異世界のお金
翌朝。
ルワンさんが、なんか、ちんちくりんのパグ犬頭の商人をつれてきた……犬人族ってやつかな?名前をポドルさんというらしい。
えっと……ちっちゃい系の友達?いやいや。
いやーでもほんと、擬人化動物アニメの世界みたいだ。見てて癒されるから困ってしまう。
さて。
「ほう……ほう……おぉ!?」
「ルワンさん、これは……」
「ハチさんハチさん、これは何ですか!?」
キャリバン号の中を見た二人は、凄まじいばかりの食いつきっぷりだった。放っておくと内装をひっぺがして色々調べだす勢いで、俺はいちいちストップをかける必要があったくらいだ。
「いやーすごい、いやーすばらしい!さすが異世界モノ!宝の山ですなあ!」
「この箱ひとつで白金貨が何枚舞うだろうね?おっそろしいよねえ!」
「ですなあ。いやいや、私は今日この日のために生きてきたんですねえ」
って、何いってんだパグさん(仮)!
「あー、それで売りたいものなんだけど……調べてみると、これはいらないって言うのが意外になくてね」
スーツ上下と革靴セットなんてものもあるけど、もともと非常出勤用だし。唯一の正装用として残すべきかもしれん。
「ああ、それなんですがね」
俺の言葉に返事をしてきたのは、パグ犬のポドルさんのほうだった。
「今いただいているこのお茶ですが、これまだありますか?」
「え?○東紅茶?あるけど?」
二人はお茶を飲んでいた。
あいにく、うちにはキャンプの定番、四人掛けテーブルセットがない。なのでキャリバン号の後ろを開いて、小さい折り畳みテーブルをつかった。
え?
そもそもおまえ紅茶なんか持ってたのかって?
まあ、もともとうちにあったもんじゃないけどな。例のアレだよ。
来客なんて久しぶりだしどうしようって思ってたら、実家にあった来客用マグ四個、○東紅茶の50袋いりパック二つ、さらに、きれいな水の入った、登山などで定番のナルゲンっていう1リッターの強化ボトルまで出てきた。
覚えがあるものばかりだけど、キャリバン号に積んだ記憶はない。またやっちまったようだ。
これはまあ、お茶入れろってこったろ?
普段あまりつかわない中型ケトルで二人用のお湯をわかし、それでお茶入れたんだけど。
「これは異世界の紅茶でしょう?
異世界の紅茶はこちらではまったく手にはいりませんからね。最低でも同じ重さの金程度の価値はあるのですよ?」
「え、マジで?」
「はい、マジで」
この安物○東紅茶が、同じ重さの金と同価値だって?
この50入りって、中身の紅茶でも100グラムはあるよな?
「包装パッケージつきのほうがいいのかな?」
「はい、もちろん」
そういうことなら。
二つあるパックのひとつを出してやる。
「ほい」
「おお!いやしかし、これは全部じゃないですか?」
「別にいいです。これ実はもらいもんみたいなもので、俺自身は使わないんですよ。だからかまいません」
「おお、では……ではそれでは!」
ポドルさんはなにかそろばんみたいな道具をだして、あれこれ計算を始めて。
「こんなものでいかがでしょう?……南東金貨20枚で」
「ほう?ポドル、いいお値段だけど、アテでもあるのかい?」
ルワンさんが驚いた声で言った。
「ええ。実は某所でお茶会に使おうという話がありまして」
「え、中央貴族関連かい?僕としては、あまり君に危険なことはしてほしくないんだが?」
「ああ心配ないですよ、クライアントは聖国なので」
「あー……それで南東金貨?なるほど?」
なんか二人で無言のやりとりをしているし。
「あの、すみません。南東金貨って?」
「ああ」
ポドルさんがポケットから丈夫そうな布袋を取り出し、金貨を20枚出してテーブルに積み上げた。
「これが南東金貨20枚です。
南東金貨というのは、南大陸と東大陸で通用することからの通称で、正式にはエマーン金貨といいます。鋳造は東大陸のエマーン国で、品質は現世界で最高でしょう。一枚あたりの値段も高いですが、とにかく品質が安定していますので、金貨の基準としても使われています」
なるほど、俺がこれから行く所を推測したうえ、そこで使えるお金ってことか。
ああそうか、金主体だから貨幣そのものの品質が重要なのか。
「なるほどわかりました。
俺は異邦人で現状、お金の価値までは正しく理解していません。なので今回はポドルさんを信用して取引させていただきます。
そのうえで確認しますけど、これで問題ありませんか?」
「ええ、ありません。ハチさんこそ、何か質問や要望はありますか?」
「あります」
「それは?」
ポドルさんが身を乗り出してきたので、俺は答えた。
「この町で普通に買い物できるお金も少し欲しいです。上乗せでも一部交換でもいいですから」
「あ……ああなるほど!」
そういうとポドルさんはにっこり笑い、さらに見慣れないお金をやはり20枚ほど積んだ。こっちは銀貨か?
