廃隧道と車中泊とお花摘み
お食事中の方すみません、ちょっと尾籠な話が出ます。
おっと、そういえばひとつ問題があったっけ。
車中泊をよくする人ならわかるよね。そう、あの問題だ。
お食事中のひとごめんなさい。
「そういえば、ここってお花摘みが問題なんだっけ」
「お花摘み?」
「あ」
しまった、これは通じないか?
困っていたらアイリスがオルガにゴニョゴニョと耳打ちして、
「ああなるほど、厠かねえ」
「……その古風な言い方はともかく、ウン、それ」
そこ、シャレ言ってるんじゃないぞ。
「それなんだがハチ、アイリス嬢がこんな道具を持っていたんだがねえ」
「え?」
見れば、そこにあったのは。
「ちょ、それ処分したはずなのに」
オルガが持っていたのは、アヒルのおまるだった。
あーいや、ちょっと待てそこの人、呆れないで話をきいてくれ。
もちろんキャリバン号にアヒルのおまるなんか積んでなかった。そもそも需要がないし、俺にもそういう趣味はないからな、断言する。
じゃあ、どうしてあるかというとだね。
「それは失敗なんだよ」
「失敗?」
「アイリスを借り受けた時にね、ちょっとやらかしたんだ」
俺は小さい子の相手をした事がない。結婚もしてないし、親戚の同世代では一番下。イトコの子なんかとも疎遠だったし。
だから、アイリスのために服とか色々取り寄せた時にさ。
ほら、あの頃って俺の力の性質もよくわかってなかったからさ、トチ狂って余計なものを色々取り寄せちゃったんだよ。哺乳瓶とかおむつとか……アヒルのおまるもそう。
え、なんで触れなかったのかって?
いや、かんべんしてって……そんな黒歴史をどうしろと。
で、だ。
「基本的に焼き捨てたんだけど、おまるはプラスチック製で大きいからさ。焼いたら有毒ガス出そうだし、アイリスが安全な処分法を知ってるっていうから頼んでいたはずなんだけど?」
「~♪」
なんかアイリス先生、口笛ふいて横向いとりますが。
「アイリス、ウソついてたのか?」
「いや、ウソではないだろう。おそらく真竜どのから回収指示が出たんじゃないか?違うかアイリス嬢?」
「あ、うん……なんで?」
「真竜どのは、しばしば変わったものに興味をもつからな。特に、この世界にない生活用品や装身具、ベビー用品などを面白がる傾向がある。違うかね?」
「そうだよ」
「……アヒルのおまるをか?」
「用途はわかるけど、素材と形がおもしろいって」
「……そうか」
アヒルのおまるを欲しがるドラゴンって……。
ま、まぁいいか。
どうやって隠してたんだとか疑問はあるが、とりあえず置いとこう。
「とりあえず話を戻そう。
で、そのおまるがどうしたって?」
「とりあえず、これを使えば厠の代わりになるんじゃないかと」
「……あのですねオルガさんや」
「?」
言わないとわからないかなぁ。
「これ、トイレの始末のできないちびっこ用なわけだよ本来」
「うむ、そうだろうね」
「そうだろうねじゃなくて……俺たち大人が使ったら変だろ、そう思わないか?」
「……それはそうだが、誰も見てないし、いいんじやないかねえ?」
「いやいやいや」
俺は否定した。
「俺は他人のアレをながめる趣味はないぞ?」
「無理に見る必要はないし、目をそむけていたらいいんじゃないかねえ?」
「割り切りすぎだろ!
だいたいオルガ、あんたも大人の女として、いくらなんでも」
「何を言ってるのかねえ。
発掘現場や現地での調査では、そこいらへんでするなんてよくある事じゃないかねえ?」
「……いや、おまるのほうが『そこいらへん』より絶対ハードル高いだろオイ」
「そうかねえ?それに、女のそういうのを見るのは、男としては良い眺めなんじゃないのかねえ?」
「そっちの趣味はねえっす」
「そうなのかねえ?確かタシューナンのアングラ酒場で昔、排泄ショーというやつが」
「いやいやいやいや勘弁してください」
そういうのに興奮する人がいるのは知ってるが。
「つーか、この世界にあるのかそういうの!」
知りたくなかったぞ俺は!
