馬鹿な冒険者に福音の到来【4】
結局の所、世間的に言うのなら、ミナトの言っている事は決して的外れと言う訳でもない。
破滅の女神が一時的に降臨し……キータの街がゴーストタウンと化してしまう脅威があったとしても……そんな事実を知る人間なんて、街の中には誰も居ないのだから。
よって、何も知らない近所の人からするのであれば『なんだか良く分からないけど、いきなり豪邸に引っ越した』と言う事になってしまう。
故に周囲の人間からすれば、分不相応な特別待遇を受けていると見る人間だって、それなりに存在するだろう。
なんの脈絡もなく、突発的に大富豪クラスの屋敷に住む事になったミナト達を見て、多くの羨望を浴びているに違いない。
……ただ、これが単なる『羨望』だけで済めば、まだ可愛い。
中には羨望ではなく、嫉妬や憎悪に繋がる者達だっているのだ。
出る杭は打たれるとは良く言った物で……分不相応な人間に対しての世間と言うのは、ビミョーに冷たくなってしまう物だ。
「……別に高待遇と言う程の事でもないんじゃないのかな? 私はただ、ミナトに住居を提供しているだけ。それ以外は特に何もしてないわ? 強いて言うのなら光熱費程度は、私が負担するつもりだったけど?」
「え! マジですか! ヒャッハー! この家、サイコー!」
しかし、その後に続いたココナッツの言葉を耳にして、ミナトはソッコーで手の平を返していた。
もう、鮮やかな手の平返しだ!
「ちょっ……ミナトさん! たかが光熱費程度で、アッサリ懐柔されてんじゃないですよ、この貧乏人! そもそも、次の光熱費っていくらですか? 精々、全部合わせても二〜三万マールですよねっ⁉︎ その程度ですよねっ⁉︎」
「馬鹿を言うな! その二〜三万マールもの金を稼ぐのに、どれだけ血と汗を流すと思ってるんだ! 特に俺は冒険者なんだぞ! マジで血を流して稼いでるんだぞ! なんなら涙だって流すぞ!」
「涙まで流してるんじゃないです! てか、涙は拭きなさい! パインさんがハンカチ貸してあげます!……って、そんな事はどうでも良いのです! 光熱費程度のお金であれば、これからの仕事で稼げば良いじゃないですか!」
「んな事は、お前に言われなくてもやるわ!……だけど、光熱費の上に月々の家賃まで無くなるんだぞっ⁉︎ これはかなりデカイだろっ⁉︎ 普通に考えてオトクのレベルが違い過ぎる!」
「だ〜か〜ら〜っ! 今までのミナトさんが稼いで来た、みみっちい額よりもっと……光熱費と家賃なんてミミクソ感覚になれちゃう勢いでお金を稼げるでしょう?……と、パインさんは主張したいのです! だって、私がパーティに入るのだから!」
「………」
パインの言葉を耳にし、ミナトは無言になった。
思わず押し黙ってしまったのは……密かに正論であったからだ。
いつもの感覚で、何か反論してやろうと考えたのだが……密かに、考え付く反論が見当たらなかった。
その理由も簡単だった。
「そうか……これからは、パインとコンビが普通になるのか」
「そうなのです! すると、どうなります? ミナトさんの受注出来る仕事の幅が大きく広がりますよ? これまでソロでコツコツとやってた仕事以外にも、色々と難易度が高くてパーティーに入るか、募集するしかない様な仕事も、自分達単独でぽぽぽぽぉ〜ん! っと受けれるのですよ! もちろん、報酬額だってぽぽぽぽぉ〜ん! っと増えちゃいます!」
「ヤバイな……そうなったら、オーマの歓楽街に入り浸っても大丈夫になるじゃないか!」
「そんな邪な事は、お天道様とパインが許しませんが、そう言う考えで当たってます! ついでに、外国にある高い難易度の仕事だって受注出来ますよ? だって私! 空間転移魔法出来ちゃいますもん!」
「なんて事だ! 移動費のコストも削減出来るのか!」
胸を張って『えっへん!』と威張るパインの言葉に、ミナトはとてつもなく驚いていた。
なんて事はない。
仕事をする上で、冒険者が一番金を使うのは移動中の維持費であったからだ。
遠くなれば遠くなるだけ、移動時に必要な経費が高くなる。
……しかし、だからと言って報酬が高くなると言う事はない。
稀に、交通費を負担してくれる依頼者などが居て、純粋に仕事の報酬だけを考慮すれば良いだけの時もある事はあるのだが……ハッキリ言って、そんな美味しい仕事は稀だ!
そして、そんなレアで美味しい仕事なんぞ、他の同業者に取られておしまいである。
とどのつまり、
「これからも、よろしくな! パイン!」
ミナトは瞳をキラキラ輝かせでパインへと答えた。
移動費は、光熱費より高いのである。
ここに家賃を入れても尚、高いのだ!
何故なら、ミナトが住んでいた荒屋の家賃は、光熱費よりも安いのだから!
そして、ここにも出費ゼロと言う名の餌によって、アッサリと手の平を返すミナトの姿があった。
地味にプライドの低い男である。




