破滅の女神とは【11】
「ミ、ミミ、ミナトしゃんっっ⁉︎」
突発的に抱きしめられた事で、パインは顔を真っ赤にさせていた。
意図せずして抱きしめられた事で、胸がドキンッッ! っと跳ねる。
そこから、一キロは全力疾走したんじゃないのか?……って勢いで、急激に心拍数が急上昇していくのが、パイン本人にも良く分かった。
ついでに、頭まで上手に機能せず、怒涛の緊張感が精神を支配してしまい、上手に喋る事すら出来なくなる。
現に、呂律が回ってない状態でミナトへと叫ぶパインの姿があった。
そんな……何もかもがいっぱいいっぱいになっていたパインがいる中、
「怖くなんかねぇよ……お前が破滅の女神だかになった時は……俺が責任持ってお前を止めてやる」
パインを優しく抱きしめながら、ミナトは答えた。
穏やかな笑みを柔和に作って。
内心は『あんな化け物にパインがなったら、実際には預金通帳を持って、全力で国外逃亡すると思うけど!』とかって、思ってたけど……流石に格好悪いので言わなかった。
果たして。
「ミナトさん……うぅ……ふぅうぇ……」
パインはミナトの胸元で泣き出した。
……嬉しかったのだ。
自分が破滅の女神になってしまった時。
もう、どうしようもない絶望が、キータの国を襲った時。
きっと、パインは世界中に存在する全ての人間に恐れられる事になるだろう。
……最低最悪の悪魔として、恐怖の対象になってしまい、誰一人として自分と会話をしてくれる事もなくなってしまうだろう。
だけど、きっと……。
「ミナトさんなら、そう言ってくれると……その……ちょっとだけ……うん、本当にちょっとだけだけど……思ってました」
パインはモジモジした状態のまま言う。
ぐすっ……ぐすっ! っと、鼻を啜りながら……そして、後半は自分でもかなり恥ずかしかったのか? 尻つぼみに語気と声のトーンを落として言う。
「……お前、こんな時ぐらいもう少し可愛気のある言葉を言えよ……」
ミナトは苦笑混じりに答えた。
結局、やっぱり素直になれないパインがいた……気がするミナト。
ミナトは、どんな状態になっても、パインの味方である事を宣言した。
そして、ミナトの言葉を信じているパインの姿があった。
お互いがお互いを、ちゃんと信じていた。
……で、良い話なのに、どうしてもパインはミナトに対してプラスになる台詞をストレートに言えない。
何故か変な抵抗を試みて、素直さの足りない……妙につむじ曲がりな態度に変わってしまうのだ。
考え方によっては、そんな姿もパインなりの可愛気なのかも知れないのだが……。
「う、うるさいですねっ! パ、パインさんはパインさんなりに全力で善処しました! これ以上の善処を望むのは、贅沢と言う物です! 過剰な要求なのです! パインさんは不当な過剰要求には断固反対します!」
「訳の分からない事をほざくんじゃないよ……全く」
顔を真っ赤にしたまま、かなり必死の形相になって叫ぶパインに、ミナトは地味に呆れ眼を作りながらも声を返していた。
そんな二人の姿を見て、
「あら? ほんの少しの間に、随分と仲良くなったのね? ふふ、良かったわね? パイン?」
りんごは朗らかに微笑みながら声を吐き出す。
ミナトは地味に眉を捻った。
「これの、何処が『随分と仲良くなった図』なんですかねぇ……」
そこから、ミナトは不本意な感情を言霊に乗せる形で口を開き、
「………」
パインは無言になっていた。
なんと言うか、りんごの言葉を耳にした事で妙にミナトを意識してしまったらしく、再び顔を真っ赤にさせたまま俯き、言葉を出す事が出来ない心境に陥っていた。
こんな態度を取れば、パインも可愛く見えるんだから不思議な物である。
……とは、ミナトなりの内心だ。
実際に、真っ赤な顔で俯いている姿は、なんだかんだでミナトの心臓を揺さぶってはいる。
だけど、ここでパインにときめいてしまっている事をパイン本人に悟られたら、絶対に後で思い切りイジられる事は火を見るよりも明らかであったので、必死になって平静を装っていた。
「この調子だと、パインがアダム……ああ、今はミナト君だったかな? ともかく、ミナト君のハートを射止めるのはパインになる可能性が高そうね? ふふ、それならそれで、私は構わないわよ?」
それはどんな冗談ですか?……と、この時、ミナトは本気で思えたんだけど……口には出さなかった。
なんとなくだけど、この時のミナトは思ったのである。
ま……パインと一緒に居れば退屈しないし。
コイツもコイツで、俺の家を追い出されたら、他に行くアテもないだろうし。
そもそも、破滅の女神なんて言う危険な存在なら、むしろ野放しには出来ないし。
それならそれで、パインとくっ付くと言うのもアリなのかな。
内心でのみ、曖昧に考えるミナトがいた。
もちろん、口にする事はなかった。
言えば、パインが付け上がるに決まっているからだ。
決して、言うのが恥ずかしかった訳じゃない。
……そう言う事にしておいた。




