ようこそ来訪者!
最初から全てを知って行く旅なんて、結末を先に知らされて読む推理小説みたいなものだと思う。
何もしらないからこそ、驚けるし感動できることがある。
旅と推理小説、両者に共通する事。それは犯人も背景も最初から全部わかっていたら楽しみが半減してしまう、という点だ。
だが全くの無知だと大損したり、大問題を引き起こす事もある。
正直、この線引きはなかなか難しい。
できればノーヒントの旅が最も楽しいのだけど、効率よく名所や店にスパッとたどり着きたい人にしてみれば逆にノーヒントなんてナンセンスだろう。
実際、俺だって無計画オーケーだけど宿を決める時は迷いたくない。
俺の場合、基本はノーヒントで、そういう最低限の部分だけ情報を駆使するのがいいと考えている。
このあたりのさじ加減は、それこそ各自でバラバラだろうと思う。
「駐車場……いや駒止めかな、これは」
ギルドの駐車場が地球のに似てたので油断してたけど、これは違うなあ。明らかに馬車とか、動物で引くものを留めるようになってるっぽい。
ああ、そういえばギルドの方にも手綱を留める仕掛けあったかな。床や壁素材に目がいってたけども。
広い空間が確保されていて、その広さはどこかオートキャンプ場を思わせた。
単に車を停めるだけでなく、明らかにテント村を配慮した広さ。
未舗装の地面も大きな石などがなく、全体が堅い芝生に覆われている。固定用のペグを打ち込むことを考慮しているとしか思えない。
そこまで見ていて、あっそうかと気づいた。
「なあに?」
「思えばこの町、つながってる街道ないんだっけ。『車』より荷役の動物を考慮して当然なのか」
「あー、うん。そうかも」
ははぁ、だから駒止め部分がやたらと目立ったのか。
キャリバン号が浮いてるから気にならないけど、普通の車両でこの町に来るのは難しいだろう。砂漠用の特殊な馬車を使っているのか、それともラクダの隊商みたいに荷を全部動物の背にあずけているんじゃないかな。
あいにく、今は一頭も留められてないからわからないけどね。
とりあえずキャリバン号を止めた。
そういえば首輪もリードもないんだよな。ラウラは抱いていくしかない。
「ラウラ、おとなしくしててくれよ?」
「わんっ!」
大丈夫かなぁ。
アイリスに抱いててもらおうかと思ったけど、すでにアイリスはタブレットを持って臨戦態勢だ。調べ物いつでもやりますよーって顔をしている。
うん、頼もしいね。
ラウラを抱き、お外で初めてのキャリバン号を離れての本格的行動となった。
「んー、さすがに少ないな」
市場を見つけた。
日本でしばしば見かける露天市によく似ていてわかりやすかった。俺は高知県の日曜市ってやつをよく知っているんだけど、あれにそっくりでちょっと懐かしかった。
それで問題に戻るんだけど。
「野菜がない」
砂漠の真ん中だし、当たり前か。
店番している猪人族……女性だよな……に尋ねてみた。
「お姉さん、ちょっと聞いていい?」
「あらお上手、何だい?」
反応軽いなオイ。
野菜について聞いてみると、ああという顔をされた。
「このへんでも作ってるけど生産量がまだ少なくてね、まだ身内で消費するのでせいいっぱいなのさ」
「作ってるんですか!」
それはすごい。
「緑黄色系……この季節じゃクータスばかりだけどね、欲しいならあっちの露天においき。オル葱とイモ類もその隣にあるさ」
「ありがとうございます!」
勧められるままに探し、芋類と一緒に交渉して買い込んだ。
あ、これデータね。
『クータス』
地球のかぼちゃに相当する作物。果実が固く重いが長期保存ができるうえに荒れ地でも育つので、世界中で栽培されている。
『サスース芋』
地球のサツマイモに近いが、日本のものより甘みが少ない。
『オル葱』
いくつかある。
大玉は紫玉葱の系列。サラダにもできる。小玉は3cmほどで、こちらも生食OK。
『マカ瓜』
地球のきゅうりに近いがサイズ的にはヘチマ。ゴーヤ(にがうり)を思わせる苦味をもつ。
暑い土地でよく栽培される。
保存のきく野菜ばかりと思っていたら好感触あった。
「瓜類あるのか!」
マカ瓜を見た時、思わず叫んでしまっていた。
「ウリ類?」
説明して、と言いたげなアイリスに応えてやった。
「瓜類は有用な作物が多いんだよ。地球でもよく使われてる」
かぼちゃ、スイカ、メロンはわかりやすいけど、キュウリだって瓜類だぞ。昔は黄色く熟してから食べてたんだ。
食べなくても使う。
ヘチマだってヒョウタンだって、みーんな瓜類なんだ。瓜はひとの暮らしに生きてるのさ」
「へぇ……」
アイリスは目を丸くした。
動物も似てると思ったけど、植物も類似点多いのか。
ああ、考えてみたらそうか。
動物だと転移の状況によっては生き延びるのも難しそうだ。
でも、植物なら?
