異世界のトンネル#4
「もしかして、ブレーキやサスペンションも作られてる?」
ベアリングが進化しているなら、車軸が抵抗なく回るようになる。
でもそれは同時に、ブレーキやサスペンションも進化しないと乗り物には使えないって事でもある。
ブレーキがきかないのに、坂道でカラカラっと走り出してしまったら?
ろくなサスペンションも道路もないに、ガタガタの石畳の道で時速120キロで走り出してしまったら?
どちらにしろ、ろくな結果にはなるまい。
そういうと、オルガは「ウム」とうなずいた。
「もちろんそっちも劇的に向上しているぞ。抵抗なくよく走り、よく止まり、乗り心地も向上してきたそうだ」
「おお」
素晴らしきかな技術進歩ってやつだ。
そんな話をしながら、ゴーレムの入った脇道のそばを通過した。
「話変わるけどこのトンネル、順調にいけばあとどれくらいだ?」
「あとか?そうだな」
少しオルガは考え込んだ。
「シャリアーゼまで無事つながっているとして、わたしの推測通りなら……地球の単位で300キロそこそこといったところじゃないかね?
アイリス嬢、どうかねえ?ちゃんと通じてるかねえ?」
「んーとね……道の具合はわかんないけど、通じてはいるみたい」
「距離は?」
「あと290キロってとこ」
アイリスはタブレットをあれこれ操作しつつ答えた。
「わかった」
290キロか……結構あるな。
東名高速なら、東京から浜名湖の向こうまで行けそうじゃないか。
砂漠やハイウェイを突っ走るだけなら数時間だけど、もちろん今のキャリバン号じゃそうはいかない。
調査をしつつ進むから。
「今日は行けるとこまで行って、到着は明日いっぱいかなぁ……ってちょっとまった」
「ん?」
「宿泊どうしようか?」
まずい、そっちを忘れてたぞ。
「どうしようとは?」
「いや、さすがにこのトンネルの中で宿泊はまずいだろ?どうしようかな?」
道の真ん中で停泊するのは論外。
すると当然、時々ある休憩所を使うわけだけど……うーむ。
ところが。
オルガがそれに異を唱えた。
「それならたぶん、通路の奥に入ればいい。避難場があるぞ」
え?
「避難場?」
「まぁ待てハチ。
アイリス嬢、休憩場の奥が広くなっているだろう?確認してくれ」
「えーと……あ、ホントだ」
ウンウンとアイリスが同意してきた。
「えっと、どういうこと?」
「作業ゴーレムがウロウロしているタイプの施設には、必ず奥に休憩場が作られているんだ。当時も作業者が寝泊まりするのに使っていたそうだよ」
「なるほど」
そういう歴史的経緯があるんなら間違いなさそうだな。
「よし、じゃあ案内してくれ」
「うむ、任せるがいい」
そうして、次に見つけた休憩場の奥に誘導してもらったわけだけど。
「この扉の中なのか?」
「そうとも。ちょっと待ってろ」
オルガはそういうとキャリバン号を降りて奥の壁のところに行き、何かを操作した。
「お、すげえ」
スルスルと音もなく左右に壁が開いた。
「この中に入れるんだ」
「ういっす」
時計をみると、なんだかんだで夕刻が近いみたいだし。
ちょっとはやいけど、ここが安全なら悪くないかもしれないな。
結局、今夜はここで泊まる事になったんだけど。
「オルガ、ここテント張れないぞ」
「あ」
そんなわけで。
オルガ参加以来、初の車中泊が決定した。
いろんなとこに寝泊まりした事があるけど、トンネル、しかも廃隧道に泊まるなんて生まれてはじめての経験だ。
まぁ廃隧道といってもエネルギーが切れてないし、管理ロボットみたいなのがウロウロしていてキレイに整備されているわけで、その意味では普通にトンネルの作業坑に泊めてもらうようなもんだけど……そもそもトンネルの中に泊めてもらうこと自体がレア体験だよなぁ。
……つーか俺、なんかめっちゃ興奮してねえか?
