破滅の女神とは【9】
「……あら?」
ユニクスと自我を失ったココナッツとの戦いが続いている中……そこでりんごはキョトンとした顔になる。
りんごの視点からすると後ろになる為、元来であれば振り向かないと視野に入らない角度ではあったのだが……それでもりんごは即座に気付いたらしく、ゆっくりと振り向いて見せる。
その先に立っていたのは……パインとミナトの二人だ。
「……ここは、街の郊外か?」
ミナトは、軽く周囲を見回しながらも口を動かしていた。
どうやら、意味も分からない間に、りんご達が飛んで来た場所までやって来ている模様だ。
それらの態度を加味すると……パインによる瞬間転移魔法によって、この場へとやって来ているのだろう。
身体のベースは人間である筈のパインではあるのだが、一応完全なる人間ではない……と言う扱いなのだろうか?
ともかく、詳しい事情は分からないが、パインは空間転移魔法が使えたりもする。
……ともすれば、アリンの様に『人間でも空間転移だけ可能』な魔導式のメカニズム等を、パインは知っているのかも知れないのだが……余談程度にして置こう。
何にせよ、つい先程まで街の大通りにいたミナトとパインの二人は、りんご達の場所まで瞬間移動して来た。
「……良くここが分かったわね? ちょっと驚いたわ?」
パインに気付いたりんごは、意外そうな顔になって言う。
すると、パインは『えっへん』と、無駄に胸を張って答えた。
「パイン・システムに掛かれば、相手の所在地を知る事なんて簡単です! 相手の意識に潜り込んで情報をキャッチして、あとは情報を元に所在地の座標を断定するだけで良いのですから!」
「……ああ、パイン・システムがいたわね。なるほど、理解出来たわ……あの頃の人工知能システムは優秀だったから、その程度の芸当は可能だったわね? パイン本体が出来る芸当にしてはおかしいと思っていたのよ」
「んなっ! お母さん! それは聞き捨てなりませんよっ⁉︎ それでは、私よりもパイン・システムの方が優秀と言う事になってしまうではありませんかっ! 確かにパイン・システムは優秀ですが、本体の私あり気の存在ですよっ⁉︎ そこは私を褒めるべきではありませんかっ⁉︎」
納得するりんごに、パインは思い切り不服そうな顔になって叫んでみせた。
ハッキリ言って、良く分からない理屈だったし、本気で相手にするのもバカバカしい内容でもあった。
だからだろう。
「ああ、そうね? そうして置きましょう? うんうん、偉いよパインは……はいはい、偉い偉い」
りんごは超絶テキトーな口調でプラプラと右手をヒラヒラさせながら相づちを打っていた。
次の瞬間、パインは頬を『ぷくぅ〜っっ!』っと風船みたいに膨らませる。
「お母さん! それは、絶対にそう思ってない人間が取る態度ですよ! ここは、もっと! ちゃんと! しっかりと! パインの言葉へと真摯な対応をするのが、最低限の礼儀だと思うのです! 今すぐやり直しましょう!」
そして、遮二無二がなり立てて来た。
りんごは地味にうんざりした顔になってしまう。
「……なんて言うか、あなた……腐れキノコに似てるわね……はぁ、おかしいわ? 何処で育て方を間違えてしまったのか……?」
そして、嘆息混じりに両腕を組みながらもぼやきを吐き出していた。
「およ? みかんさんに似ているです?……いや、みかんさんは『腐れキノコ』ではないから、違ったね〜? あはは〜!」
りんごの話を耳にしたみかんが、陽気な笑みのまま声を出していた。
「アンタの他に腐れキノコが居たら、世も末じゃないの……」
りんごは苦々しい顔になって、みかんに対してぼやきを口にすると、
「そうですか、なるほど。つまり、私はお母さんよりも腐れキノコさんに似ていると言う事ですね?……いや、待ってお母さん? 腐れてる人と私が似ていると言うのはおかしいですよ? だって私、腐れてませんもの!」
パインが、更にりんごの吐息を誘う様な台詞を、真面目な顔になって口にしていた。
お陰で、りんごのテンションは更に下がってしまう。
「……そう言う所が似ていると言うのよ……ともかく、あなたが腐れキノコと似ていても構わないし……その腐れた性質を矯正なさいとも言わないわよ……心情的には直して欲しいけどね」
りんごはビミョーな顔になりつつもパインへと答えた後、真剣な顔になってから再び口を開いた。
「それより、パイン? ここに『アダムと一緒に来ている』と言う事は、ちゃんと謝る事が出来たのね?」
「もちろんですお母さん! 私は素直な良い子なので!」
実は『素直な良い子』とは到底言えないレベルで渋りに渋りながらも、ようやくごめんなさいの言葉を喉から捻り出していた……と言うのが真実だったんだけど、あたかも即座に謝りました! って感じの態度でりんごに答えていた。
相変わらず、地味にしたたかな女神だった。




