オルガ
オルガ・マシャナリ・マフワン。
この世界の魔族という種族の女性で、夢というカタチで俺に接触してきた存在。この世界で最初に知り合った『にんげん』であり、ぜひ実際に会いたいと思っていた人物。
ただし。
夢の中ではもっとこう、ボン、キュ、ボンな感じの妖艶な美魔女だったわけだが?
なんというか。
素材が同じなのはよくわかるけど、なんでここまで若いんだ?
「これはわたしとしても計算外なのだねえ、すまないねえ」
「謝る必要はないよ。ただ夢と今の見た目が違う原因?については知りたいんだけど?」
まぁ、今のオルガでも根っこの魅力は変わらないだろう。さすがにちょっと若すぎるとは思うけど、いずれあの妖艶な姿になるんだろうし、そう思うとむしろ楽しみなくらいだ。
ただ、なんであの美魔女で妖艶ないい女が突然若返っちゃったのか?
そこについては知りたいね。
「実はね、わたしも信じられないんだが……あの夢のあと目覚めたらこうなってたのさ。証拠はこれ」
そういうと、オルガは荷物の中から衣服らしいものを引き出し、そして広げた。
「うわ、なんか色っぽい!」
「寝間着だからねえ、そこはまぁ許しておくれ。ま、ぶしつけですまないが証拠にちょうどよくてね」
ネグリジェみたいなもんか。
いやはや、それにしても色っぽい服だわ。エロエロしい。
「ずいぶん熱心に見ているねえ」
「あ、ごごごめん!」
なぜかクスクス笑われた。アイリスまで笑ってた。
なんだかなぁ。
「まぁ、いいさ……ところで、これのサイズが大きいのはわかるかねえ?」
「うん、それは確かに」
女ものの服の区別はあまりつかないが……これをオルガが着たら胸が余るんじゃないか?
だってさ、どう見てもムチムチ通り越して、ぼよよんサイズだよ。
ほら、たまに18禁コーナーで見かける、こいつ人類でなくUMAだろうってサイズの巨大な乳が生えてる女の漫画があるだろ?
夢の中のオルガは、あれほどのサイズではない。でも充分にでかくて、しかも全く型くずれしてないという人類の半分を敵に回すようなすんげー美乳だったんだぞ。
それがなんと。
これのサイズから、一夜にして今の身体になったと?どうやって?
「……ハチ。言いたい事はわかるけど、そうも穴のあくほど見比べられると困ってしまうねえ」
「うわごめん!」
「フフ、さっきから謝ってばかりだねえ」
ずいぶん楽しそうに笑うオルガ。なぜか上機嫌だった。
「まぁ、サイズが変わっちゃったってのは理解した。でもどうしてそんな事になったんだ?」
何しろ、ここにおっさんが若造になった実例がいるからな。現象としてはありえるんだろ。
でも、どうしてそんな事になった?
「仮説はあったんだけど、こうしてみれば一目瞭然だねえ」
「というと?」
オルガは俺を見て、そしてクスクス笑った。
「見た目が君と同年代に近くなっているだろう?つまり理由は簡単さね」
「つまり?」
「原因はハチ、君という事さ」
……はぁ?
「意味がわからないんだけど」
首をかしげていると、アイリスがひきとってくれた。
「あー……確かに。パパの魔力に汚染されているもんねえ」
「そのようだね、えーと眷属どの?」
「アイリスでよろしくオルガ博士。それで文献とは?」
博士?
「オルガでいい、こちらこそよろしくアイリス嬢」
「うんうん。
それでさっそくだけどオルガ、どうやってパパの夢に入り込んだの?」
「うむ、わが母が残した研究資料を用いたのだ」
「リーマ・マフワンの遺産?」
「ああ……母の事もご存じとは、さすがだな」
「驚くことじゃないでしょう。貴女もかつては眷属を連れていたのだから」
「まぁね」
なるほど。
よくわからないけど、彼女には彼女の事情があるってことか。
「お察しの通り、わたしは母の研究成果を利用してハチに接触した。
まぁ、他人の夢と直接接触するなんて技術は失われて久しいし、危険も大きすぎる。調べた物好きも他にいないだろう。そもそも母のそれも本来の研究の副産物のようなものだったし」
へ?
