破滅の女神とは【26】
その辺りで知った。
パインが、未だココナッツに口を塞がれていた事に。
「……まだやってたんだな」
「んーんーっ! むゔゔゔっぅ!」
ちょっと呆れ半分に答えるミナトが居た頃、パインが眉を思い切り捩った状態のまま、何かを訴えるかの様な叫び声を上げていた。
もちろん、ココナッツの手によってまともに喋る事が出来ていなかったパインだけに、何が言いたいのかなんて、サッパリ分からなかったのだが。
「……? 何が言いたいんだ?」
「私も大賛成!……って、喜んでいるみたいね?」
キョトンとした顔になって言うミナトに、ココナッツが代弁する形で答えると、
「むゔゔゔゔぅっっ!」
パインが全力で首を真横に振っていた。
どうやら、違う模様だ。
「なんか、違うみたいだな?」
「ううん、そんな事ないよ、ミナト? パインは少し照れているだけなのよ〜?」
結局、何が言いたいのかは分からないけど、ボディ・ランゲージで違うと言う事だけは理解したミナトへと、ココナッツは笑みのまま否定の声を上げる。
同時に、ココナッツの両手がパインをガッチリとホールドして来た。
今度は首を振る事も出来ない状態にされてしまった模様だ。
「むゔゔゔ〜〜っっっ!」
あまりの理不尽さに、パインは両目からドバドバと滝の様な涙を流し、周囲に虹を作り出していた。
「……やれやれ」
ミナトは半眼になる。
何となくではあるのだが『別に泣く程の事じゃないんだろ?』と、言いたい気持ちで一杯のミナトが居たのだが、
「なぁ、ココナッツさん? パインにも、パインなりの言い分があると思うからさ? ちょっと聞かせてくれないかな? やっぱり、パインの口から直接聞かないと、さ?」
「……え? 大丈夫でしょう? だって、パインと私は一心同体なのですから!」
本当にそうなのか? と言いたくなる様な台詞だった。
実際問題、パインは更に勢い良く泣き始めていた。
もう、これは絶対に違うよ!……って分かる態度だった。
「頼むよココナッツさん。流石にここまで泣くパインを見た事は………あるけど、あんまり見ないんだよ? ここは本当だ。割としょっちゅう泣くけど。普通に迷惑な時もあるんだけど……でも、ここまでのは珍しいんだよ。これを無視すると、マジでパインに恨まれそうでさ……はは」
「……分かったわ……そうね……私もパインに恨まれるのは本心じゃないし、今回はここまでにして置いてあげましょうか」
やや拝み倒す形で答えたミナトに、ココナッツは折れる形で声を返し……パインの束縛を解いてみせた。
「ぷはぁぁっっっ!……ゼェゼェっっ! コラァッ! ココナッツ! あなた、私を窒息させる気ですかっ⁉︎ 最後は、トドメでも刺すかの様に口と鼻を、さりげなぁ〜く押さえてましたよねっ⁉︎ あわよくば失神させようとしてましたよねっ⁉︎ メチャクチャするんじゃないですよっっ!」
解放されたパインは、直後にココナッツへと雑言を浴びせる。
「いや、流石のココナッツさんも、そこまでの事は考えてないんじゃ……」
そんなパインに、ミナトは苦笑のままココナッツをフォローする感じの台詞を口にしたのだが、
「……チッ」
間もなく、ココナッツの舌打ちがやって来た。
「……考えていたのかよ」
ミナトは、地味に苦々しい顔になってしまう。
自分はどうして、こんなにも腹黒い女神を二人も相手をしないといけないんだろう?……と、途方に暮れていた。
「ミナトさん! この話はストップです! 根本的におかしいです! 特にココナッツがミナトさんと一緒に住む所を、私は大きくデッカク、この上なく反対してやりたいのです! だって邪魔だから!」
「それ……お前の私情しか入ってないんじゃ……?」
「当然? 私の私情も多少は入っております……ええ、そうですとも? これはパインさんが自分なりに考えた上で述べている事です。だから、ちょっとは私情も入っているでしょう! だって、女神だもの!」
それを言うのなら『だって人間だもの』と言うんじゃないのか?
ミナトは内心でぼやいたが、胸中内のみに留めた。
実際にツッコミを入れても構わなかったのだが、パインを相手に正論を述べた所で、不毛な返事があっけらかんと返って来る事なんぞ、誰彼から聞くまでもなく分かり切っている。
……だから、言うのをやめた。
普通に疲れるから。
「それで? 多少は私情が入っている内容だったとして? どうしてお前は引っ越しに反対しているんだ? 具体的に反対する理由を言えよ?」
「そんなの決まってます! ココナッツが自宅を用意すると言う事は、とっても大きな屋敷の様な家になると思うのです!」
「ああ……まぁ、何となくそんな感じになりそうだな?」
パインの言葉に、ミナトはそれとなく相づちを打った。
まだ曖昧ではあるのだが、ココナッツの言い分を聞いている限り、かなり立派な家になりそうだ。
少なからず言える事は、今居る荒屋とは、比較にならないまでに豪奢であると言う事だけは、想像力の貧弱なミナトですら優に想像出来た。




