破滅の女神とは【21】
……故に、思う。
やっぱり、お兄ちゃんを諦める事なんて……出来ない!
パインの一件により、ミナトとの間に心の溝が生まれてしまったかと危惧したリオであったが……実際には、自分が不安に思っている程、ミナトはリオに対して嫌悪感を抱いている様子はなかった。
つまるに、単なる杞憂で終わったのだ。
そうなれば、まだミナトの彼女になるチャンスが、完全に消失した訳ではない!
まだやれる。
……まだ、頑張れる!
現状は、まだまだ自分の事を妹として見ているかも知れないし、戸籍謄本まで見せてはミナトに実の妹ではないと言う証拠まで見せても尚……やっぱりミナトはリオを妹扱いする状態ではあるが……それでも、思う。
努力すれば、頑張れば……きっと、自分が思い描いた、最高の未来が到来して来る、と!
「まだ、これからだよね……ネバーギブアップだ、私」
リオは、誰に言う訳でもなく、小さな声でボソッ……っと口を動かしていた。
自宅玄関のドアが開き『いやぁ〜! やっとあの面倒なおかーちゃんが帰ったよ〜♪ 本当、真面目に大変だったな〜!』って感じの声が、ミナト達の耳にも転がって来る。
声の主はパインの物だ。
どうやら、自宅に戻って来た様子である。
「……あ、パインさんが帰って来た見たいだね?」
「そうみたいだな」
妙に開放感のある、実に清々しい声音が聞こえて来た事で、リオは何気なく声を吐き出し、ミナトがリオの言葉に頷いていた。
そんなミナトの表情は……ちょっと嬉しそうだ。
いきなり家出同然の状態で居なくなってしまったパインだが、いつもの様に……かつナチュラルに帰宅してくれた事が……なんだか少しだけホッとしている自分がいたのだ。
その反面……どうしてこんな瑣末な事に、ここまで安心しているんだろうな? って感じの気持ちも生まれたミナトであったが、まもなくして『ま、良いか』と、深くは考えずに笑みを漏らす。
そんなミナトは自分でも気付いていない。
程なくして『ま、良いか』と考えていた時……不意に笑顔が溢れていた自分に。
いつの間にか、パインが自宅に居る事が当たり前になり過ぎて、居なくならなかった事に安堵していた自分が居た事実に。
無意識レベルだったかも知れないが……結局、ミナトはパインが戻って来てくれた事を喜んでいたのだ。
「………むぅ」
リオは、眉を寄せて不満そうな顔を作る。
今回に関して言うのなら、パインが自宅に戻って来たと言う安堵感を共感する事が出来る。
よって、ミナトの気持ちだって分からない訳じゃない……ないけど、どうにもフラストレーションは溜まってしまう。
好きだからこそ感じる、強い不満だ。
本当は、ここで自分の中に生まれているフラストレーションを、貯蓄する事なく全部ミナトにぶつけてやりたい心境で一杯だったのだが……やめた。
もう、これ以上パインに辛く当たる事は出来ない……そう、思っていたからだ。
極論からして、リオも悪い人間には成り切れないのだった。
他方、ミナトはパインの声が聞こえたと同時に、ベットから起き上がっては、リビングの方へと足を向ける。
そして、思わぬ来客がいた事にポカンとなった。
リビングにやって来たミナトは、帰宅したパインと、
「え? ココナッツさん……かな?」
ちょっと驚いた顔になって言う。
ミナトの言葉通り、リビングにやって来ていたのはパインだけではなかった。
そこに居たのは、パインと同じような外見を持った、もう一人の女神……キータ国を作り出したと言われる『始まりの女神』こと、ココナッツまで一緒に居たのだ。
「あ、ミナト。どうやら元気そうね? 良かった」
リビングにやって来たミナトの姿を見て、ココナッツはにっこりと朗らかな笑みを作りながら答えた。
なんともホンワカしてしまう、とっても可憐な微笑みだ。
顔だけを考えれば、パインと同じ様な顔をしていると言うのに……そこから醸し出される雅やかさと優美な雰囲気は、全く以て似ても似つかない。
一体……何処でどう変わってしまったと言うのだろう?
決してパインが下品と言う訳ではないのだが……ココナッツと比較すると、やっぱり本物の女神様ってのは、こう言うのを差すんだよなぁ……と、思わず言いたくなる程度の違いが存在していた。
それだけに、
「あはははっ! まぁ、パインさんは分かっておりましたよ? ミナトさんの生命力はゴッキーより高いと! あの程度で簡単に死ぬなんて、天地が逆さまになってもあり得ないと思ってましたからね〜!」
ケラケラと笑い、心配の『し』の字も見せない勢いで言って来るパインの態度には腹立たしさを覚えた。
ハッキリ言いたい!
「誰のせいでこうなったと思ってんだよっ!」
ミナトは額に怒りマークを作りながらも、パインに叫んでみせた。