「ちょいまち」
「む?何かな?」
「失われた技術て……元々あったものを、オルガのお母さんが復活させたということか?」
「いい質問だねハチ、その通りだとも。
この技術は母の研究分野だった。
わたしの両親は共に行方不明になってしまっているんだが、それぞれ、共に違う方向から時間や空間を制御する技術を研究していたのさ。
もっとも今回の結果をみれば、夢に干渉する技術を母が封印したのもよくわかる。これは危険すぎる。
残念だけど、私も封印する事になるだろうね」
「?」
意味がわからない。何が言いたいんだ?
「ふむ、ちょっと説明の仕方が悪かったかな?ではもう少し簡単に言おう。
わたしの容姿はもっと歳上だった。君と夢で接触するまではね。
しかし、君の夢にとらわれてしまった事で、君の莫大な魔力の侵食を受けてしまった。この外見はそのせいなのさ。
だけど、本当にまずいのはそこじゃないんだ」
「どういうこと?」
いやな予感がした。
でも、聞かずにはいられない。とても大切なことに思えたからだ。
そしてそれは間違いじゃなかった。
「君の魔力にあてられて容姿が変化したというのなら、接続をきれば元に戻るはずとは思わないか?
なのにわたしはこの通り、若返ってそのままだ。ここまで言えばわからないか?」
「!」
それは。
「そう、切れないのさ。色々試したんだけどね。
わたしの精神は君の精神に食い込まれ、どうにも逃げられなくなってしまった。君という魔力装置の一部として取り込まれてね」
「あの……それってまさか」
おそるおそる言うと、オルガは「くふっ」と楽しげに笑った。
「つまりわたしと君は、一夜にして他人でない関係になってしまったわけだ!ははは、おもしろいだろう?」
「わらいごとじゃないだろそれ!?」
ケラケラと笑いだしたオルガに、俺は思わず叫んでしまった。
「そうだな、確かに普通なら大問題だろう。最悪、君を殺してでも接続を切らねばと思うところのはずだ。
だがしかし、だ」
そういうと、オルガは何故かうっとりと俺を見た。目が潤んでいる。
え?
えっと、なに?
「な、なんだよ?」
「……君ならかまわない、そう思うのさ。
こうやって今、君に対峙しているわたしの心境がわかるかい?」
「えっと、ごめんわからない」
「だろうねえ……フフフ」
えっと。
なんだろう。この、ものすごく「捕獲された」感は?
ていうか。
ほとんど初対面の美少女にうっとり目線で確保されるとか、どこの主人公だよと。
だけど、そんな俺の葛藤をオルガはまるで気にしてなかった。
「こうして見ると……いやいや、本当におそろしいほどの魔力量だ。我々魔族には目の毒だよ」
「……目の毒?」
「ハチ。君は、自分好みの女が全裸で君を誘っていたら、どう反応する?」
「……」
目の前の美少女オルガを見て、そして夢の中の美女オルガを思い出した。
「ああわかった、なるほど目の毒だな」
「なにげに失礼な回想をしてないかねえ?」
「気のせいだ」
やばいやばい。
「ただ、ちょっとこの魔力量は異常だな。いったいどうしてこれほど?」
「キャリバン号、つまりこのクルマのせいだよ」
アイリスがすかさずコメントした。
「確かに騎乗物を召喚した異世界人は魔力が多い傾向があるが、しかしそれでもなお多いぞ?」
「これは飛竜や騎乗動物じゃなくて器物に属するから」
器物?