果実や種の方が、生き延びて広がる確率はずっと高いのかもしれないな。
ここにある植物群に限ってみても、地球のそれと大差ない。
おもしろい。
なんか色々興味が沸いてきたぞ、この世界。
ラウラをアイリスにあずけてキャリバン号まで買ったものを運び、収納。
それを二度ほどやったところで、非常時でも肉や魚以外が食えそうになった。
あと、水も飲み水指定の湧き水があって、そこでポリタンに満たしてきた。
よし。
「とりあえず、これで人心地か。米はさすがにないかなぁ」
「んー……東大陸ならあるかも」
え?
「今の本当か?アイリス?」
「え?お米?」
「ああ、東大陸にあるって」
「あるよ。でもお米って色々あるんでしょ?パパの欲しいタイプがあるかはわかんないよ」
あ。
日本の米は長い年月をかけて品種改良されたもの。同じものがあるわけがない。
でも。
近いものならどうだろう?
「そうか、なら調べてみるしかないな。ありがとな!」
「役立ちそう?」
「ああもちろん!」
そんな会話をしていた、その時だった。
がしゃーん、と大きな音がした。
どこか硬質で、でも軽い音だった……そう。
まるで石畳の上で自転車でもひっくり返ったような?
なんだ?
そっちの方を見たら。
「……キックボード?」
倒れているのは銀色のキックボード。
あ、前輪壊れてるや。
そしてその横にひっくりかえっているのは。
「あいたたた……」
大きなリュックをしょった旅装束の女の子。高校生、いや大学生にはなってるか?
日本人っぽい顔の、びっくりするほどの東洋美少女……美女というにはちょっと童顔すぎるだろ。
それに。
似てる、いや似すぎてる。
夢に出てきた彼女、オルガに。
あのオルガの美女っぷりを、そのまんまJKまで若返らせたらそっくりだろ。
もしかして妹さんなのかな?
「大丈夫か?」
気づいたら声をかけていた。
「あ、はい、どうも……!」
俺の顔を見た途端、彼女は目を真ん丸にして驚いてた。なんなんだ?
それにしても。
彼女の目を見て気づいた。
ああ。この子はおそらく、見た目よりはるかに年上なんだろうなって。
え、理由?
彼女とよく似た目のひとを知っててさ。
でも彼女は、俺より五つも年上だったから。
いや、それはいい。今の問題はそこじゃない。
「怪我はないようだけど、あれで転倒したのかい?」
「そうなの。術式はいいんだけど車輪が壊れたみたい」
術式ねえ。
手を貸して立ち上がらせると、キックボードを見た。
なんの変哲もないキックボードに見える。15年くらい前に横浜あたりでもよく見たかな?
「よくわからないけど、あれはこの世界のものじゃないよね?」
「……ええ」
そういうと彼女は俺を見て、そして背後のキャリバン号を見た。
「お察しと思うけど、あなたの世界のものよ。長い事愛用しているんだけどね」
「こんな舗装路もないところで?キックボードはこんなところで使うものじゃないよ」
これは舗装された場所で使うものだ。
でもそういうと、彼女は笑った。
「それは、あなたの車も一緒でしょう?あれはどうして走れるの?」
「え?あれは車体ごと浮かせて……!?」
それで彼女の言いたい事が読めた。
「つまり、そのキックボードも浮いて走らせてたってか?」
「ええ。これは似たような術式を解析して私が組み込んだんだけどね」
くふ、と楽しげに笑った。
「それで、ねえハチさん。わたしが誰だかわからない?」
「!」
紹介してないのに俺の名前をいい当てた?
い、いやまて!
もしかして彼女は。
「ひとり心当たりあるんだけど」
「うんうん」
「最初に確認するけど、きみは魔族ってやつだろ?」
「もちろんそうよ!この世界で黒目黒髪は、異世界人以外じゃ私たち魔族しかいないわ!」
やはりか。
「じゃあ、間違いない。君はオルガ──」
「あは、やっと気づいてくれたのね。そうよわたしが」
「──の妹さんか?年下っぽいけど瓜二つだもんな!」
「はぁ!?」
彼女は俺の顔を見て絶句して。そしてなぜかアイリスの方を見た。
え?アイリス?
なんでそんな「医者もだまって首をふる」みたいな顔してるんだ?
そして彼女はためいきをついて。
「……何をボケた発言してくれちゃってんのかねえ、この男は」
「お、その言い方だとますますお姉さんそっくりだな!」
「いや、せっかくだし可愛い方が好みかと見た目相応の言い方にしてみたんだけど、理解してくれないみたいだからねえ……戻すとしよう」
そういうと、彼女は夢の中のオルガと同じ表情をして見せた……造形はだいぶ若いけど。
「えっと、まさか……オルガ本人?」
「ああ、そうだとも」
そういうと自称オルガな美少女は姿勢をただし、なぜか腕を身体の前で組んだ。
って、その微妙に斜めからのマンガっぽい視線はなんなんだ?
「やぁ、ようやく会えたね。あえて言おう……『ようこそ来訪者』と!」
「いやいやいやちょっと待て、どういう事だいったい!?」
俺は呆然と、自称オルガの黒髪美少女をみつめた。




