馬鹿な冒険者に福音の到来【16】
「……あ、まだ少しありますね?『所で? 以前、お前に言った事を覚えているか? 確かあの時の私はこう言っていた筈だ』……と。ああ、この部分はですね?」
……と、ここまで答えたパインは、いつになく高慢知己な笑みを濃厚に浮かべてから、ミナトを右手で軽く指刺して、
「実は、パイン・システムだけではなく、パインさん本人も同じ事を思ってます……んで? その伝言の最後の部分を言いますと『必ず惚れさせてやる、と!』です!」
「……はは」
ニッ! っと、快活な笑みを色濃く浮かべながら答えたパインの言葉に、ミナトは苦笑した。
ほぼ同時に『そう言えば、そんな事を言っていたなぁ』……と、軽く思い出すミナト。
あの時、パイン・システムの言葉を聞いた時は『寝言は寝ている時に言え』と、本気で思えた物だ。
現状も、やっぱり同じ様な台詞を言いたい気持ちがある。
だけど、あの時よりは……反発したい思考は、大きく減少していた……そんな気がした。
きっと、ここもまたミナトなりに生まれた心境の変化なのだろう。
故に、ミナトは答えた。
「やれる物ならやってみろ?……言って置くが、俺は女の好みにはウルサイぞ? ちょっとやそっとの良い女ごときじゃ、絶対に惚れてなんかやらねーぜ?」
ミナトは嘯き加減の状態でパインへと答える。
ハッキリ言って、
「……うぁ……軽く引きますよミナトさん……自分をどんなイケメンだと勘違いしているのです? 鏡を見た方が良いですよ? そんな台詞なんて絶対に言えなくなる事、間違いナシな顔が鏡に映る筈ですから?」
「喧しいよっっ!」
かなり真面目な顔をして答えて来たパインに、ミナトは顔を真っ赤にして叫び返していた。
確かに恥ずかしい事を言っていた。
そこらを加味するのであれば、ミナトにも羞恥心があったらしい。
「……ふふ♪」
程なくして、パインは柔和に微笑みながら……ゆっくりと身体をミナトの方に倒して来た。
「……っ⁉︎」
いきなり身体を倒して来たパインがいた事によって、皆とは思わず瞳を大きく見開いてしまう。
パインの体温と柔らかい身体の感触が、自分の左肩から脇腹に掛けてやって来るのが分かる。
ちょっとやそっとの良い女如きでは惚れてなんてやらない!……と、豪語した割には、アッサリと顔を赤くして心臓を急加速させていた。
「お、おい、パイン……お前……何を?」
「……え? だってミナトさんは言ったじゃないですか?『出来る物なら、やってみろ!』って? だから、早速やっているのですよ? 惚れさせてやりますよ? パインさんわ?」
ミナトの身体に寄り添う……と言うか、もはや完全に寄り掛かっていたパインに、
「……ったく」
ミナトは目線をあさっての方角に寄せた状態で、短く言葉を吐き捨てた。
ちょっと苦い顔をしてはいるが……その実、悪い気はしていない。
その証拠に、顔は真っ赤なままだし、
「……はは」
照れ隠しの微笑みまで浮かべていた。
果たして。
「えー! 宴もたけなわではございますが……そろそろ交代の時間になります! つか、何してんの! マジな話っっっ⁉︎」
パインがミナトに寄り掛かり、ソッ……と、さり気なくミナトの左肩に自分の頬を寄せていた辺りで、シリアのダミ声が、二人の鼓膜を大きく激しく刺激し捲っていた!
「うおわっ!」
次の瞬間、ミナトは思い切り目を白黒させ、
「はわぎゃっ!」
パインも以下同文な勢いで驚いていた。
……見れば、荷台に乗っていた、シリア・リオ・ココナッツの三人が、パインとミナトの二人を憤然と睨み付けていた。
「………」
ミナトは無言。
さっきまであった、パインとのビミョーに甘酸っぱい、ハートフルな雰囲気が一瞬にして暗転してしまった。
同時に気付く。
そう言えば、ココナッツもパインと同じだった……と。
同じイヴとして、前世の自分……アダムを慕い続けていた女神でもあったのだ。
もちろんそうなれば? パインと良い感じになっているミナトに対して良い気分を持つ訳がない。
そして、リオのブラコン・レベルは末期である事も、ミナト的にはもはや認めている。
そもそも、戸籍謄本なんぞまで用意しているのだ。
幾らミナトが馬鹿でも、流石に気付くレベルと言える。
そして……。
「……なぁ、シリア? リオとココナッツは分かるとしてもさ? どうしてお前まで怒ってるんだ? 別にシリアが怒る様な事はしてないだろ?」
「してるから! もう! 普通にしてるから!……ってか! 良い加減本気で気付きなさいよ! 私は……ミナトが好きなの! 愛してるのっっ!」
「えええええええっっっ⁉︎」
真っ赤な顔になって叫ぶシリアの台詞に、ミナトは思い切り驚いていた。
もう、今知った新事実って勢いで驚いていた!
つまり、ミラクル鈍感過ぎて、草しか生えなかった!




