第七話 大きさの伝え方
翌朝、長靴を日に当ててからギルドへ向かった。
建物の前では、護衛らしい二人組が荷車の男と話していた。中に入ると、受付の向こうで職員が地図を広げている。俺の顔を見るなり、手を上げた。
「シュウジさん。水門の件で、お話を聞きたかったんです」
「もう届いてるのか」
「今朝、管理の方がいらして。荷車ほどある魔物を、抱えて運んだと」
だいたい合っている。頷くと、職員は地図をこちらへ向けた。
「移した場所を教えていただけますか。川へ行く方に知らせておきたいので」
俺は水門から指を動かし、上流の曲がり角を示した。畑を抜けて、林が始まる辺りだ。
「この先の深み。崖側に岩が張り出している所だな。近くに人の使う道は見当たらなかった」
「ええ。水汲み場ももっと下です。泥甲亀なら、刺激しなければ居着くこともありますね」
対応が早くて助かる。昔いた町では、報告の絵まで描かされたことがあった。俺の描いた魔物は、受付から「脚のある袋」と呼ばれた。
「討伐ではないので素材はないぞ」
「はい。水路の安全確保として、町の担当者にも確認します。お支払いできる分があれば、次にいらしたときに」
「急がないよ」
書類を書き終え、掲示板へ目を向けた。街道の護衛と薬草の採取、その下には荷物運び。以前来たときに見かけた紙も、何枚か残っている。
端の一枚を読もうとすると、横から若い職員がそっと顔を出した。
「あの、本当に持ったんですか」
「亀を?」
「はい。あの大きさのを」
「荷車くらいだよ。管理の人が言った通り」
若い職員は自分の腕を見下ろした。
受付の職員が、俺の登録証を返しながら言った。
「Aランクの方ですからね」
「いや、Aでも全員が持つわけじゃないぞ」
そこは伝えておいた。よそのAランクが困る。
*
家へ戻ると、マリーが鍋を火から下ろしたところだった。今日は来てもらう日だ。俺は手を洗い、材料代と昨日の修理代を書いた紙を渡した。
「水門は直ったんですね」
「ああ。金具は二つだけ使った」
「亀がいたと母から聞きました」
パン屋まで届いている。俺より早く町を回っているらしい。
「そっちは川の上へ移したよ」
「近くで見ても大丈夫だったんですか?」
「近くというか抱えて運んだからな」
マリーの手が止まった。
「持ったんですか」
「ああ」
「腕に収まるくらいですか?」
「荷車くらいかな」
マリーが通りの荷車へ目を向けた。粉袋を積んでパン屋へ向かっている。
窓の外から声がした。昨日の水門の男が、葱の束を抱えて立っている。
「今朝はちゃんと水が来たよ。家で使ってくれ」
礼を言って受け取ると、男はマリーに気づいた。
「マルタんとこの娘さんか。昨日は助かったよ。あんな亀、自分たちじゃどうにもならん」
「本当に荷車くらいあったんですか?」
「荷台いっぱいだな。あの背中なら、粉袋も載るんじゃないか」
「載せるなよ。せっかく引っ越したんだから」
男が笑った。マリーは通りへもう一度目を向け、俺の手元の葱を受け取った。
「ではお昼に使わせていただきますね」
「そうしてくれ。畑にまだあるから、足りなくなったら言ってくれよ」
*
昼飯には、もらった葱を入れた汁物が出た。ナギも自分の皿を空にし、戸口で腹を床につけている。
マリーが洗い物を終え、庭へ長靴を取り込みに出た。
「まだ少し湿っていますね」
「夕方まで置いておこう。替えはある」
彼女は長靴を少し離して並べ直し、こちらへ戻った。
「中へ布を入れておきます。あとで取り替えてください」
「助かる。昨日は泥も入ったからな」
「普通にお洗濯できそうでよかったです」
マリーが笑った。俺も頷き、干してあった布巾を一枚畳んだ。