なんだろう。
異世界ではじめての夜は、ひたすら不安で興奮はしてなかった。
その後はアイリスと出会ったり色々あったわけだけど……ほのぼのキャンプみたいになっても興奮はしてないな。オルガとムフフな意味での興奮は別だけど。
それなのにさ。
こんな異世界くんだりまでやってきてるってのに、一番子供みたいに興奮しているのが「トンネルでお泊り」なんだろうな?
なんつーか。
ぶっちゃけ、アホだろ俺。
いやま、俺の事はいい。休憩場に戻ろう。
休憩場は駐車場としては十分だったけど、ろくな明かりがなかった。常夜灯みたいな灯りがあるけど暗すぎるし、オルガのランタンは一度テントを広げないとダメらしい。
だから久しぶりに、キャリバン号のランタンを総動員してみることにした。
地球製のランタンを総動員すると聞いてオルガが目をキラキラさせはじめたのだけど、まぁとりあえず釘をさす。
「期待させて悪いけど、面白いもんじゃないぞ。うちのランタンはみんなLEDつまり電気式だから」
「充分だとも。なにしろ異世界の器具を利用者本人の解説つきで試せるんだからねえ」
なんか謎のテンションでクスクス笑っていた。
むかしバイクで旅してた頃は、ブリキの灯油ランプとか持ってたよ。灯油コンロ使ってたからちょうどよかったんだよね。
でもあれ車内じゃ使えないだろ?
だから防災用もかねて、ぜんぶ手回し充電式のLED電灯に置き換えちゃったんだよね。
「いいんじゃないか?合理的で結構けっこう」
「あははは」
確かに合理的だよ、うん。
だけどさ。
竜の眷属である銀髪幼女であるアイリス。
黒髪の美人科学者であるオルガ。
そんなふたりがさ。
俺のおんぼろ軽四の隣に置かれた、俺自身も存在を忘れてた鹿番長ブランドのテーブルセットに並んで座ってさ、楽しそうに防災用手回しLEDランタンをグリグリ巻いているんだが。
……うん。
この世に異世界物語は数あれど、こんなマヌケな、もとい、ファンタジーって言葉を斜め上から小馬鹿にしたような光景はウチだけだよな、きっと。
いやまぁ。
二次創作の世界だったら、三国志演義の世界にいって本物の諸葛亮孔明とケータイで写真撮りあったアイドルとかいるの知ってるけどさ。それにしてもひどいだろ。
ハハハ。
そんな俺の情けない気分とは裏腹に、オルガは実に楽しそうだった。
「しかし、こんな軽いハンドルをちょっと巻いたら一時間以上もつのか。どんだけ高効率なんだか」
「ああ便利だろ?ま、さすがに魔力でポンと充填とはいかないが」
さすがに、そこまで便利ではないわな。
でもそういうと、オルガがちょっと眉をしかめた。
「それはハチの魔力が我々魔族と同等か、それ以上に豊富だから言える事だぞ」
「?」
「人族全体でいえば、我々は少数派ということさ。
人間族はもちろんだが、獣人族の多くも魔力は決して多くないんだ。この手巻き発電装置や消費の少ない灯火システムは、彼らにも非常に価値あるものだと思うぞ」
「え、そうなの?」
それは知らなかった。
「そもそも獣人族は、その魔力よりその特殊能力を選んだ者たちが大多数なんだ。
獣人族で魔力が多い者というと……たとえば羊人族系……つまり山羊や羊の獣人くらいだぞ。他にもいる事はいるがむしろ例外的だ」
「へえ」
それは意外。
「ドワーフは?」
「ドワーフは魔族の次に多いな。彼らはモノづくりに偏った種族だからというのもあるが」
なるほど。
「よし、これで終わりか」
「パパ、これはここにつけるの?」
「おう。入り口にぶらさげといてくれ」
ここはキャンプ場じゃないから他のキャンパーを意識する必要はない。
だけど、車の前後に小さな常夜灯をぶらさげておくのはやっとく事にした。なんとなく気分の問題でな。
おっと、ひとつ問題があったっけ。
鹿番長: アウトドアメーカー『キャプテンスタッグ』の一部での愛称ですね。
諸葛亮孔明とケータイで写真とりあったアイドル:
アイマス系動画で、ええ。