「なぁに、世界が変わろうと性癖なんて変わるもんじゃないさ」
「なぜに断言する?」
「知ってるかねえ?この世界では書物を複写する魔法が古くから知られているんだが。
実は地球製のエロ本に萌え狂った研究者が、なんとしてもこれを寸分違わず複写したいと、そのためだけに一生捧げて作り上げたんだそうだよ」
「……アイタタタ」
そういや昔、コピー機黎明期に本当にあった事件で、自分の股間のコピーをばらまいて大騒ぎになった女の人とかいたよねえ海外に。
「ああ、ちなみにその時に複写されたものが……アイリス嬢、ちょっとタブレットを借りるねえ?」
そういうと、オルガはタブレットを操作して見せてくれた。
「ほら、これだ」
「……これはまた」
俺はグラビアアイドルとか知らない人なんだけど、その人は知っていた。
「……あー、この人か」
確か元AV女優のタレントさんで、中国でえらい人気になった事のある人だ。
俺は彼女のコンテンツみたことないんだけど、美人さんだなーと写真を見たことはある。
でも。
「……普通のグラビアみたいだけど?」
これ複写するために一生かけたっての?
「一応聞くが、何を想像してたのかねえ?」
「いや。一生かけたってーくらいだから、もっとインパクト的にすごいのを想像してたよ」
俺は正直にいったんだけど。
「……十分すごいと思うけどねえ」
「え、そうなの?」
「こんなに脚を出したり、裸同然のものもあるじゃないか」
いや、ビキニの水着は仕方ないだろ。
「それは水着だから……って、脚を出すのもまずいのか?」
そういいつつ、堂々とさらしているオルガのきれいなおみ足を見たり。
「こら、そんなにまじまじと見るな」
「そうじゃなくて。オルガはいいのか?」
「旦那に見せるぶんには問題ないからな」
「旦那……」
「……今さらそこに反応するかねえ?」
「あーいや、そういう意味じゃない。俺、自分が妻帯者になるなんて想像したこともなかったもんで」
オルガがちょっと悲しそうな顔をしたので、あわてて訂正した。
で、ついでにちょっと気になったことも話そう。いや、ごまかしてるわけじゃないぞ?
「そういや話が飛ぶんだが。ご両親、行方不明なんだっけ?」
「うむ、そうだが?」
「そうか……いや、一緒になりますって、せめてご報告くらいはしたいが」
行方不明じゃ無理だよなぁ。
なくなっていれば墓前という手もあるが、それこそ縁起でもないし。
でも。
「もう百年以上経っているし、いちおう、いないという前提で墓はたててあるぞ」
え?
「もしかして、こっちでも墓前に報告って概念ある?」
「それはこっちのセリフだが……あるぞ」
「そっか。なら、あいさつにいかないとな。墓はどこにあるんだ?」
「魔族の領域だからな、当分は先だろう」
「そうか」
オルガのご両親の墓は、魔大陸ってとこにあるのか。
よし、おぼえておこう。
オルガとそんな話をしていたら、キャリバン号の中から「ゴー」というガスの燃焼音がしてきた。
ああ、そうか。
「アイリス、火なら外で使え。キャリバン号の中ではやらないほうがいい」
「はーい」
そんな声がしてきたんだけど、今度はオルガが反応した。
「火?いやまてハチ、アイリス嬢もだ!」
む、なんだ?
「もしかして炎を使っているのかねえ?」
「そうだけど?」
「すまない、説明を忘れていた。ここで本物の火はまずいんだ!」
あ。
「もしかして火気厳禁?」
「禁止なのもそうだが……最悪、ゴーレムが押し入ってきて問答無用で消火されるぞ」
「……あちゃー」
そっちは考えてなかったな。
俺が頭をかいていたら、オルガが「いい手があるぞ」と言い出した。
「いい手?」
「魔法陣を使うんだ」




