馬鹿な冒険者に福音の到来【3】
「ともかく! です! 引っ越しに関しての問題はありません! 全然、全く! ちぃぃぃぃっとも問題にならない些末な事です! そんな訳で、自宅に戻りましょう!」
エロ本の位置まで把握していたパインは、鼻息を荒くした状態で得意気に叫んだ……その時。
ドバンッッッ!
「ちょっと待ちなさいよぉぉぉぉぉぉっっっ!」
今度は自室のドアが豪快に開いた。
同時に、ココナッツの喚き声が、室内に木霊する。
「……えっと、ココナッツさん……おはよう」
自室のドアを豪快に開けて来たココナッツを見て、ミナトは一応の挨拶なんぞをしてみせる。
余談だが、現在の時刻は午前九時をそろそろ回ろうとしていた所だ。
平日であった事もあり、リオは既に学校へと登校している。
「おはようミナト。朝からパインと密談していたみたいだけど、私も話を聞いても構わないかしら?」
「いや、密談って程の事は……」
程なくして、挨拶半分に素早くミナトの間近までやって来ては、地味に睨みを効かせながら口を動かすココナッツに、ミナトは苦笑のまま声を返し、
「密談なんて、人聞きの悪い! パインさんはミナトさんと相談をしていたのです! この、ただひたすら広いだけで、他にメリットも何もない不便な屋敷から、さっさと帰りましょう?……って話をしていただけですから!」
パインは顔で『心外に耐えませんねぇっ!』って顔になって、ココナッツを非難していた。
すると、ココナッツの額に大きな怒りマークが生まれる。
「……へぇ? その話をするだけの為に、私を騙して亜空間に閉じ込めたと言うの? ちょっと言ってる意味が分からないんだけど?」
「おま……そんな事をしたのか?」
明らかに怒りが先行しまくっちゃっているココナッツの言葉を耳にし、ミナトがギョッ! っとした顔になってパインに尋ねると、
「ピュ〜ピュ〜♪ ピュ〜♪」
パインが額に嫌な汗を滲ませながらもあさっての方向に視線を向け、余り上手ではない口笛なんぞを吹き始めていた。
どう考えても『私は全力で誤魔化してます』の図だった。
「……お前な……やって良い事と悪い事があるだろうに……?」
「そんな事を言ってもですよ、ミナトさん! ココナッツが一緒にいたら、です? ミナトさんは絶対の絶対にココナッツの言葉へと耳を傾けるじゃないですかっ⁉︎ そして普通に言いくるめられてしまうのです! だって、馬鹿だから!」
「馬鹿で悪かったなっ⁉︎」
かなり真剣な顔になって言うパインに、ミナトもまた額に怒りマークをくっ付けた状態でがなり声を返していた。
そんな中、ココナッツが悲しそうな顔になってミナトへと口を動かして行く。
「……それで? やっぱりミナトとしては、この屋敷は不満なの?」
「いや……不満とか、そう言うのはないのですが……なんて言うか、庶民の俺としては、あまりにもゴージャス過ぎて……馴染めていないんですよ」
「そう言う事ね?……まぁ、最初はね? 確かに慣れない生活になってしまう所があって、色々と困惑する部分もあるとは思うんだけど……人間、慣れてしまえばどうって事のない物なんて沢山あると思う……それに、これも経験だと思わない?」
「……そ、そうですねぇ……」
満面の笑みのまま、にこやかに優しく言って来るココナッツの言葉に、ミナトも苦笑ながら肯定する事しか出来なかった。
「……ほらね? やっぱりこうなるじゃないですか?……ミナトさんの事だから、ココナッツにそれっぽい事を言われたら、すんなり『はい、そうですね!』って感じで、イエスマンになっちゃう事は、パインさんもよぉぉぉぉく存じておりましたよ? ええ、そうですとも? だって、馬鹿だから!」
「そこは、馬鹿は関係ねーだろうがぁぁぁっ!」
程なくして、何処か拗ねた顔になって口を尖らせながら言うパインに、ミナトが一気に捲し立てる剣幕で反論して見せた。
実際、馬鹿はあんまり関係なかった。
ただ、パインが気分的にディスりたいだけで言っている様にしか感じられない態度と台詞だった。
きっと、本当にミナトをディスりたいだけだったのだろう。
やっぱりパインの性格は、そこかしこにひね曲がっている。
しかしながら……ミナトは思う。
今、この場面でココナッツの言葉にアッサリ懐柔されてしまうと、やっぱりミナトは馬鹿だったとパインに数ヶ月は言われてしまい兼ねない……と!
故に、ミナトは苦笑混じりのままココナッツに答えた。
「……その、やっぱり俺……ココナッツ様に特別扱いされているような、今の待遇は厚遇過ぎると思うんですよ……別に、特別な事をした訳でもないし、理由もなく屋敷に住んでいる感じでもありますしね……」
「それは何? 世間の目が気になると言う事?」
「有り体に言えば、そんな感じですかね……はは」
キョトンとした顔のココナッツに、ミナトは苦笑のままコクリと頷きを返した。