「では追加でこれを。中央銀貨です。食糧でも仕入れられるので?」
「はい。特に、青物……野菜があればいいんですけど、さすがに難しいですかね?」
「砂漠ですからね。保存のきくものが主体になりますが」
「ありがとうございます、見てみます!」
「いえいえ」
この後、しばらく二人と話をした。
そして、そろそろおいとますることにした。
「それでは、お世話になりました!」
「見せてもらった記録、それと町の入り口での対話の中継映像の内容だけど、商業ギルドのほか狩人、職人、冒険者のギルドから良い反応があったよ。
あと、南東国家群の会議があるんだけど、そっちでも関心をもってくれたので情報提示に君の許可を得ることになってる。問題ないね?」
「はい、お世話になります!」
頭を下げた。
そうそう。
あの時の自称商人のおっさんとの会話は、アイリスにバラサの町に翻訳中継してもらってた。それは町の人に見てもらうためだったんだけど、商業ギルドの対応は俺の予想の斜め上を行ってた。
つまり。
彼らは地球のドライブレコーダーみたいな魔道具で町や周囲を監視してて、アイリスの中継を記録、そのまま動画コンテンツでも共有するみたいにギルド間通信に回し、議論にのせてくれたらしい。
「すごい技術ですね。地球にもネットとかあるっちゃあるけど、ネットもないのにどうしてるんです?」
「あー、これはドワーフの古代技術なんだよ。今では我々ギルド関連と南・東・魔大陸国家群の会議用しかなくて、詳細なんかはわからないんだ」
遺失技術ってやつか。
「なるほど。なんで中央大陸にはないんです?」
「昔はこっちにもあったんだけど、戦乱とか略奪で接続が切れたっきりなのさ。今は交流もないしね。
ただケラナマーと聖国については再接続の噂もあったり、そこはまあ色々さ」
「なるほど」
大人の事情ってわけか。
「情報の件、本当にありがとうございます」
「僕らとしても君が『人間族と敵対する』とハッキリ表明してくれたのはありがたい。だから、そこは気にしないでいいよ」
ルワンさんは、うんうんと笑顔になった。
「君は正直者だ。
それに、ひとを害することを厭う、異世界人ならではの感性もきちんと持っている。
誤った情報にもおどらされてなくて、自分の判断で立場を明確にした。
僕らは君の決定を尊重し、そして歓迎するよ」
「……ありがとうございます!」
もう一度頭を下げた。
心配、そして好意。それがありありとわかったからだ。
「そういや、ひとつ質問なんですが」
「なんだい?」
「ムラク道ありますよね?大陸間をつないでる海底トンネルですが」
「ああ」
「そういうトンネルって、この世界にたくさんあるんですか?」
「ん?……もしかして古代遺構の大型トンネルってことかい?」
「はい」
「あるよ」
ルワンさんが大きくうなづいた。
「ふむ、そういう方面に関心があるなら、一度会って損のない人物がいるよ。名前だけでも憶えておくといい。
比較魔道学の第一人者で、同時に南・東大陸方面の古代機械や古代遺構の研究家で有名な人物だよ」
「おお」
そんな人がいるのか。
しかしその後、ルワンさんの口からとんでもない名前が飛び出した。
「オルガ博士といって魔族の女性だ。たまにこの町にもくるんだよ」
「え……オルガ・マシャナリ・マフワンですか?」
「おや、博士を知ってるのかい?」
「あ、はい。直接お会いしたことはないですが」
俺はやっとのことで、それだけ答えた。
「それじゃあね!」
「ありがとうございました!」
お礼をいい、キャリバン号を駐車場から出す。
「お」
一日ぶりのまぶしい太陽。
そして目の前には……砂漠の町が広がっていた。
「おー、あっちに見えるの市場かな。どこかに車止めて見学、かな?」
「パパ。市場の横に駐車場あるって」
「おう」
見れば確かに、それっぽい案内がある。
「よし、いってみよう。案内頼む」
「はーい」
俺はアイリスのナビで、砂漠の町の駐車場にキャリバン号を走らせた。
だけど。
「え、これが駐車場?」
「パパ?」
不思議そうなアイリス。
「あー……そ、そりゃそうか。ハハハ」
思わず、乾いた笑いがでた。




