リオはポツリと言う。
瞳の部分に影が出来ていた。
額には、でっかい怒りマークのオマケ付き。
「……この後に及んで……あの根性無しぃぃぃっ!」
程なくして、シリアの額にも怒りマークが。
歯を激しく食いしばった状態で半ベソになり……止めどなくやって来る怒りを抑え切れない!
シリア的に言えば、ちゃんと告白したんだから、ここはしっかりキッチリ私を選びなさいよ!……って気持ちで一杯だ!
ハッキリ言って、地味に自己中な事を考えているシリアではあるのだが……例え悪女と罵られようと、これだけは誰にも譲れない!
故に、どぉぉぉぉしても悔しさが滲み出てしまうシリア!
野良女神よりも先に、ミナトへと恋をしていたのに!
駄目妹よりも先に、ミナトと恋人になれるシチュエーションが山の様にあった筈なのに!
今の今まで、ミナトは自分の気持ちを知る事が出来る場面が盛り沢山だったと言うのに!
それでも、ミナトは振り向いてくれない!
ようやくこっちから告白したら……ソッコーで逃げ出す始末!
別に、嫌ってない事は分かるし……いっそ、フッてくれたのなら良いのに……それすらせずに逃げ出す馬鹿野郎が許せなくて仕方ないシリアがいた!
当然、そうなれば……シリアの取る選択は一つ。
「あ、ミナトの言ってるポイントって、あれかな〜? なんか、一杯実が成っているあそこかな〜?……もしそうなら、ミナトだけじゃ持ち切れないから、私も行って来るねー!」
追いかけてやる!
シリアは、ビミョーにすっ惚ける感じの口調で言うと馬車から飛び出し、そのまま勢い良くミナトの後を追った。