首をかしげた俺に対し、オルガは「ああ」と納得した。
「つまり、移動したり何かの能力を使えば使うほど、日常的かつ一方的に魔力を消費する存在ってわけか」
「そう。しかも転移直後に召喚を行って、それから常に大量の魔力を使い続けてきたわけだし」
「……そりゃ莫大になるわけだねえ」
オルガが、妙に色っぽいためいきをついた。
「これほどの力を内包してなお、ひとのカタチと意思を維持している存在か。
すばらしい。
これはむしろ、わたしとしての意識を保ったまま取り込まれた事に感謝すべきか……フフフ」
「……」
あの。
なんか知らないけど、すごく自己完結しちゃってるんですけど?
あと……そのエロい吐息やめてくれる?色々元気になりそうだから、あの?
「えっと、あの。オルガさん……って、あれ?」
「ん?」
「いや、えーと?」
オルガの左肩の上あたり。
うまくいえないが、何か空間が歪んでいるというか、向こうが歪んで見えるぞ?
「む?ああ、そうか」
俺の疑問に気づいたらしいオルガが、そのあたりに手をやってポンポンと叩いた。
「おいササヒメ、ちょっと起きろ」
「ササヒメ?」
「わたしのケルベロスだ。ちょっとワケアリで爆睡してるんだが」
「お」
なんか、何もない空間がピュッと裂けて、そこから首が3つ覗いた。ちょっと眠そう。
おおケルベロスだ。真っ黒だ。
ラウラと違って精悍な感じがするが、間違いなさそうだ。
「くぅ~ん?」
「なんだ、わたしの逢瀬に気をつかってくれていたのか?かまわんと言ったろうに」
「わんっ!」
「わんっ!」
存在に気づいたラウラが吠えて、そしてササヒメだかの方も返答した。
そしてササヒメの方が謎空間から飛び出すと、ラウラも反応して動き出した。二匹はそれぞれニオイを嗅ぎ合うと、走り回って遊びだした。
うむ、本当に犬と変わらないな。首三つだけど。
「気があったようだな。よしよし」
「あの子はオルガのか。でもササヒメって?」
名前からすると女の子なんだけど、なんかおかしくないか?
「うむ、異世界由来の名前だ。ちょっと優美かもしれないが男らしい名だろう?」
「……は?」
「え?」
思わず、まじまじとオルガを見てしまった。
あー……もしかしてそういうこと?
「ナ、何かねえ?」
「ササヒメって日本語?」
「うむ」
「だとしたら完全に女の子の名前なんだが」
「……え?」
オルガの目が点になった。
ああ、やらかしたんだな。
その微妙にひきつった顔を見て、俺はためいきをついた。
「ヒメってお姫様のことだぞ。男につけたら男の娘なんだが。
あと笹の葉も強そうな男のイメージじゃないと思う」
「……やっちまったかねえ」
あははとオルガは苦笑した。
「ま、いい。とりあえず天幕を張ろうじゃないか」
「天幕?」
もしかしてテントか?
おお、異世界式のテントとなると興味ありありだが。
でもなぜ今?
まだ陽は高い。
それとも、精鋭に時間がかかるのか?
「空を見たまえ。雲行きが怪しいようだ」
「え?……あ」
そういえば、上空に怪しげな雲が増えている。いつのまに?
「ここバラサは砂漠の町で、当たり前だが年間降水量なんぞ基本はゼロなんだ。
しかしごくまれに、短い時間だが大雨が降る事があるそうだ……わたしも初めて見るんだが。
さすが強運だな、ハチ?」
「全然うれしくない強運なんだが。ちなみにその天幕って大丈夫なのか?」
テントは悪天候に弱いイメージがあるが、それはファミリー用や古いものの場合の話だ。
たとえば、きちんとセオリーをおさえて立てられた山岳テントは、悪天候では非常に頼もしいものだ。何しろ過酷な高山でも使うものだからな。
だがもちろん限度もある。
最悪、キャリバン号の中に避難するか、屋根の下に逃げる必要ないか?
そしたら。
「問題ない。わたしの天幕は洪水にならない限りは問題ないからね」
そういって、オルガはフフッと笑った。




