破滅の女神とは【24】
しかし、リオが傍目感覚で笑っていられたのは、ここまでだった。
「あなたも分かっている通り、私はパインと『同じ存在』なの……だから、環境も『同じであるべき』だと考えているの!」
かなり情熱的な視線を向けながら答えたココナッツの言葉を耳にし、
「……はぁ?」
ミナトは徐に惚けた顔になり、
「ちょっ、ちょっと待ってよっ!」
さっきまで笑っていたリオも、血相を変えて話に混ざって来た。
リオ的に言うのなら、ココナッツとはキータを作った創造主だ。
始まりの女神として、歴史の教科書に良く出て来るし……この国を救った事だってある。
それだけに、かなり畏れ多い偉人であり……ここキータでは、文字通り多数の信者までいる、歴とした女神だった。
つい最近まで、ダンジョンの中でひたすら永い眠りに就き、冬眠している熊だって早起きに分類されちゃうだろう、野良女神とは訳が違うのだ!
余談だが……太古の時代から、ずぅぅぅっっと寝ていた『だけ』と言う事が判明した結果……パインは正真正銘、本当の野良女神である事が分かった。
つまるに、女神と言っても過言ではない存在ではあるかも知れないけれど、何処の宗派にも属してなければ、自分で教団を作った訳でもない……全くフリーな女神と言う事になる為、もはやこれはもう……本当に野良女神で良いんじゃないのか? って答えがミナトの中に生まれていたりもするのだが、余談程度にして置こう。
何はともあれ。
女神・ココナッツの名声は、地元キータ国はもちろんの事、世界のあらゆる所にココナッツを崇める宗派が多数存在しており、宗教分布図的にも結構メジャーな女神様だったりする。
ここいらを考えるのであれば、単なる野良女神と同等の扱いなんぞ、出来る筈もない!
そして、ハチャメチャに凄い人だから、声を掛けるのも気が引ける!
……そう。
実はリオ。
偉い人が苦手だ。
きっと、これは……根本的に偉い人を避けて通る、ミナトの性質に感化されてしまったのではないだろうか?
何にせよ、権威のある存在と対話する事が苦手で……かく言う、その事実をミナトの百倍は知っていた関係上、リオはココナッツとの直接対話をなるべくしない様にしていた。
リビングにココナッツがやって来たのを確認した直後、さりげなぁ〜くリビングの背景になっていたのは、偉い人と関わりたくないから……とか言う、リオ的な苦手意識から来ていたのであった。
だが、しかし。
「パインさんと同じ環境を望むと言う事は……まさか、ここに住むとか言いませんよねっ⁉︎」
まさに瓢箪から駒が出て来る勢いで、なんとも突拍子のない台詞を臆面もなく吐き出して来た日には、流石のリオも黙っては居られなかった。
挙句の果てに、
「ええ、もちろん。だって不公平じゃない? パインはミナトの近くにずっと居られるのに、私は同じ屋根の下にすら居られないなんて……あんまりだわ? これを不平等と言わずして、何を不平等と言うの?」
屁理屈としか、他に表現出来ない様な台詞まで、涼しい顔のまま平然と言って来た。
「……ははは」
これには、ミナトも苦笑いだ。
そして、リオにとってのイライラにも繋がっていた。
「ちょっと、お兄ちゃん! ヘラヘラしてないで、ビシッと言いなさいよ! ウチにこれ以上、人が住めるスペースがあると思う? ないでしょっ! 全然! 全く! これっっっっっぽっちも! ただでさえ、パインさんがいて……部屋数的には定員オーバーどころか、部屋が足りない状態だって言うのに……この状態で、更にもう一人? 冗談じゃないからっ!」
直後、リオが猛剣幕でミナトへとがなり声を上げる。
ズバリ言うのであれば、声を上げる矛先が違うだろう?……と言いたいミナトではあったのだが、
「……まぁ、そうだよなぁ……」
リオの言葉には一理ある。
ミナト宅の荒屋は、元来二人で生活する事を基準にして住んでいる居住空間だ。
母が死に……元々あった家から引っ越す羽目になってから以降の自宅であった為、もっぱらミナト本人とリオの二人が住む事を前提とした造りになっている。
……もちろん、野良女神が住み着いてしまう事を前提にした家ではないのだ。
「ああ、そう言う事? それなら引っ越せば良いじゃないの?」
程なくして、ココナッツが笑みのまま言う。
この言葉に、リオは唖然とした顔になって、
「簡単に言わないでくれませんかねぇ? 引っ越しにだってお金が掛かるんですよ? それに、女神様の都合で大きな家に引っ越すとか?……こっちの迷惑も考えて……」
厳しい顔のまま雑言を放ち、
「新居は私が用意するわ? そうだねぇ? 四人で悠々と過ごせる空間が良いかな? お風呂も広めで、庭にはロフトとか付いてたりすれば、より良いかな?」
「……迷惑ではありませんでした! うん、素晴らしいです! 女神ココナッツ様! 最高!」
間も無く答えたココナッツのプランを耳にしたリオは、瞬時にその掌をクルッ! っと返していた。
もう、てのひらがドリルになっちゃったんじゃないのかな?……って、勢いで素早くひっくり返していた。




